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プロローグ


・・バリッ・・バリバリバリッ・・ベリンーー!!


 けたたましい騒音に私の心臓はビクリと跳ねたー。

 間もなく、私の部屋の扉がガチャリと開かれ、大柄で短髪な私の父と水色の作業着姿の二十歳(はたち)前後の青年が並んで立っているのが見えた。


 父は眉間に皺を寄せ、冷ややかな眼差しで私を見下ろしていたー。

 それとは対照的に作業着姿の男性は、気まずそうな面持ちで私のほうをチラチラと盗み見ていた。

 彼の手には取り外したばかりの鍵穴らしき物が握られていた。

 

 一方の私は、無理矢理こじ開けられた十二畳の部屋の中で、両手に食べかけのカップめんを持ち、上下グレーのスウェット姿にぼさぼさ頭という・・この上なく小汚い格好で硬直していた。

 口からは食べかけのラーメンが、一筋垂れていた。


 父は、思い立ったようにズカズカと部屋に侵入してきて私の手首をガシリと掴んだかと思うと、そのまま物凄い勢いで私を部屋の外に連れ出した。

 部屋の入り口で申し訳なさそうな鍵職人のお兄さんと目が合ったが、彼が事態を改善できるはずもなく、そのまま強引に引き摺り出された。

 嫌がってつんのめって転んだ末に、うつ伏せでズルズルと引き摺られる私は、まるで市中引き回しの囚人のようだった。

 

 父は絶対に手を離さず、そのまま階段を降り、長い廊下を抜け、吹き抜けで天井の高い玄関まで連れていくと、真冬の空の下私を扉の外に放り出したー。 


 ーガチャリッー


 冷たい金属音があたり一帯に響いた。


「・・うそでしょ?」

 あまりの事態に私は呆然とし、しばらくして我に返ると大急ぎでドアにかじりつき力の限り叩いた。


 ードンドンドンドンッー!

「・・お父さん! 開けてっ、お父さん!!」


 父は何の反応も示さない。冗談じゃない!何の虐待だ、これは・・!?

 北風が全身を通り抜けスウェット1枚の体がどんどん冷えていくのを感じたー。


「・・お父さんっ! 何でこんなことするのっ? 私が何かした?お父さんっ・・!」

 ーバンッバンッバンッー!!


 (くっそ、この親父・・人がこの年になっていきなりコレかよっ!思い切り騒いで近所に通報させて後悔させてやるぞ~?おらあぁっ~!?)

 などと思いながらしつこくドアを叩き叫んでいると・・


「・・うるさいっ、黙りなさい!!」


 父の冷たい一喝が飛んできた!

 ・・思わずじわりと涙が出てきた。こんな日に何を考えているのだ、私の父はー。

 今日は・・今日は私の、私の・・

 どんどん悲しくなりグスグスとしゃくりあげていると、扉の中から少しだけ優しくなった声が聞こえてきたー。


「・・美月は今日誕生日だろう?こんな日は家の中に引きこもってちゃだめだー。」

 それを聞き、私は少し安心した。忘れてたわけじゃなかったんだー。


「だから今日は出掛けておいで?門の所で渚さんが車に乗って待ってくれてるから。

 車の中に父さんからのプレゼントも積んでいるぞ?こんな日は家の中にいるものじゃない。」

 

 本当は外になど出たくなかったー。

 でもこんな強硬な手段を使ってまで、私を外に連れ出そうとする父の気持ちを無下にはできなかった。

 

「わかった・・。」

 そう言ってとぼとぼと門の方へ歩いていくと、ガチャリと音がし父が半分だけ顔を出して言った。


「・・美月、誕生日おめでとう。」

 

 それを聞き、私はにこりと微笑んだー。

 まさかこの瞬間が、私がこの家で過ごす『最後の時』になるなどとは、夢にも思わずに・・。



























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