第13話:腐った心
トゥルルル・・トゥルルル・・
電話のコール音が繰り返されるー。
『ーーはい。』
しばらくして、聞きなれた声が電話に出たー。
「・・お父さん、美月です・・。」
『・・・。』
電話の向こうから『ああ。』と言うそっけない声が聞こえてきた。
『・・どうした?』
「・・・。」
・・どうした・・?
この人は今日、私を家から追い出したー。
その後渚さんに全てを託したとはいえ、「一人娘」である私のその後の動向など・・一切気にならなかったのだろうか?
私は複雑な気持ちで話を続けたー。
「・・今、私・・可憐さんのマンションにいます・・。」
父はしばらく黙り込んで『・・そうか。』と答えた。
「・・可憐さん、「男」だったんだけど・・。」
『・・・。』
電話の向こうの父は何も答えないー。
私は次第にイラついてきたーー!
「私さっき、彼に襲われたんだけどーー!!」
『・・・。』
電話の向こうの反応は・・それでもなかった。
私は困惑したー。
『・・それで?』
「ーーえっ?」
『それでどうなった?』
「ーーー!?」
・・ソレデドウナッタ・・!?
私は脳天をハンマーでかち割られるような衝撃を受けたー!!
・・それでどうなったか・・ですって・・!?
鼓動がどんどん速くなっていくーー!!
私は自分の顔が”般若”のごとき形相に変わりゆくのを感じた・・!!
・・一体、何を言っているのだ・・この人は・・?
父親なら・・親なら、他に言う事があるのではないか・・?
「・・どうなったか・・ですって・・!?」
私は震える声で叫んだーー!!
「・・何も・・何もなかったよーー!! ・・私・・どうにか、本当にどうにか逃げ出したんだからーー!
・・本当に、本当に怖かったんだからーー!!」
ーー私は瞼が熱くなるのを感じたーー。
「・・でも私・・まだ彼の部屋に閉じ込められているの。 ・・お父さんお願い・・助けて・・!」
電話を持つ手が徐々に震えてくるのを感じたーー。
・・先程の恐怖が甦ってくる・・!
(・・そうだ! ・・今すぐお父さんに助けてもらって、この部屋からでなきゃ・・!! ・・とにかく、ここから逃げなきゃーー!!)
私は携帯電話を握り締め、父の返事を待っていた・・!
しばらくして・・父が電話の向こうから話しかけてきたー。
『・・美月、一つ質問していいか?』
し・・質問? 何を悠長に・・。
私はそう思いながらも「うん。」と返事をした。
『・・お前、今までずっと家に引きこもっていたが、もし今日私が家から出さなかったら・・この先どうするつもりだったんだ・・?』
・・えっ・・!?
私の思考はピタリと停止したーー。
(・・・。)
私は無言だったー。
・・何を・・何を突然言い出すのだ?・・この人はー。
・・今・・今「それ」を聞きますか・・!?
『そもそもお前は”結婚”する気はあるのか?』
私はピクリと反応し、再び黙り込んでしまったー。
・・何も話せるはずがなかった・・。
私は全身に・・嫌な汗が流れるのを感じたー。
・・しばしの無言の後・・父がその沈黙を破った。
『・・答えないと言う事は・・”それ”が答えだと言うことだな?』
ーー彼は畳み掛けてきた。
『つまりお前は、私が「死ぬまで」あの部屋から出てくるつもりもなかったし、今後一切・・就職はおろか、結婚する気も出産する気もなかった。・・そういう事だろう?』
「・・ちがっ・・」
私は力なく否定したー。
でも・・黙り込んで反論を待つ父に、それ以上・・話を続ける事が出来なかったーー。
言葉では反論したが、私は心の中で毒づいていた・・!
(ーーそうだよ!! ・・そうですーー!!
私は一生、就職も結婚もせず・・あの12畳の部屋の中で暮らすつもりでした・・!! ・・だって、それが出来る「環境」なんだもん・・!!
何もしなくたって、家は勝手に大きくなっていくし・・あなたは殺しても死なない程、健康で「図太い」ーー!
・・便利な世の中で、パソコンのキーひとつ押すだけで、必要なものは何でも届けてもらえるー。
何一つ生活に不自由しない・・!
それに何といっても・・私が一番苦手な『人間』と関わらなくてすむ・・!!
だから「あの部屋」から・・・’死ぬまで’出ないつもりでしたーー! ・・何かまずいですか・・!?)
そんな気持ち、口が裂けても言えるわけがなかった・・!!
・・でも、それが私の『偽らざる本音』だったー。
黙っていた父が一言ボソリと呟いたー。
『・・美月、お前の心は腐っているー。』
「~~~!!」
・・私は絶句したーー!!
正直な話・・今の私は見も心もボロボロだった・・!
「今」はとにかく余計な事を考えず、一刻も早く安全な場所に避難して・・安心したいー。
なのに・・そんな私に「とどめ」をさしますか・・あなたは・・!?
そんな私の気持ちを知ってか知らずか・・父は言葉を続けた・・。
『・・美月、お前だけじゃなく、私も”一人っ子”だった。
お前は知らんだろうが、我が家は結構長く続いている家系で・・先祖の墓もある。
・・しかし、一人っ子のお前が結婚しなければ・・うちの家系は絶えるー! ・・ようするに、我が家は『断絶』するーー!!
・・お前それが分かっているか・・!?』
・・私は何も答えなかったー。
そんなの分かっていたに決まってる。 見てみぬふりをしてきたが・・。
『ーーお前は私を”無縁仏”にするつもりか・・!?』
父は吐き出すように叫んだーー!!
『・・美月、私はもう50だー。 そろそろ孫の顔が見たいー。
・・だがお前は、今後結婚する気がないんだろうが・・!?』
私はもはや逃げたくなり、心の耳に蓋をしかけていた・・。
『美月・・お前、可憐が何故お前なんぞに手を出そうとしたか・・不思議に思わなかったか?』
私は閉じかけていた目を、ガッと見開いたーー!!
今、お前なんぞと言う・・親として「あるまじき発言」が飛び出したような気がしたが・・それはひとまず置いといて・・今私が『最も気になっていた事』が明かされようとしていたからだった・・!!
私は息を呑み、父の話を聞いていたー。
『・・美月、可憐は女になりたがっている・・。』
「・・は?」
『・・可憐は・・あいつは『性転換』しようとしているー。』
う~ん。美月は本当に困った考えの持ち主ですね。
こんなのが主人公って・・。本当にすみません・・。
でも今後、人との関わりをとおして、彼女のこの困った性格を変えていければな・・と思っております。
イラつく方もいらっしゃるでしょうが、温かい目で見守って頂ければありがたいです。
また、未熟な点が多く(?)なことも多いでしょうが、何卒よろしくお願いします。