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第26話:化粧禁止令




「・・美月さん。起きて・・?」


 耳元で甘い囁き声がして・・私は目が覚めたー。



 頭上には、真っ白な高い天井が広がっているー。


 全身を・・柔らかな陽光が包んでいるーー。


 ふわふわの布団が気持ちいい・・。いつまでも(くる)まっていたい・・。



「・・美月さん?」


 ・・声のする方向に視線をずらし・・・ーー私は思わず飛びのいたーーー!! 



 テレビでよく見る「あの顔」が・・・ベッドで頬づえをついているーー!!


 床に座っているらしく、両肘で支えた顔の目線が、私と同じだったーー。


 

「おはよう~。」


 化粧も髪も完璧なエプロン姿の可憐さんは・・天使の笑みを浮かべたー。


 驚いて飛び起きた私は、彼女の反対側にのけぞり・・勢いあまってベッドから転げ落ちそうになったーー!!



「あはは。相変わらず面白いね~、美月さん♪」


 可憐さんがおかしそうに笑ったー。


「朝ご飯できてるよ? 早く顔を洗ってきてね~。」



 私は顔を洗い、身支度を整えて、キッチンに向かったーー。


 テーブルの上には、相変わらず美味しそうな朝食がずらりと並んでいたー。


 今日も和食だー。 可憐さんはもしかして、朝は’和食派’の人なのかもしれない・・。


 ご飯に豆腐の味噌汁、焼き魚・・後、昨日も食べた玉子焼き(・・これが絶品!!)、野菜の小鉢が数品・・。


 典型的な’純’和風メニューだったー。



 私は椅子に座り、さっそく味噌汁を一口すすったー。


(・・な・・何コレ・・!? めちゃくちゃ美味しい~~~!!)


 こんな美味しいお味噌汁・・いままで飲んだ事がない!! ・・ただの豆腐の味噌汁なのに・・!!


 いい味噌を使っているのか、だしのとり方がいいのか・・。私には理由など、さっぱりだが・・とにかく彼女の味噌汁は最高だったー!


 料理の上手下手は、こういう単純な物ほどよく分かるのかもしれなかった・・。


 ただの味噌汁が極上の一品にーー。 料理って奥が深い・・。



 ふと・・食卓の隅に積まれたタッパーらしき物に目が行き、尋ねたー。


「・・・可憐さん・・。それ・・何ですか・・?」


 すると彼女は、よくぞ聞いてくれましたという顔で、大型のタッパーをパカリと開けたー。


「見て見て~!! 可憐の特製弁当よ~☆」



 そこには・・見た目も鮮やかな数々の料理が、’みっちり’と詰めこまれていたーー。


 おにぎり数個に揚げ物、焼き物、温野菜の副菜達・・見るからにバランスのとれた食事だー。・・別のタッパーには、色とりどりのフルーツまで用意されている・・。


「これがお昼で~・・」


 まだあるんかい!!・・と心の中でツッコんでいたら、更にひとまわり大きなタッパーが、テーブルの上にデンと置かれたー。


「こっちが夕食よ!」


 こちらは・・お弁当の定番、のり巻きだー。こちらにも美味しそうなおかずがびっしり詰め込まれているー。


「あとぉ、これがコーヒーで~、これがお茶で~、これがオレンジジュースで~・・・」


 ドン、ドン、ドンと、三種類の小型水筒をテーブルに並べる・・。


「でぇ~、これがチョコにポテチにクッキーに・・・。」


 ・・遠足かっ!?


 ついに見ていられなくなり、私は叫んだ!!


「・・か・・可憐さんっ!!」



「・・何?」


 彼女はきょとんとした顔をしていた・・。



「・・な・・何で、可憐さんが私のお弁当を作ってるんですか!? 忙しい人が何やっちゃってるんですかっ!??


 こんな事してたら・・可憐さんこそ倒れちゃいます・・!! ・・こんな事・・やめて下さい!!」


 可憐さんは、アハハと笑った。


「大丈夫、大丈夫~。私、見た目と違って、結構体力あるから~。・・それに、全然大変じゃないし・・。むしろ楽しいし~。


 これから毎日作るから、残さず食べてね? 美月さん♪」



(・・ま・・毎日・・?? しょ・・正気・・!?)


 彼女の爆弾発言に・・私は唖然としたー。


(何で’タレント’の可憐さんが、’付き人’の私のお弁当を作るのよ!?(それに・・よく考えたら三食全部作っちゃってんじゃん!!) ・・わけわかんないしーー!!


 ・・これじゃあ、’付き人’の私が彼女の体調を崩させちゃうーー!!)


 でも・・可憐さんは、私の言う事なんか聞く人じゃないし・・後で渚さんに頼んで、やめるように言ってもらわなきゃ・・!


 ・・私は密かに決意したー。



「・・ところで、可憐さんのは・・?」と、聞くと


「・・これよ。」と言い、私のタッパーの5分の1程度の弁当箱を見せたー。


(・・小っさ!! なによ、この差は・・・!??)


 唖然としていると、彼女は苦笑いしながら呟いたー。


「・・私は忙しくてあまり食べる時間がないし・・後、太れないしね・・?」


(じゃあ・・私は肥えてもいいんかい!!)と、またしてもツッコミたくなったが、ここまでしてくれた彼女に、文句を言うのもどうかと思い、とりあえず黙って食事を再開する事にしたー。



 ・・食べ終えた後、洗面所に行き、歯を磨いている時に、(あっ・・。)と思ったー。


 私はリビングへ行き、コーヒーを飲んでくつろいでいる可憐さんに、’メイク道具’を貸してくれるように頼んだーー。


「・・メイク・・?」


 ・・彼女はめずらしくイヤそうな顔をしたー。


 私は彼女の反応に少し驚きながら、コクリと頷いたー。



 社会人女性にとって’化粧’というものは、どうやらとても大切なものらしい・・。


 昨日の一件で、私はそれを学んだーー。


 ーー昨日の夜・・撮影スタッフ達が、私について話していた事は・・別に、彼らが特別’イヤな奴’だったわけじゃなく、単に私が’常識はずれ’な行動をとっていただけなのだと理解したー。


 そもそも、私の今までの’生き方’そのものが常識からはずれてるし・・。ハハ・・。


 おそらく、昨日会った他の人達も・・多かれ少なかれ、彼らと同じような事を考えていたのだと思う・・。


 だから対面した時、みんなジロジロ見てたんだ。 意味有り気に・・。


 ・・昨日の夜、私は偶然、その理由を知る事が出来たー。


 悪い事は直すべきだー。 可憐さんや、渚さんや、他の社員達に恥をかかせちゃいけないー。


 昨日渚さんに言われた通り・・私はもう、「大沢可憐の看板」を背負ってるんだから・・。



 今後は毎日’化粧’をすると決めていたー。


 ・・でも、私は化粧品を持ってないし、買うお金もないー。 


 だから、可憐さんから借りるしかない・・。



 ・・そんな事を考えていたら、彼女が突然クスクスと笑い出したー。 


 なんで笑っているんだろうと不思議に思っていると・・彼女がポソリと呟いたー。


「・・美月さん。・・年頃の女性がお化粧をする・・一番の’理由’って・・何だか分かる・・?」


「・・・?」


 彼女の質問に・・私はきょとんとしていたー。




「・・『男』に見せるためよーー。」


 


 彼女の声が部屋中に響き・・思わずギクリとしたー。



「・・恋人や、結婚相手を探す時・・好きな男が出来て、その男に綺麗だと思われたい時・・そういう時に女性は自分を着飾るものよー。


 要するに・・フリーの女性が化粧をしてたら・・『私は恋人募集中』って看板を、首から提げてるようなものなのねーー。」



 彼女はそう言うと・・じっと私を見つめたーー。


 その目が何だか怖くて・・私は視線を泳がせた・・。


 ・・彼女は私を見つめたまま呟いたー。



「・・それとも美月さんは・・恋人を募集してるの・・?」



 私はギョッとして、慌てて首を左右に振ったーー!!


 可憐さんは、私の顔を見て・・にっこりと笑ったーー。



「・・そうよね? じゃあ、お化粧はしなくていいのよー? ・・別に綺麗な格好なんかしなくったって、仕事はできるんだから・・。


 美月さんがお化粧をしなくても、仕事には何の支障もないし・・。 それは私が保障するーー。」


 彼女はきっぱり言い切ったーー。



「って言うか・・美月さんは、お化粧禁止ー。」


「・・・は?」



「・・美月さんは、『絶対に』お化粧禁止・・ね?」



 ・・私は口をパクパクさせたーー。


 き・・禁止って・・いったい、なんの権限があってーー!?



 彼女は私を見て・・いたずらっぽい目でクスリと笑ったー。



「もし・・お化粧したら・・チューしちゃうから~☆」

 


「・・は・・?」



「ーーキスしちゃうから・・。()()に。」



 そう言って、人差し指で私の唇をプニュッと押したー。



「・・なっ・・ななななな~~~~!!!!」


 私は真っ赤になってプルプル震えたーー!! 



「・・き・・昨日’女同士’だって・・・!!」



「・・いいじゃないキスくらい・・。 女同士でも・・。」


 可憐さんはしれっとした顔で言ったー。



「じ・・じょ・・冗談じゃありませんよーーー!!!」


 私は絶叫したーー!!

 


「・・だ~~か~~ら~~!!」


 ()える私をさえぎって、彼女は叫んだーー。



「・・お化粧さえしなきゃ・・な~~んもしないって!! ・・とにかく、化粧は禁止!! 絶対禁止!!


 私と濃厚なキスをしたくなったら、お化粧すれば!? いつでも’お見舞い’したげるから~♪」


 そう言って、ニヤリと笑ったー。  




(・・・なんじゃ、そりゃ・・!?)


 私は唖然としてしまった・・。

    

 

 化粧をしたら・・キス!?



 ・・化粧を禁止する理由も・・キスする理由も・・さっぱりわかんないーー。


 ・・私には・・全くわからないーー。




 ・・っていうか・・可憐さんーー。



 ーーあなたの心は本当に『女性』なんでしょうね~~~!??






 


 


 



 
















 

 前回、「次回は可憐視点の別の短編か連載を書く」と予告していたのですが、想像していたより難しく、時間がかかってしまい、結局こちらの方が先になってしまいました。

 納得できる内容になったら更新するつもりなので、もう少し遅くなりそうです・・。

 待っていて下さった方がいたら、本当にすみませんでした。

 あと、最近体調不良気味で、更新がバラバラです・・。

 なるべく急ぎたいとは思っているのですが、今後も不定期の更新になってしまいそうです。

 一応、一週間に一話くらいは必ず更新するように頑張りたいと思っています。

 亀の歩みになりそうですが、今後とも『ヴィーナスプロダクション』をよろしくお願いします。(^^)

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