Battle no.1尻拭い
強くなる以前に、やはりここのメイドたちに償いをしたい。
彼女らは今まで散々僕に虐待されたから、それを無視できるほど僕のメンタルは厚かましくない。
それに、強くなるために、サポートしてくれる人も必要だから。
彼女たちを振り回している自覚はある、でもそうしないと僕はどこか始まらない気がした。
「僕、がんばるぞ!」
メイドたちの現状を改善できる手掛かりを探ろうと、僕は記憶を掘り返す。
そもそもここにいるメイドたちは僕に酷くいじめられてきたのにも関わらず、脱走者どころか、退職者が出ることは一度もない。
いくらここは名家で給料がよくても、僕のことが耐えられないメイドが一人もいないことはおかしい。
そしてこの懸念の答えは記憶の奥にあった。あれは今以上に幼い頃の私への、お母さんからの数少ないプレゼント。
「やはりここにあった、よく保存されてるね」
タンスの奥から大事に置いてあった宝箱の中から書簡のような紙を持ち出した。
宝箱の方に視線を戻す。中にいるのは古い人形や高級そうな帽子など、種類はそれぞれ。
それは全部、お母さんがナタリーにあげたものだ。
「親がクソってのは大変だな」
前世の記憶がある僕は平気だが、寂しい子どもであるナタリーにとって親の愛は滅多にないものだと思う。じゃないと何もかもここまで大事に保存している訳がない
どんな人にも悲しき過去、ってやつかな。
「それでもやっていい事とダメな事はあるけどね」
過去の自分に同情するのをやめて、書簡に目を通す。
あの契約書は奴隷契約であった。
内容によると、もし主人(僕)に攻撃行為や指定された時間以外にこの屋敷から離れると、強烈電気ショックを受けるらしい。
僕のメイドたちは、全員奴隷であった。そのせいで誰も僕に反抗できない。
ちなみにこの国には奴隷があるが、知識の中では犯罪奴隷や借金奴隷などの何かを犯した人しか奴隷にならない。契約書によると僕の世話をするメイドは基本借金奴隷らしい。
一人を除いて。
「なんでマリアは犯罪奴隷?」
おそらく僕と歳が近い、あんなかわいらしい少女が罪を犯す? 中々想像できなかった。
それに記憶を思い出した時の様子では、マリアは結構他のメイドから気に入られているみたいだし。
「どうでもいいっか、欲しいものを見つけたし」
奴隷契約を見つけたので、僕は早速メイドたちを屋敷の庭に集めた。
メイドたちはブツブツと話しているが、恐らく僕のこれからの行為に対して不安を感じているだろう。
「どういうこと?」
「まだお仕置き?」
くくっ、その不安もすぐ消えるけどね。
「皆さんをここに呼んで来た理由は他でもない、みなさんの奴隷契約についてのこと」
僕が奴隷契約を持ち出すと、全員が一気に静まってしまう。
彼女らの目から恐怖や混乱が見える。
恐らく私がなにかの難癖を付けて、奴隷契約を厳しくすることを心配しているだろ。
その中で一人だけ、マリアは鋭い目つきで僕を真っ直ぐに見つめている。
「長く話す気はありませんので、単刀直入に言います、みなさんは今日から自由になります」
宣言と共に、僕は契約書を破った。
屋敷の図書室で調べてみたが、どうやら契約書は契約主によって破られたら効力が無くなるらしい。
契約書を処理した後、僕はメイドたちの前に行き、用意した袋から十数枚の封筒を持ち出し、メイド一人一人に九十度謝罪しながら封筒を渡す。
「これは今までの給料兼慰謝料っす、今まで本当に申し訳ございませんでした、もし中身が足りなかったら遠慮なく言ってください」
ここにいるメイドたちは給料を貰っているかどうかは知らないが、僕のいじめの慰謝料は絶対に必要と思う。
「この金で借金を支払って、ここから離れて人生を堪能するのもよし、メイドとしてここに残るのもよし。もしここに残る場合だと継続的に給料を渡しますので、好きな方を選んでください」
これでも一応貴族の娘なので、お小遣いをアホほど貰っているんだ、給料として渡す分は余裕に持っている。
僕は親のお金で威を振っているだけ?
ククク……ひどい言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど。
それにしてもみんな静まっているな、そこまで僕と話したくないのかな。
「疑問がないみたいなので、ここから離れる人はさよなら、ここに残る人はこれからもよろしく、好きなだけやっちゃってください。じゃあ今日は解散」
自分のやらかしの後片付けしただけなのに、なんだかいい事をした気分で、気持ちが凄く爽やかだ。
ファー眠い、部屋に戻って二度寝でもするかな?
そう思っていると、なぜかメイドたちの肩はブルブルと震え出し始めた。
「あの、何か問題でも……?」
「「「なん、なんですってー⁉︎」」」
メイド全員が叫び声をあげた。
みなさん反応速度遅くないですか?