第27話:女性マネージャー’千花ちゃん’
私は呆気にとられていた・・。 可憐さんはそんな私を見て、クスクス笑っていたーー。
・・その時チャイムがなったー。
私は慌てて駆け出し、インターホンのスイッチを押したー。
「ーーおはよう、美月~♪」
モニターには満面の笑顔の渚さんが映っていたー。
私はほっとしながら「おはよう、渚さん。」と挨拶を返し、インターホンの開錠ボタンを押したー。
私達三人は地下の駐車場に行き、いつもの車に乗り込んだー。
「美月ったら、今日もお化粧してないの?」
渚さんからさっそくNGワードが飛び出し、私は慌てたー。
チラリと可憐さんを見ると、何事もなかったかのような顔をしている・・。
「昨日も言ったとおり、お化粧は社会人女性の基本なのよ? 私のを貸してあげるから、後でしておきなさいよ。」
渚さんが諭すように言ったー。
「・・・いや、いいからーー!!」
私はキッパリと拒否したー。
「いいって、美月・・あなたね・・。」
説得しようとする渚さんの話を遮って、私はなおも固辞したーー。
「・・いいの。昨日してみたんだけれども、痒くて仕方がなかったの。・・私のお肌にはあわないみたい・・。」
・・我ながらナイスな逃げ口上だー。 最近、ピンチの時ほど頭が回る事に気付いてきたー。
「そうなの・・。それじゃ、しょうがないわね・・。」
(・・よしっ。) 私は、自分のファインプレーに内心ガッツポーズを決めたー。
ちらりと可憐さんを見ると、そ知らぬ顔で携帯のメールを打っているー。
(・・くそ・・。狸め・・。) 私は心の中で毒づいたー。
(・・メールの相手はどうせ馨さんなんでしょ・・? あんなかっこいい彼氏がいるくせに、人の事、弄ぶような真似ばかりして・・。)
私はだんだんムカついてきたー。・・なんだか目の前の携帯を取り上げて、車の窓から放り出してやりたくなったー!!
・・できるわけないけど・・。
でも、実際にやるところを想像し、ちょっとうっとりしていた・・。
その時・・横から視線を感じ、彼女と目が合ったー。 ・・変なところを見られ、私は赤面したー。
(・・なんでこんな時だけ見てんのよ!! さっきまで無視してたくせに・・!!)
私は首まで赤くなりながら、心の中で叫んだ・・。
「ところで・・」
ーー渚さんの声に思わずはっとしたー。 そうだ・・仕事に集中集中!!
「今日は朝からずっと、テレビ局のスタジオで連ドラの撮影なんだけど・・このドラマの撮影の時は、私は同行しないからー。」
渚さんの発言に、私は「えっ!?」と叫んだ!!
ドラマの撮影は3ヶ月程続くはずだー。 しかもまだ、始まったばかり・・。 これからほとんど、この仕事にかかりきりになるはずなのに・・。
「私は行かないけど、昨日紹介した千葉ちゃんや、これから同行する「佐藤さん」がいるから大丈夫よ。
千葉ちゃんはあの通りだし、佐藤千花さん・・”千花ちゃん”も、しっかりしてて、すごく面倒見のいい子だからー。
他の仕事とか深夜ロケの時には、必ず’私’か’北園君’のどちらかが付くし・・。 このドラマの仕事だけだから、いいよね・・?」
しょうがなかった・・。 そもそも昨日の同行も・・私のために、無理していたに違いなかった・・。
・・そう考えて、私は再び恥ずかしくなった・・。
本来’現場マネージャー’だけで済む仕事に、わざわざ会社の’副社長’を引っ張りださせてたなんて・・。
私って・・本当、何様? 付き人の分際で・・。・・これじゃ社長の”バカ娘”そのものじゃないか・・!!
「・・ご・・ごめんなさい・・。大丈夫です・・。」 私は赤面しながら答えた・・。
ミラー越しに微笑む渚さんの顔が見えた・・。
「・・これから同行する’佐藤さん’は年齢が26歳ー。 新卒からずっとウチにいるから、入社4年目・・春には5年目になるかな?
・・かなり’おしゃべり’で、美月はあんまり話さない方だから・・もしかしたら相性がいいかも・・。・・しゃべりすぎで、むしろ’聞き役’が必要そうな子だから・・。」
そう言いながら、渚さんはクスクス笑ったー。
私はちょっとドキドキしてきた・・。 女性の同僚に紹介されるのは初めてだったー。
・・26歳・・四つ下か・・。 どんな人だろうー。
「・・この先で千花ちゃんを拾って会社まで行ったら、彼女と運転を代わるからー。
でも明日からも、可憐のマンションには私が迎えに行くわよ? 他の社員に’秘密’がばれちゃまずいし・・。」
・・そういえば、他の社員には可憐さんの’性別’の事は、内緒にしてるって言ってたっけ・・。
でも、そのおかげで一日一回は渚さんと会える・・。 私はちょっと嬉しかったー。
「そこのコンビニで待ち合わせしてるから、停車するわね。」
そう言って車のウィンカーを出し、コンビニの駐車場に入ったー。
店の前にはベージュのコート姿の女性が立っていたー。
身長は160位だろうか・・。 色白で茶髪の女性だー。 肩くらいまでの髪には、ゆるいウェーブがかかっている。
停車すると、彼女が私の横に乗り込んできたー。
「おはようございます!!」
彼女は快活な声で挨拶したー。 そして私に向かって言ったー。
「ーー美月さんですね? はじめまして。 マネージャーの佐藤千花と言います。 よろしくお願いします!!」
彼女はハキハキと挨拶したー。
「・・おはようございます。 よろしくお願いします・・。」
私が赤くなりながら挨拶を返すと、彼女はニッコリと笑ったー。
・・大きな目だ・・。 丸顔でちょっと童顔ー。 好奇心が旺盛そうな瞳は、キラキラと輝いているー。
(・・可愛い人だなー。)
第一印象はそれだったー。 童顔の’可愛い’タイプー。 パステルカラーのひらひらした服とか似合いそうー。
スーツ姿しか拝めそうにないけど・・。
(・・でも・・そういうタイプじゃないかも・・。) ・・彼女を見ているうちに、だんだんそんな気がしてきた・・。
ビー玉みたいな黒い瞳はキョロキョロとせわしなく動き、唇は・・今にも喋り出しそうに突き出ているー。
(・・こういう口の人は’おしゃべり’が多いって、本で読んだ事がある・・。)
何にせよ、賑やかな生活が始まりそうだったーー。
そんな事を考えていたら、会社の前に着いたー。
「じゃあ、明日の朝またね♪ 二人とも・・可憐の事、頼んだわよ?」
渚さんはそう言って、ビルに入っていったー。
「じゃあ、運転代わりますねー。」 佐藤さんはそう言って、運転席に乗り込んだー。
車は再び発進したー。
「・・美月さん。今、可憐さんが出てるドラマのストーリーって知ってます?」
運転しながら、早速佐藤さんが話しかけてきたー。
「・・え・・? い・・いえ・・。」 私がとまどっていると、
「・・美月さん。私の方が四つ下なんですよ? 敬語は止めて下さい。
それに、’佐藤’って・・全国で一番多い名字なんですー。 私の事は渚さんと同じ呼び方をしてもらえますか?」
「・・えっ・・ち・・’千花ちゃん’って・・?」 彼女のはっきりした物言いに少しビビリながら、私は答えたー。
「そうそう、そう呼んで下さい。 私、’佐藤’って名前は平凡でイヤなんですけど、’千花’って名前は気に入ってるんです。
ちなみに千の花って書くんですよ? ・・結構いい名前だと思いません?」
彼女は豪快にアハハと笑い、「『美月』って名前、綺麗ですよねー。」と言った。
フワフワした外見と違い、なかなかパワフルな女性らしいー。 ・・なんか、黙ってるといつまでもしゃべり続けていそうな雰囲気だったーー。
「今、可憐さんが出演しているドラマって、かなりおもしろいんですよ? 数字(視聴率)がとれそうな感じですよね? 可憐さん。」
可憐さんはクスクス笑いながら「そうだといいわね。」と、答えた。
「・・絶対いけますって!! 大まかなストーリーを聞いただけで見たくなるような内容ですもん!!」
彼女はそう言って、今回のドラマのストーリーを話し始めたー。
ーー主人公は23歳のOLー。(ちなみにこれが可憐さんの役)
高校卒業時に、両親は事故で他界しているー。 彼女には12歳年下の弟がいて、両親が亡くなった時、弟は7歳だったー。
彼をあずかってくれるという親戚もいたが、小さな印刷工場の事務に就職の決まっていた彼女は、自分が彼を育てる決意をし、二人で暮らしていたー。
彼女は両親の忘れ形見である彼を、目に入れても痛くないほど可愛がっていたー。
テストでもいつも100点を取ってきて、明るく賢い自慢の弟だったー。
中学生になったある日、彼は風邪をこじらせて総合病院に入院したー。
入院して一週間後・・弟は死んだー。 死亡診断書の死因は「急性心不全」ーー。
両親だけでなく、最後の肉親であった弟まで失った彼女は、立ち直れないほど落ち込んだー。
・・そんな時、ある男が彼女のもとを訪れたー。 弁護士だったー。
その病院では数年前から同様の死亡事例が何件かあり、彼は’医療ミス’を疑っていたー。
前回別の患者が死亡した際、その遺族の裁判を担当したが結局負けてしまい・・もし次に同様の事件が起こったら、必ず自分が担当すると決意し、その病院を張っていたというーー。
・・はたしてその病院では、本当に医療ミスがあったのか? ・・それとも何か別の理由があったのか?
サスペンスタッチの社会派ドラマだー。 若き弁護士と主人公の恋愛も見ものらしい・・。
(・・お・・おもしろそう・・。)
キャストも、ベテランや旬の俳優さん達がそろっていて、かなり豪華らしいー。 一度見たらはまりそう・・。
「今日は主人公が、病院から「弟が亡くなった」と連絡を受けて駆けつけるシーンなんです。 かなり見ものですよ?」
’千花ちゃん’が興奮した声で語ったー。
確かにそれは見ものだなと思ったー。 今日の撮影がだんだん楽しみになってきた・・。
ーー前方には、今日の撮影場所であるAテレビの巨大なビルが見えてきたーー。
今回は遅れてすみませんでした。というか、実は先週は、以前後書きに書いていた可憐視点の小説を更新してたんです。予告もせず、すみませんでした。
題名は『滝川一穂の独白』です。 全2~3話の連載にするつもりです。
こちらの可憐はかなり’可愛い’ですが、向こうの可憐は・・ちょっとヤバいです。(汗)
いつも・・作りかけの橋を叩き壊しながら進んでるような気がしています。
ひどい話ですが、そちらの方もよろしくお願いします。(^^)