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俺が殺した

今回は短めです。

気がつけば視界に映るのは青い空。

目に入ってくるのは強い太陽光で、せっかく目を開いたというのに閉じ返しそうになる。

「あ!目覚めましたか!?大丈夫ですか!??」

耳元に響く少女の声。思わず目を向けるも、眩しい光に目を向けたせいか一瞬では誰がいるのか判別できなかった。

「起きた!本当に大丈夫??」

「体調はどうだ?」

目が慣れてきた頃、そこにいたのは女性3人。何故こんな状況になっているのか頭を回転させて、状況把握を図る。

そうだ、思い出した。全くそんなことで倒れてしまうなんて俺としたことが…。

「ごめん。ちょっと貧血になってたみたい。」

「ひ、貧血…?」

「あぁ、心配かけた。それより、やっぱり俺たちで遊びに行かないか?」

「え、でも帰られた方がいいんじゃないですか…?倒れてしまうぐらいに体調が悪いんでしょう?」

「いや、本当に大丈夫。昨日ゲームしすぎて寝不足だったのもあるし。君の顔見て復活したよ。」

「な…。ちょっとからかわないでください!」

「まぁそんな軽口叩けるなら大丈夫そうだね。」

「…。」

元気を証明するために他愛のない会話をしている中、1人凄く疑念に満ちた顔でこちらを見つめてくる。

「どうしました?俺の顔になにか着いてますか?」

「どうしたはこちらのセリフだ。」

その女性は、しっかりと俺の目を見つめた。

「君に…、何が起きたんだ?君は…誰だ?」

何を当然の事を聞いているんだろう。

真っ直ぐに見つめてくるので、俺も真っ直ぐに見つめ返し、笑って言った。

「俺は、蓮見葉ですよ。織理葉せーんぱい?」




電車に乗り、帰路を辿る。

とち狂った織理葉との一件の後、僕たちはその後も遊び巡りを続け、気づけば日も傾き始めていた。

彼女らはまだ残るということで、僕たちだけ一足先に退散という流れである、なにせこの後用事があるからな。

電車内はガラガラで、朱里は疲れてしまったのか、幸せそうな寝顔で僕の方にもたれ掛かりながら寝息を立てている。

電車に揺られながら、僕はぼーっと反対側の窓の景色を見つめていた。

今までの得た情報を何となく整理していた。

でも、結論には至らない。結局何で僕が記憶を失ったのか、何故1年間''だけ''の記憶がないのか。

そして…、僕が知らない現実を生きた蓮見葉のこと。

これらの謎に、直接的に繋がるような情報は得ることが出来なかった。これ以上は、専門家の知恵を頼るしかないのだろう。

オレンジかかった空、眩しいほどに輝く夕日が僕たちの見えないところに落ちていこうとするのが見える。

猛スピードで流れていく街の外観。目まぐるしく景色が移り変わっていく。

「時間も…同じだよな。」

年齢を重ねるにつれて、この時が永遠に続くと思っていた小さい頃とは異なり、時間がどんどんと加速しているのを感じる。

そして、加速する中の貴重な1年間を、僕は失ってしまった。

「ふわぁーあ…。寝ちゃってたな。あれ…、お兄ちゃん泣いてる…?」

綺麗な景色を見ていられる時間も終わりのようだ。いつの間にか終点を伝えるアナウンスが流れている。

「泣いてるわけないだろ、行こう。」

日光にずっと当たっていたせいか、少しばかり汗をかいてしまった。


目的の一軒家に辿り着き、インターホンを鳴らす。カメラに向かって顔を見せ、名前を言った。

ハーイと返事か来た後、ドアが開かれる。

ドアの先には綺麗なお姉さんが立っていた。

「話は聞いてるよ。さぁ入って入って。」

「し、失礼します。」

「お邪魔しまーす。」

少し薄着すぎるお姉さんにあまり目を向けないようにしつつ、招かれるまま中へ入る。

ゆっくりしててね。と言って来た道を戻り、玄関前の階段を登って行った。

5秒後、何故か家が揺れ、目の前に現れたお兄さんの頬には大きく手のマークがついていた。

「ごめんごめん。待たせたね。」

「「い、いえ…。」」

何が起きたのだろう…。

とりあえず僕も朱里も全く同じ苦笑いで、それには触れないことにした。

眼鏡をかけていて、背が高く、世の中にアンケートをとったとしても満場一致でイケメンになるような柔らかい雰囲気を醸し出す顔立ち。

昔から親交のある精神科医で、とても優しい。完璧な人であると見せかけて、意外とズボラなところもあるらしいが、それもイケメンと合わせると抜けたところもあって可愛い、というプラスステータスに変わるという。

そんな絵心がある神様が右手で1日かけて作ったような人間が目の前の男性。丸喜春樹さんである。

「今日は宜しかったんですか?病院の方は…。」

当然彼にも勤め先はあるわけで、元々連絡入れていたとはいえ、こんなおしかけ方をしたのは迷惑であっただろう。

「大丈夫大丈夫。元々休みの日だから。」

「休みの日まですみません。ありがとうございます。」

申し訳なさで口から出た言葉に、春樹さんはニコッと笑った。

「何言ってるんだよ。元々君たちが困った時は僕が引き受けると約束してるんだから当たり前でしょ。」

いつの間にかお姉さんが紅茶を用意して持ってきてくれた。

春樹さんは紅茶を用意してくれたお姉さんに感謝しつつ1口飲み込む。一息ついて続けた。

「元々、その約束だって2人の顔を見たかったから申し出たんだ。おかけで最高の休日になりそうだよ。」

うっ!!眩しい…!春樹さんのあまりの輝きに直視することができないっ!!

思わず目を逸らして朱里の方を見ると、信じられないぐらいニコニコしていた。(^u^)

「そういえば、彼女のことは話したことがあったかい?」

キッチンからお菓子のたくさん入ったお皿を持ってきてくれたその彼女は私たちを見てうーんと考えた顔をする。

「少なくとも私はさっき聞いたばかりだけどね。こーんな可愛い弟妹がいるならもっと早く教えてもらいたかったものだけど。」

「だろう?僕の自慢の兄弟だよ。」

当然この兄弟というのは本当の意味で使っている訳ではなく、そのような扱いをしてくれているだけである。僕たちにとってこれ以上に嬉しい言葉はないが。

「それはさておき、紹介しておくと、この人は春宮渚さん。僕が…いくつぐらい?

小学生ぐらいの時から関係があって、色々助けて貰ってる。中学高校ひいては大学まで同じなんだ。凄いだろ?」

「そうですね。本当に。」

小学生から中学生までなら至って普通のことであるが、高校、ましてや大学は明確に人生の進路が別れるところで、目指すところが同じでも途中の道筋が同じとは限らない。

そこまでも同じというのは、よっぽど奇跡があったのか、それとも別の狙いがあったのかと勘ぐってしまうほどだ。なんにせよ本当に珍しいことだろう。

「今日はたまたま家に来てくれていたんだ。」

たまたま家に…ねぇ。どこにどんなものがあるのかも把握しているようだし…。いや、変にそこを深堀るのは良くないよな。

「お二人って付き合ってるんですかー??」

「ブフォッ!」

「うお!?」

吹き出したのは僕…、ではなく渚さんだ。せっかくいただいた紅茶を零してなるものか。

「にゃ…何言い出すのいきなり…!」

突拍子もないことを言われたせいでまだ咳き込んでいる。可哀想に…。

突然の口からスプラッシュに心底驚いた様子だったが春樹さんは机を拭きながら渚さんに紅茶を飲むように言っている。

残念ながら朱里が僕と同い年になるにはまだ時間がかかるようである。

「あいたっ!」

朱里をベシッと軽く小突いた。

「でもでも〜だって聞きたくなるでしょこんな関係みたらさぁ…。渚さんすっごい綺麗だしお似合いじゃん。」

「無粋なことを聞くな。」

「なんかツッコミズレてない?」

小声でボソボソ言い合いながら軽く掃除を手伝い、落ち着いて座り直す。

「そんな軽い質問で吹き出すことないだろう。僕達の関係は一目瞭然なんだから。」

「へ!??」

「え。」

「ん?」

今なんて言った?

「いや、どっからどー見ても僕ら親友だろ?」

「…。」

沈黙である。

「渚さん。もう1発いきません?」

「…そうね。」

「…ん?なんのはな」

春樹さんが喋ってる途中で思いっきり渚さんの鉄拳が炸裂した。グーで行った。

随分とまぁ痛そうである。僕なら泣く。

人ってあんな吹っ飛び方するんだー…。って言いたくなるぐらいの飛距離と2回転する芸術性を魅せた。これがAmerica's Got Talentであれば思わずスタンディングオベーションからのゴールデンブザー間違いないだろう。

脈を確認しに春樹さんに近づくと、随分とご立派な顔飾りが二重になっていた。


あの後私と渚さん共に春樹さんに説教され、全員が席に座り直した。

春樹さんが気を撮りなおそうか。と言って咳払いをした。

「で、本題に入るけど記憶喪失…らしいね?」

「はい。」

「病院には行ったのかい?」

「いえ、まだです。」

「普通そういうのは早めに病院に駆け込んだ方がいいとは思うけど、確かに君らだけで病院行くのは中々勇気いるだろうし、僕のところ来てくれたからね。」

私達に気を遣ってか、適度のフォローを入れてくれる。

「これまで何があったのか、覚えている限りでいいから教えてくれる?」

「はい。初めにこの事態に気づいたのは…」

これまでの経緯をお兄ちゃんは話した。

濃い毎日だったからか、言葉に詰まることもなく流暢に話し、現在に辿り着くのに差程時間はかからなかった。

「大変だったね。話してくれてありがとう。」

話している途中、ずっと考え込んだ顔をしていたが、話終わると柔らかい笑顔に戻る。

「彼が無くした記憶の世界を生きた彼、要は失った記憶の蓮見葉君は、元気にしていたんだよね?」

「はい。元気すぎるくらいでした。」

「元気''すぎる?''」

少し前に思い出した、ちょっとした違和感のことだった。

知ってることも感じたことも洗いざらい話した。私が引っ越してきてお兄ちゃんと過ごした、何の異変もなかったはずだった兄弟の軌跡。

「…君は…。」

とうとう笑顔に戻ることもなく、その頭の中では広大な思考世界を走り回っていることだろう。

「そうだ。思い出した!今家のコーヒーが切れているんだった。悪いけど、朱里ちゃん、渚と一緒に買いに行ってくれないかな?」

「はっ?なんで─」

「蓮見兄弟御用達のコーヒーがどんなものが知りたいからさ。」

「いやウチ大したもの買ってないですけど…。」

なんでこのタイミングなのだろう。タイミングなら他にいくらでも…。

「…そうね。買いに行きましょうか。難しい話をしているんだから温かいものでも飲みたいでしょう?私も朱里ちゃんの日頃の話よく聞きたいし。お願い。」

そこまで言われては断るわけにはいかないので、分かりましたと言いながら頷く。

渚さんが財布を用意した後、リビングを隔てるドアの横に春樹さんが立っていた。

「ごめんね。よろしくお願いします。」

ドアを抜けて、春樹さんが閉めてくれる時、お兄ちゃんの笑った顔、春樹さんの笑った顔が同時に視界に映る。

その時の春樹さんの顔に、私はちょっとした違和感を覚えた。


渚さんと他愛もない話をしながら買い物をして戻ってきた後も、本題に特に言及されることはなく、なんだか不完全燃焼で家に戻ってきてしまった。

夕食の準備をしながら、違和感の正体について探ってみることにする。

「お兄ちゃん。私が渚さんと買い物に行った間春樹さんと何話してたの。」

「いや、僕たちはただ雑談してただけだ。」

間髪入れずに返してくるが、お生憎様あの状況でそんな言葉はとても信じられない。

「あんなに強引に私の居ない状況を作り出しておいてそれはないでしょ。」

「そうは言われても本当だから仕方ないだろ。それとも雑談の内容に着いて語って欲しいのか?」

「あのさぁ…。」

私が真剣に話をしているのが伝わってないのか、求めている返答を返さない事に苛立ちを覚える。

「あのさ、お兄ちゃんの今の状況を打破しようとこっちも協力してるんだけど、ふざけてないで真面目に話してよ。」

「俺は最初から真面目に話してる。」

「この会話時間の無駄でしょ。」

「お前は俺の心の内が全部読み取れんのか?」

「っ…。急に何言ってんの?」

怒気を孕んだお兄ちゃんの言葉に、一瞬怯んでしまうが、悪いのはお兄ちゃんだ。引くわけにはいかない。

「読めないよな?なのに分かったように言うんじゃねぇよ。」

普段怒りなんて見せたことがないお兄ちゃんが、本気で怒っている。

「わ…、私はお兄ちゃんを助けようとしてる…し、そのために隠し事なんてされたらどうしていいかわかんないよ…。家族なんだから話してよ…。」

「…家族だったら何でも話すのか?」

「…え…。」

「俺には言いたくないことがあるのに、それでも家族だから全部言えって話だろ?」

「いや…そういうわけ…」

「いい加減やめてくれよ。その思いやりの押し付け。ストレス溜まってしょうがないんだよ。」

「お兄ちゃ…」

「俺には俺の事情があるんだよ!いちいちそれを掘り返してこないでくれよ!!」

「…あ…、ごめん…。」

言った瞬間、ハッと驚いたような顔をして、謝罪の言葉を述べた。

重い空気が辺りを漂う。そのせいか、私は一歩も動くことが出来なかった。

「…今日はお兄ちゃんお手製のオムライスを振舞うよ!!朱里好きだろ?」

「私、家族失敗だね。」

「え…?」

「ごめん。今日はもう寝るね。」

「いや、ごめん、待っ

聞こえないふりをして、部屋の扉を閉じた。


「…俺は最低だ。」

虚しく響いたドアの音、いつもなら心地の良い静寂も、今日は心を締め付ける後押しをするようで、どこかに逃げてしまいたい気分だった。

朱里が質問をしてくるのも当然だったのに。彼女は誰よりも本気で俺のことを考えてくれていたのに。

何故、あんなことを口走ったのだろう。何故、心配してくれている朱里の気持ちを踏みにじったのだろう、何故、何故、なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜどうしてどうしてどうしてどうして。

心の中には、沢山の疑問が浮かぶ。自分の生きている意味を、価値を、疑う。

俺の周りからは、こうして人が居なくなるのだろうか。

視界が眩む。そういえば、オフ会の時も、こうして倒れたんだっけ。

この感覚には、覚えがある。

これは、そう。あの時。

自分の 母親を 俺が殺した時。

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