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Battle no.1獣人メイドマリア

 逃げようとするマリアを止めて、とりあえずお話することになった。

 元のナタリーの記憶があるとは言え、「僕」としてはここの異世界人と普通に対話したことがない。

 そして相手は獣人。ゲームの中だと敵やNPCとして登場することが多く、キャラとしてお話しすることがほとんどない。

 だから今回の機会を逃したくない。

 

「良ければそこに座って」


 化粧台の椅子を引き出し、マリアに座らせようとする。

 でも彼女は何故か驚いた顔をして、微動だもしなかった。


「どうした? もしかしてベッドに座る方がいいのか?」

「メイドの私が、主の前で座るのはどうかと」


 なんで? と言いたがったが、昔の僕も僕だし、こんなクソみたいな規則があるのもおかしくない。


「気にしなくていいよ、今の僕はそういうの気にしないから」


 警戒心を減らすために、僕は喋りながらマリアに微笑む。

 当のマリアというと……


「僕……? どういうこと?」


 そう呟く。警戒心を消すどころか、酷く引いている様子であった。

 それもそうだよね、今まで自分をいじめてきた人が妙にやさしくしているから、不気味じゃ不気味だよね。

 

「いいからいいから、椅子に座って」

「さすがにそれは」

「じゃ命令で、マリアは椅子に座って」

 

 マリアを強制したくないが、このままだと埒が明かないので、命令することにした。


「私の、名前?」

「そうだけど、どうした?」

「いえ、なんでもありません」


 納得してくれたのか、マリアは僕の隣に座った。

 彼女の顔を見る。白い髪、小さなケモ耳、幼さが残ったかわいらしい顔。ゲームの登場キャラじゃないなのに、その容姿は前世のアイドル以上にかわいい、さすがギャルゲー世界しか言いようがない。

 でも彼女の顔はどう見てもここの居心地を良く感じ取れているものじゃなかった。

 そんな彼女に申し訳ないが、このままやめると逆に警戒心が上がる気がしたので、心を鬼にすることにした。


「お疲れ様、何かを持って来たみたいだけど、どうしたの?」

「お嬢様の体を拭くためのタオルですが」


 マリアの手にあるバスケットの中を見ると、そこには水と濡れたタオルがあった。


「どうしてタオルを……?」


 いくらわがままお嬢様だったとはいえ、お風呂せずにメイドに体を拭かせるようなことしないはず、してないよね僕?

 恐る恐るマリアにタオルを持って来た理由を聞く。


「お嬢様はここ数日高熱に陥ています、ご意識がありませんので仕方がなく」

「えっそうだったの⁉」


 マリアの話しによると、どうやら僕は記憶を思い出すショックで高熱になって、ずっと寝ているみたい。

 やばい、僕のマリアに対しての申し訳なさが爆上げする一方である。

 だって数日間嫌いな人の下世話をするなんて、僕にはできない話だ。

 もうダメだ、とりあえずマリアに謝らないと。


「ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」


 僕は頭を下げて、彼女に謝る。

 彼女の脳内にはてなマークが浮かび上がるのが分かる。


「それって、どういう意味ですか?」

「だって、僕みたいなクソお嬢様の面倒を見るなんて嫌いでしょう、なのに下世話までさせて」


 今回だけじゃない、マリアに出会ってから、僕は彼女を傷つくことしかしなかった。

 それでも理由はどうとあれ彼女は僕の世話をしてくれた。

 だからこれは僕が見せるべくせめての誠意だ。

 僕の謝罪を聞いて、彼女はフリーズした。きっとこんな言葉を聞くなんて思わなかっただろう。


「大丈夫?」

「……」

「おーい」

「……」

「ちょっとマリア⁉」

「はい⁉ なんでしょうか」

「意識が戻った」


 思い返してみれば、出会ってからマリアは僕に敵意しか見せなかった。最低限の対話しかせず、どんな時でも僕を睨むマリアに、クールキャラの印象を抱いていた。そんなマリアが今までにないほどにてんぱっている姿を見て、思わず笑ってしまう。


「ハハっ」

「お嬢様?」

「ハハっ、ごめん、なんでもないよ」


 笑うのはいいが、対話する方が大事なので、とりあえず話を戻す。


「そういえば、腕は大丈夫か? この前凄く血が流れたから」

「腕なら完治しました、跡も残っていません」


 流石は獣人、回復能力が高いな。

 ちなみに今さらだけど、獣人というのはケモ耳や尻尾がある人種のことで、身体能力は普通の人間より上らしい。


「良かった。そのことについては本当にごめんなさい、どうでもいいことを理由に君は叩くとか、もう二度としない!」


 マリアに再び頭を下げる。


「高熱で頭がおかしくなったのか……」

「やはりそう見えるのか」

「聞えましたか⁉」


 僕に呟きを聞かれたことが分かった瞬間、まるで戦闘態勢に入ったように僕を睨む彼女。

 きっと僕が怒って酷いことをすると思ったのだろう。


「待て待て! だから僕は何もしないって、それにマリアの言ったことはごもっともだし」

「……」

「心配ならここから出てもいいよ、もう話したいことを話したし」

「お嬢様がそう言うのなら」


 許可が得られたので、マリアはそれ以上語らずにドアの方へ行く。

 

「良かったらまだお話しようよ!」

「……」


 僕の言葉に答えず、彼女は部屋から出て行った。

 やはり必要以上に僕とお話をしたくないようだ。

 でも謝るべきことは謝った、これだけでも十分お話の成果が出ている。


「さって次はどうしよっか」


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