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Battle no.1異世界転生ってやつ

 わたくし、ナタリー・オークスは役立たずの汚らわしい獣人のメイドをお仕置きしている。

 彼女はお母様が先月くれた、9歳誕生日のプレゼントであるティーカップを壊した。

 鞭を振り、魔物のような耳が生えている頭を叩く。


「よくもわたくしの大事なティーカップを割ってくれたわね、この獣人め!」

「……」

 

 どんなに叩かれてもなにも言わない獣人を見て、わたくしは何度も鞭を振り回す。


「よくも! よくもわたくしを無視してくれましたわね! 生意気だわ!」


 こいつもいいお母様もいい、みんなわたくしを!

 何が「オークス家の出来損ない」なのよ! なぜ誕生日プレゼントすら対面で渡してくれないの! お母様にとってわたくしはなに⁉︎

 叩いていると、周りにいるメイドたちがざわざわと声を立て、やがて一人が声を上げて、いさめようとした。


「もうやめてくだ……」

「あなたも彼女のように見せしめにされたいの⁉ あなたが代わりになってもいいわよ!」

「ひぃぃ⁉」


 わたくしの怒号に悲鳴をあげるメイド。

 メイド如きが高貴なるオークス家の令嬢に口答えするなど、百年早いわ。


「あなたも悲鳴を上げなさい! そうしたら許してあげなくもないわ!」

「……」

「わたくしのお情けを無視したわね! もういい、死ぬまでたっぷり叩いてさしあげるわ!」


 手を上げ、殺す勢いで思いっきりの大振りをする。


「……!」

「やめて!」


 恐怖のあまりに目を閉じる獣人に鞭を振ると、邪魔なメイドが叫び、動揺したわたくしの鞭は外れた。

 そして勢い余った鞭はわたくしに高速で飛びかかる。思わず間抜けな声を出したしまう。


「えっ」

「「「あっ」」」


 反応できない。空気が割れる音が聞こえる。頭を強打した。

 わたくしの意識が暗闇に沈む気がした。


 ……


 痛っ。頭めちゃくちゃ痛いんだけど。

 暗闇の中、強烈な痛みが僕に襲い掛かる。

 その痛みと共に、僕はなんだか目覚めた気がした。

 とりあえず目を開けると、見たことのない光景が目の前に広がる。

 最近に目に入ったのは、座っている僕の前で集まり、何かを囲んでいるメイドらしき人たち。

 周りを見渡すと、僕は今信じられないほど大きな廊下にいることが分かった。

 豪華そうな灯と綺麗な絵画が壁に羅列していて、所々中世の城にいそうな装飾品が並んでいる。

 僕の知る日本では有り得ない光景、凄い金持ちならありえるかもしれないけど、普通の高校生である僕とは無縁のはずだ。


「ううんどういうことなんだ?」


 そう呟くと、目の前のメイドたちは逃げるように散開した。 残った数人はなにかを庇うように身を低くしている。

 そしてメイドたちの中心から可愛らしい声が聞こえた。


「私は大丈夫だから、だから離れて」

「だけど……」

「大丈夫」

「わ、分かったわ」


 囲むメイドたちはその声に従って、その中心から離れる。

 その可愛らしい声の主は、右腕をかばうような姿勢をしている、妙な寝ぐせがついている白髪の幼いメイドであった。

 何故か彼女は敵意に満ちた目差しで僕を睨んでいる。知らない人とはいえやはり心が痛む。

 彼女から離れる方がいいかなと考え、とりあえず立ち上がるとするが、僕はまだ驚く。


「なっなんだぁこのフリフリドレス!?」


 自分の足元に視線を移すと、自分は足元が見えない程の大きなドレスを着ていることが分かった。今いる場所といい、メイドといい、自分の服といい、全部金持ちの世界のものばかりでまるで意味がわからない。

 でもこの驚きは一瞬で上書きされた。

 立ち上がって数歩移動すると、隠されている白髪の少女の右腕が目に入った。

 その上腕から、たくさんの血が流れている。

 それを見て、僕は慌てて少女の元へ走った。


「大丈夫っすか⁉」

「……」


 少女は相変わらず僕を睨んでいる、でも今はそれを気にする場合じゃない。

 彼女の上腕にある大きな傷口が見えた、皮膚が鞭に引掛かったせいで思いっきり切られたと思われる。


「どうしようどうしよう!」


 今までこんな傷を見たことない僕は思わずてんぱってしまう、それでも傷口の痛々しさだけが嫌な程伝わる。

 すると止血という言葉が頭に浮かび上がり、そこからの行動は我ながら迅速なことであった。

 あの邪魔になる程の豪華なドレスの一部を引きちぎり、その布で少女の上腕を巻く。


「……!」

「少し痛いから我慢してて」


 少女にそう言いながら、僕は全力で布を締める。

 痛いけど、そうすれば少し止血に役立つだろう。


「うんん」

「ごめんな、我慢できて偉いっすよ」


 小声で悲鳴をする少女に慰めの言葉をかけて、頭を撫でようとすると、今日三回目の驚きがやって来る。

 寝ぐせだと思ったものが動いた。

 いや、もっと近くて見るとそれはまるで犬耳のようなものであった、まるでアニメキャラを見ているようだ。

 でもそっか、彼女は獣人だし、ケモ耳は当たり前か。

 そう納得し、改めて頭を撫でると、少女はまるで幽霊でも見ているような怯えた表情になった。

 やらかしたと自覚した僕は動揺し手を離す。


「ご、ごめん」


 なんだか居心地が最低になった。これ以上彼女といることは得策じゃないと思い、僕は怯えている他のメイドに声を掛ける。


「メイドさん? たち、すみません」

「は、はい⁉ なんでしょうか!」

「この子を手当してくれないっすか? 傷口がひどくなるかもしれないので」

「どういうことなの……?」

「お願いします!」

「分かりました!」


 どこか気が気でないメイドたちは少女を支え、彼女を心配する言葉をかけながら早足で僕から逃げた。


「大丈夫かマリアちゃん」

「大丈夫」


 なるほど、彼女の名前はマリアか。何年間彼女にお世話されたのに、名前を聞くのは初めてだな。

 とりあえず一件落着ってことで、僕は自室に戻る。

 部屋に入り、柔らかいベッドにダイブする。相変わらず最高の寝心地である。

 

「いやちょっと待てよ」


 冷静になって、僕はようやく自分の異常さに気付いてしまう。

 なんでマリアの傷口は鞭のせいであることが分かった? なんで獣人の存在を当たり前のことと思っていた? なんでこの知らない部屋のことを自室と思った?

 そう思ったと同時に、強烈な頭痛が襲ってくる。


『魔力が、殆どありません!』

『あなた本当に私の血が流れているの?』


 知らないイメージ、というか記憶が頭に入ってくる。

 意味が分からない、思考ができない、でも気が狂いそうってことだけが分かった。


『あなたは我がオークス家の長女、ナタリー・オークス』

 

 この声と共に、僕の意識は消えた。


 ……


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