第18話:対決!ヴィーナス×ニート女《3》
今回は一部に差別的な表現が含まれています。
作品の構成上書いてしまいましたが、もし不快な思いをされた方がいたら、本当にすみません。
(・・えっ?)と、私は思った・・。
・・けっ、軽蔑・・!? ・・なっ、何を突然・・!?
私が動揺していると、彼はフッと笑って続けた・・。
「・・俺は男のくせに、こんな格好をして女の言葉を使ってみんなを騙してる・・。
恋愛も結婚も男同士でする・・いわゆる”ゲイ”だー。
そんなのが女のアンタに迫って・・終いには子供まで産めと強要しているー。
ーーあんた・・本当は俺の事「気持ち悪い」と思ってんだろう・・?」
・・私は仰天してしまったーー!!
・・この人は・・突然何を言い出すのか!?
彼の思考回路についていけず・・私は完全に固まってしまったー。
そんな私を黙って見ていた可憐さんが、突然椅子から立ち上がったー!
ガタリと音がし、私は思わず飛びのいた・・!!
彼は目の前まで歩み寄ってくると・・真正面から私の顔を見つめたー。
・・その目は何かを探るようで・・私の緊張はどんどん高まっていった・・!!
その時・・彼が突然信じられない言葉を吐いたー。
「あんたがもし・・この場で俺を徹底的に詰る事ができたら・・俺はあんたをあきらめる。」
「・・はっ?」
・・私は驚きのあまり目を丸くした・・!
(・・な、詰る!? 何その妖しい響きは・・? ・・可憐さんってもしかして「そっち系」の人・・!?)
・・しかし彼の表情は真剣そのもので・・訴えかけるような瞳はどんどん熱を帯びていったー。
「・・言えよ。・・どんな事を言われても、今なら俺は・・あんたに指一本触れやしないから・・。
・・これは・・あんたが俺から逃げる”最後のチャンス”だー。
・・本心を言えばいい。
『・・お前みたいな男女冗談じゃない・・。 男同士で寝る薄汚い手で人に触るなーー!!
・・お前の子供なんか冗談じゃねぇんだよ・・この「カマ野郎」!!』ってなー。
・・本当は心の中じゃ、もっと汚い言葉で俺の事を罵っているんだろう・・?」
彼は燃えるような瞳で私を睨みつけたー。
「・・それをそのまま言えばいい・・。 そしたら俺は・・「再起不能」になって・・もう二度と・・あんたに触れなくなるー。
ーー俺から「本気」で逃げたいなら・・本心を・・そのまま言えーー!!」
彼の鋭い声が部屋中に響き渡ったーー!!
・・私は困惑していた・・。
(・・この人は・・いったい何を言ってるのだろう・・?)
正直な所・・彼の言うような”考え”は・・私の中には全く存在していなかったー。
感じていたのは「自分」に対する嫌悪のみで・・「彼」に対する嫌悪など・・微塵も感じちゃいなかったー。
・・『恐怖』は感じていたがーー。
・・でも・・たぶんこれは、彼が言うとおり・・彼が私に与えた「最後のチャンス」なのだろう・・。
おそらく、彼の中の「良識」が生み出した・・彼から私が逃げる最後のチャンス・・『救いの手』ーー。
・・それを掴めばいい! ・・今掴まなければ・・それこそ私は本物の「阿呆」だーー!
言葉のナイフで彼を切り刻んでー。
本当に・・「再起不能」になる位、傷つけてー。
こんな理不尽な要求・・思い切り、握り潰してしまえばいいーー!!
今、この口を開けば・・それができる・・。
私は彼を睨みつけ・・口を開いたー。
「・・あんたなんか・・!」
・・その時・・一瞬見えた彼の瞳が告げていた。
この一言で・・彼の『何か』が変わるのだとー。
この一言で・・彼は『何か』をあきらめるのだと・・!!
・・私は一瞬怯んだー。
でも、歯を食いしばり・・気持ちを奮い立たせた・・!
(言えばいい・・!! 彼に対する”差別的”な暴言の数々をーー!!)
・・彼は私にそうされるだけの事をした・・!
自分の子供が欲しいからといって・・人の気持ちを完全に無視して・・『物』みたいに私を陵辱しようとしたー。
昨日だって・・私があのまま抵抗しなければ・・絶対に、最後まで・・してた・・!!
・・私に「子供」だけ産ませてー。 ・・その後、自分は「女」になってー。 ・・他の男と『結婚』までしようとしている・・!
ひどい奴・・。 ・・本当に・・ひどい奴ーー!!
いったい・・人を・・なんだと思っているの・・?
こんな奴・・面の皮だけ綺麗な・・人を人とも思わない・・最低の「下衆野郎」じゃないかーー!!
・・この気持ちを・・今この場でぶちまければ・・この人は・・二度と私に触れてこなくなる・・。
この人が・・自分の事を恥じて、嫌いになって・・もう二度と・・自分の子供なんか「持つ気」も起きなくなるようなひどい言葉を・・・思い切り浴びせてやるんだ・・!
そうすれば私は・・自分の望む『自由』を、手にする事ができるーー。
私は爪が食い込むくらい、両手を強く握り締めた・・。
目の前の可憐さんも・・挑むような目で私を睨みつけていたー。
ーーでも・・私には分かっていた・・。
今・・この暴言を吐くことで・・確実に、彼の心の奥底の『何か』を壊してしまう事をーー。
彼は”それ”を待ってるー。
私にズタズタにされるのを・・待ってるー。
・・今この場で私が・・彼のささやかな”夢”を、”希望”を打ち砕くのを・・ただ黙って待ってるー。
・・私にははっきりと・・それが分かっていたーー!!
(・・それでも・・それでも言わなきゃ・・!!)
激しい眩暈を感じながら・・私は懸命に口をパクつかせたー。
・・でも・・でも・・言葉が出てこないーー!!
何一つ・・出てこない・・!!
(・・なんで・・?)
私はうろたえたー。
(さっきまで・・あんなにベラベラしゃべっていたくせに・・!
なんで・・なんでこんな大事な場面で・・何も言葉が出てこないの・・!?)
・・胸がどんどん苦しくなる・・。
私は目の前の人間を・・心底憎らしく思ったー。
(・・ずるい人・・本当にずるい人・・!!
・・勝手に人を巻き込んで・・勝手に人を傷つけて・・終いには・・勝手に彼の『夢』を、私の手で・・打ち砕かせようとしている・・!
・・こんな「ずるい奴」の未来なんて・・お望み通り、完膚なきまでに叩き壊してやればいいーー!!)
私は彼をギロリと睨みつけたーー。
(・・言え、私・・!! ・・自分を完全にナメきっているこの人に・・思い知らせてやるんだーー!
私だって・・徹底的に・・人を痛めつける事ができるんだって・・!
自分を守るためなら・・どんな残酷な事だって・・・平気でやれるんだって・・!
・・あなたの未来なんて・・簡単に捻り潰してやれるんだってーー!!
ーー言え・・!! ・・言えってーー!!)
「・・・!!」
「・・・!!」
「・・・!!」
「~~~~~!??」
ーー私は愕然とした・・。
・・気が付くと・・溢れていたのは’言葉’ではなく・・大量の”涙”だったーー。
涙は頬を伝い・・次から次へと床に落ちていくーー。
・・ポタポタ・・ポタポタ・・
私は・・足元に落ちていく大量の雫を・・呆然と眺めていた。
・・床に刻み込まれていく・・『敗北の証』をーー。
「・・あんた・・正真正銘・・本物の『アホ』だな。」
頭上から・・呆れたような声が聞こえてきたー。
ギョッとして顔を上げると、目の前に彼の顔があった・・。
「・・時間切れだー。」
そう呟いたかと思うと・・突然彼の顔が近づいてきたーー!!
驚いて逃げようとすると・・両手で顔を挟まれ・・固定されてしまったーー!!
・・反射的に目を閉じると・・瞼の上を・・温かく、柔らかい何かが覆った・・。
それがそのまま・・涙の軌跡を辿っていくー。
・・瞼から頬へ・・頬から顎へーー
・・少しずつ・・少しずつ・・おりて行く・・。
彼の指先が唇に触れ・・私は思わずビクリとしたーー!
・・そこで彼は、ゆっくりと顔を離した・・。
そして、私の瞳を真っ直ぐ見つめると・・今までで一番穏やかな表情で囁いた。
「・・契約成立だ、引きこもりのお姫様ー。 ・・俺も約束守るから、あんたも約束破るなよ・・?」