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第30話:美月のおデブ化阻止計画

 



 可憐さんのマンションに住み始めてから早二週間が過ぎたー。


 私の外見はひと回りほど大きくなっていた。 ・・もちろん縦にではない。 ”横”にだー。



「美月・・太った・・?」


 ギクリー。


 ・・私は恐る恐る隣の渚さんを見たー。 その横では千葉さんが・・なんとも微妙な顔をしていた・・。



 今日は朝からCM撮りで、私達は郊外のスタジオに来ていた。


 今回は携帯電話のCMだったー。


 挨拶も準備も一通り終え、可憐さんが撮影のリハをしている間・・私達三人は並んで立ち話をしていたー。

  


「可憐と暮らし始めてから、まだ二週間よねー。 ・・どうしたらそんなに丸くなれるのか、説明してもらおうじゃない・・。」


 彼女はそう言って、私のパンパンになった頬肉をムギュッとつまんだー。



「・・だきゃら、可憐しゃんのお弁当のせひなんだってびゃ・・! 」


 渚さんがとりあえず私の頬から手を離したー。


「・・この間言ったでしょ? ・・可憐さんの作るお弁当の量がすごいって・・! ・・だから彼女にやめさせてって頼んだのに・・!!」



 可憐さんの特製弁当を初めて渡された翌日・・私はロケに同行しに来た渚さんに、可憐さんがお弁当を作るのをやめるように説得して欲しいと頼んだー。


「・・お弁当の量が半端ないんだって・・!! 昼、夜二食分だし、とんでもない事になってるんだよ? ・・あんなの毎日作ってたら、可憐さん体を壊しちゃう・・!


 ねえ、渚さんから可憐さんに言ってもらえない・・? ・・彼女私の話はあまり聞かないから・・。」



 渚さんはう~んと考え込んだ。


「・・確かに可憐は自分の作った料理を人に食べさせるのが好きなのよね・・。


 でもあの子・・自分の生活をコントロールするのが抜群に上手いのよ。 あの子が大丈夫って言うんなら大丈夫じゃない・・?


 ・・ねえ美月、このままにしておかない? ・・そのうち手に余れば、あの子の方からやめたいって言ってくるわよ。」



 私もてっきりそうなるだろうと思っていたー。


 ・・ところが彼女のお弁当は、止まるどころかどんどんバージョンアップしていったーー!


 私の好みを把握し・・そのメニューを増量するようになったのだ・・!


 私はこのままでは確実に病気になると思い、一度お弁当を半分ほど残して帰った事があった。 ・・本当は全部平らげたかったが、我慢して残したー。


 それを見た可憐さんは捨てられた子犬のような目をして呟いたー。



「・・残してる・・。 美味しくなかった・・?」


 彼女の泣きそうな顔にたじたじとしながら、「お腹の調子が悪くて・・。」と必死に言い訳し・・結局翌日からは残さずきれいに平らげるようになったー。



 先程も・・撮影の合間にマネージャーが交代で食事をとったのだが、いつものように大型のタッパーを開けると、私の大好きな鶏の唐揚げがゴロゴロ入っていたー。 


 彼女の唐揚げは最高だー。 調味料の配合が絶妙で、揚げ方もカラリとしていて、パリパリの衣が病みつきになるー。


 それをきれいに平らげた後、カニクリームコロッケに箸を移したー。


 あのホワイトソース・・言葉に言い表せない程美味しい・・。


 冷めているのにトロリとしていて、カニの旨味がギュッと凝縮されていて・・。 想像しただけで涎がでてくるーー。


 ・・そして極め付けが()()卵焼きだーー! ・・あれは毎食食べても飽きない・・。



 もう・・どれをとっても・・何を食べても・・こんな感じなのだった・・!


 そもそもおにぎり・・世の皆様に食べさせてやりたいー。 おにぎりは握り方一つでこんなにも美味しくなるのだと・・。


 彼女の料理には、作られた後・・まるでひとつまみの『魔法』がかけられてるみたいだったー。


 女優を辞めても彼女なら・・間違いなく「料理の世界」で成功すると思うー。 ・・あの美味しさはハンパじゃないー。


 

「・・そんなに量が多いなら私にも分けてよー。 美月ばかり独り占めしてないで・・。」


 渚さんはそう言って、頬をぷくりと膨らませたー。



「・・独り占めなんてしてないよ! 私が残せば可憐さんがすごくがっかりした顔をするんだもん!!」


 私はむくれた顔で渚さんに抗議したー。



「・・でもあなた、このまま食べ続けたら’成人病’になるわよ? ・・間違いなく。」


 うっ・・確かにその通りだー。 前に渚さんにもらった栄養バランスのノートによると・・成人女性の一日に必要なカロリー摂取量は約1800キロカロリー・・。


 なのに私の場合・・一日じゃなく、「一食」で2000キロカロリー()っている事が分かったー!!


 なぜなら・・可憐さんのお弁当は高カロリーのメニューが満載だからだ!(・・自分のお弁当は低カロリーなくせに・・。)


 あの人は私を肥えさせてどうするつもりなんだろうか・・? 後で丸焼きにして食べるつもりとか・・?



「・・よし!!」


 渚さんが突然叫んだので、私はビクリとしたー! 「・・な・・何?」


「・・年頃の女性がまるまると肥えていくのを黙って見てられないわ。 そういう事なら協力しましょう・・! ね、千葉ちゃん?」


「・・え・・? 何ですか・・?」


 突然話を振られて千葉さんがまごついたー。



「こういう時はマネージャー同士で助け合うものよ。 美月、今度から一食分千葉ちゃんに渡しなさいー。」


「・・え・・?」


「・・え・・!?」


 私と千葉さんの声が同時に重なったー。


「千花ちゃんが来た時には千花ちゃんに渡しなさいー。 ・・彼女には私から電話しておくからー。 ・・後、私が来た時には私によこしなさい。」


「・・えぇ・・!?」



 これ以上太りたくない・・。でも、あの食事と離れるのは・・寂しい。


「「・・えぇ?」じゃない!! このままじゃあなた、確実に病気になるわよ? ・・それでもいいの?」


「・・良くないです・・。」


「・・でしょ? 大丈夫、可憐だってあなたを太らせたくてお弁当を作ってるわけじゃないんだから・・。」


 ・・そうだろうか。 ・・なんとなく、意図を感じるのは気のせいだろうか?



「・・でも・・可憐さんには「私」が食べてる事にしといた方がいいと思う。 ・・なんとなく・・。」


「そう? それならそれでいいわよ。 ・・分かった? 千葉ちゃん・・?」


「・・え? ・・はい。」


 千葉さんがちょっと嬉しそうに返事をしたー。



「可憐のお弁当を食べれるなんて、本当幸運よ? 物凄く美味しいわよ~。 ・・頼むから可憐に惚れないでよ? ・・ただでさえ惚れっぽいんだからー。」


「・・ほ・・惚れませんよ・・!!」


 千葉さんはそう言って赤くなった。 何だか怪しい・・。 本当に惚れたら気の毒すぎる・・。


・・でも彼には確か’女子大生’の彼女がいるはず・・。



「・・そういえば千葉ちゃん、女子大生と別れたんだって・・?」 渚さんが尋ねた。


 ・・ええ・・? うそ・・早・・!


「四回続けて土日に会えなかったらアウトでした・・。」 千葉さんが悲しそうに呟いたー。


「・・大体、普通の社会人と付き合うのも難しい仕事なのに、学生と付き合おうとするなんて無謀なのよ。


 ・・そもそもどうやって知り合ったの?」


「・・合コンです。 友達に誘われて久々に行ったんですけど、気が合って・・。」


「・・ウチの業種は忙しいからね~。 それでも他社に比べれば社長の方針で余裕がある方だと思うんだけど・・相手が’女子大生’じゃねぇ・・。 


 暇を持て余してるだろうし、会ってくれない彼氏なんてフラれるに決まってるわよ・・。」


「・・あまり傷口に塩をすり込まないでくださいよー。 ・・ああ、彼女可愛かったなぁ・・。」


「・・そんなに可愛きゃ’引く手あまた’よ。 ・・二股かけられなかっただけでも良しとするのね。 


 ・・まったく千花ちゃんは偉いわ。 この仕事は忙しくて、就職してから相手を探すのは本当に難しいのよ。

 ・・特に女性は苦労してるわ。


 彼女みたいに学生時代から付き合って結婚っていうのがベストだわね・・。」


「・・女性マネージャーは独身が多いですよね。 この業界に入ってから結婚相手を探すのは・・かなり厳しいみたいです。」


(へぇ、そうなんだ。) 私は黙って聞いていたー。



「・・それにしても今回は本当に短かったわね。・・過去最短じゃない・・?」


「・・いや、俺はあきらめませんよ・・。 この世のどこかにいるはずです。 ・・可愛くて、優しくて、セクシーで(ここ重要)・・俺がどんなに忙しくても文句一つ言わずに付き合ってくれる最高の女性がー。」


「・・その注文の多さがサイクルを早める原因なのよー。」


「いやいや・・サイクルが早いからこそ出会う確率が高くなるんです。 渚さん、見てて下さい・・俺の生き様を・・。


 そのうち必ず、さっき言ってた通りの女性を「婚約者」として渚さんに紹介しますから・・。」


「はいはい・・懲りないわねぇ・・。」 渚さんはそう言って溜息をついたー。


「・・じゃあ千葉ちゃん、お弁当の件よろしくね?」


「OKです。」


 渚さんはそう言って、私達のそばから離れていったー。 その姿を、千葉さんはじっと見つめていた・・。


 あまりに見続けているので、私は(・・あれ?)と思ったー。 ・・これって無意識・・?



「・・ああ言いながら、副社長と社長はどうなんでしょうね。 ・・美月さん、知ってます?」


 千葉さんが・・なおも目で渚さんを追い続けながら呟いたー。



「・・え・・? さあ・・。」 私は少しドキドキしながら答えたー。


 ・・なんだか見てはいけない物を見てしまった気がする・・。



「社長と副社長ってつきあってるって噂ですよ。 美月さんとも家族ぐるみでつきあってるじゃないですか。


 実際どうなんですか? ・・つきあっているんですか・・?」


「・・どうだろう・・。 そういう報告はされた事がないけど・・。」



 ・・私は千葉さんの態度が気になった。 ・・まるで’探り’を入れてるみたいだー。


 ・・まさかね・・。 千葉さんと渚さんって「11歳」も違うしー。 千葉さんは年下が好きそうだし・・。


 でも、この二人・・妙に馬が合うんだよなぁ・・。



(・・ああ、あの親父・・何をやってるんだろう・・。) 


 私は溜息をついたー。


 渚さんが私達家族に優しくしてくれるのは・・多分父が「好きだから」だと思う・・。 ・・そうじゃなきゃ十数年もウチの家族に・・こんなに親切にしてくれないよ・・。



(早く結婚しちゃえばいいのに・・。)


 心からそう思ったー。


 渚さんは魅力的だ・・。 綺麗で優秀で優しくて・・懐も深いー。 ・・ぼやぼやしてると他の男に持ってかれちゃうんだから・・!!


 千葉さんじゃなくても・・他の誰かに・・。



(・・でも、いくら周りが望んでもこればかりはなぁ~。・・本人の気持ち次第だから・・。)



 自分の事は顧みず・・十メートル先でディレクターと話し込む渚さんを見て・・そう思ったー。



 


 






 











 










      

 芸能小説じゃなく料理小説に変わりつつあります・・(汗)

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