第32話:ヴィーナスの要求
「・・しょ・・証明・・?」
イヤな予感を感じながら聞き返した・・。
「そう。証明ー。」
彼女はそう言って、ニッコリと笑ったー。
今までの経験上、彼女がこんな風に笑う時にはろくな事がないとわかっていた・・。
「美月さんこの間言ってたわよね? 『この一年で私と打ち解けたい』って・・。 一年待ったら必ず『約束』を守ってくれるって・・。」
・・言ったね。 そんな事ー。
「じゃあね、じゃあね・・」
彼女は小学生のように目を輝かせて言ったー。
「・・私の事・・ハグして?」
「・・はい?」
私は目が点になったー。
「・・ハグ・・?」
「そう。 ギュッて抱きしめるの~♪」
そう呟くと彼女は両手で自分の体を抱きしめるふりをした。
「・・誰が・・誰を・・?」
「・・当然♪ 美月さんが、私をー。」
可憐さんは当たり前の事のように言うと、「アハッ☆」と笑った。
「・・な・・何で私が・・?」
動揺しながら答えると、
「ハグよ? ・・外国ではあいさつ。
それすら出来ないで『私との約束を守るつもりだ』なんて言われても、説得力ゼロよ・・。 信用できないー。
・・本当に約束を守るつもりなら・・やって?」
彼女は私の正面に正座し・・目を閉じたー。
私は固まっていたー。
ハグなんて・・生まれてこの方した事がない。 ・・母になら子供の頃にされた事はあるけど・・。
父にはおそらく子供の頃にされてたんだろうけど・・記憶がない。
私は恐る恐る彼女の肩に触れようと、手を差し出したー。 ・・でも結局やめて手を戻して・・と、その動作を繰り返していた・・。
「は~や~く~!!」
大声で催促され・・私は思わず彼女を抱きしめてしまった!!
ーーギュッ
「???」
見た目と違い・・固く骨ばった感触にドキリとし、思わず離れようとすると・・両手をガシリと掴まれたー。
「まだダ~メ!!」
彼女はそう言い、後ろ手で私の両手を固定したー。
私は・・彼女の背中に手を回したまま硬直していたー。
「あはは♪ ふよふよ~。」
彼女の笑い声でハッと我に返ったー。
(・・に・・肉! ・・ぜ・・贅肉・・!!)
たるんだ体にそれ以上触られたくなくて逃れようと暴れたら・・彼女が全身の体重をかけて私の体を押しつぶしてきた・・!
ーーボスンッ・・!
・・後頭部がフワリと羽根枕に包まれたー。
私はベッドに仰向けで倒されていたー。 可憐さんがうつ伏せで私の上に乗っかっていたー。
彼女の全身の重みが・・首から下をずっしりと圧迫する・・。
(・・これって押し倒されてる? ・・押し倒されてるよね・・??)
鈍い私は・・ようやく自分の置かれている状況を把握したー。
(・・おのれ・・一度ならずに二度までも・・!)
血圧が一気に上昇し・・私は強引に彼女を押しのけようとした・・! ・・でも肩にヘディングされ・・あっさり妨害されてしまった。
「・・ぅぎゃ・・!」
マヌケな声をあげると、可憐さんは「私がいいって言うまでやめちゃダメ~☆」と言い、もう一度ずっしりと押しつぶしてきた。
(・・いいって言うまでって・・一体いつまで・・?)
・・そんな事を考えながら、もがいていると・・
「・・ちょっとは黙っててよ。」
と、キツイ調子で言われ・・思わず動きを止めてしまった。
(・・なんで私が怒られるんだろう・・。)と思いつつ、黙ってそのままの体勢でいたら・・彼女は私の両手を離した。
そして・・もろに体重のかかっていた体をずらして、頭だけ私の肩にのせている状態にした・・。
押しつぶされていた全身が一気に軽くなり・・私はほっと息をついた・・。
彼女は体を横向きにして、私も一緒に横向きにさせた。
そして、わき腹につぶされていた私の右腕を引き抜くと、彼女の首の後ろに回させた。
私の体はかなり楽になった。 ・・逆に心臓の動悸は激しさを増す一方だった。
全身がブルブルと震えてきたが、しばらくそのままの体勢でいたら・・徐々に震えが治まってきた。
・・慣れとは恐ろしいものだ・・。
あんなにがちがちだったのに、ほんの数分そうしていただけで・・私の内面には、大きな変化が生じていた。
彼女の髪の匂いとか首元に感じる優しい息遣いに、妙な安らぎを覚え・・「心地良さ」さえ感じ始めていた・・。
大人しく私に身を委ねている彼女が・・なんだか・・・
私は全身に熱を帯びたような状態でポーッとしていた・・。
「・・美月さん・・?」
もしかして寝てるかな?と思っていた可憐さんが、突然話しかけてきた。
「・・美月さん・・もう・・どこにもいかない・・?」
「・・えっ?」
・・私は驚いて聞き返した。 ・・でも、首元にある彼女の表情は見えない。
「・・・。」
私は何も答えなかった・・。
でも彼女は・・ひたすら無言で私の返事を待っていた。
相変わらずずるい人だ。 ・・そう聞かれたらこう答えるしかないではないか・・。
「・・うん。」
私は・・か細い声で返事をしたー。
「・・本当? ・・本当にどこへも行かない?」
彼女がもう一度聞いてきたので、嘘だと思いつつ・・答えた。
「・・うん。 ・・どこにも行かないよ。」
「・・良かった・・。」
彼女はそう呟くと黙り込んでしまった・・。
・・しばらくするとスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた・・。
私は・・彼女の背中に回していた両手をはずし、彼女の体の上に毛布をかけた。 ・・そして立ち上がると、寝室のライトを消しにいった。
再びベッドに戻り布団の中に潜り込むと・・月明かりにぼんやり浮かぶ彼女の横顔を眺めたー。
無防備な彼女の横顔は・・いつもより少しだけ・・幼く見えた・・。
「・・変な人・・。」
私はボソリと呟いた。
・・いい人なのか悪い人なのか分からない。 ・・強い人なのか弱い人なのか分からない。
私は彼女の顔にかかっている数本の髪の毛を・・耳にかけてやった。
その後も彼女の寝顔に見入っていると・・先程彼女を抱きしめた時のような感覚が、じんわりと・・胸の中に拡がっていった・・。
それが何なのか・・自分でもよく分からなかったー。
・・でもそれは・・どこまでも温かく・・優しい感情だったー。
「・・不思議な人・・。」
そう呟いて、目を閉じた・・。
彼女の呼吸に合わせて息をしている内に、私の意識は・・夜の闇の中へと消えていったー。
更新が遅れてすみません。m(_ _)m
活動報告の方にも書いていたのですが、仕事が忙しくなってきたので・・今後は2週間間隔位の更新を目指したいと思っています。
どんどん忙しくなるのでその内一ヶ月ペースとかになるかも・・。
すみません。
今回のサブタイトルは『ヴィーナスの要求』でしたが、美月×可憐がいい感じの時は、題名に「ヴィーナスの~」とつけてます。
参考にして頂ければ嬉しいです。
今後は今まで放っておいたキャラもガンガン出すつもりです。
よろしくお願いします。\(^o^)/