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頭が良くて頭がおかしい人間

文章量を徐々に増やそうか悩み中。

文章量の勝手を知りたい。

夜、朱里お手製オムライスの隠し味に何故かわさびを突っ込んだ件で壮絶な喧嘩をした後のこと。

アプリ''コネクト''のスマホ版がリリースされたので、インストールして同期を済ませた後、のんびり部屋で小豆さんの本の世界に耽っていた。

一段落して、珈琲を作ろうと席を立ったところで、モニターに通知が貯まっているのが目に映った。

俺が失った1年間の間もグループは活動しているのかとほっとした気持ちがしたのと同時に、個人間の通知が来ていることにも気づく。

From:Rin

「今日のことは、私達の秘密にしてくださいね。」

「…何のことだ?」

時刻は夜9時を回ったところ。夜遅くに返信を返すのも気が引けたので、リアクションを起こすことも無く、扉に手をかけた。


同時刻、蓮見朱里は部屋の椅子に座り、ペンを書き進めていた。

蓮見朱里には日課がある。それは、毎日の日記をつけること。詳しくは覚えていないのだけれど、家族に日記をつけることを教えてもらった。

今日は波乱万丈の日で、当然書くことには困らなかった。勿論主題は、お兄ちゃんの記憶喪失。

夜空を眺めながら、昨日の夜のことを振り返っていた。


記憶喪失騒動、1日前。

何日か前に引っ越した私は、スーパーで今日の夜ご飯の具材を買った後、帰路を渡っていた。

「あり?あー…あれ?」

家の前に着くと、鍵を持っていないことに気づく。そういえば、家の中から鍵を持って行っていなかったかもしれない。

しょうがないので、ドアをガンガン叩く。

「おにいちゃーん。鍵忘れちゃった〜。入れて〜。」

「あーはいはい!」

ドタドタと中から鍵を開けてくれる。

「ありがと。お兄ちゃん。」

「あいよ。」

買ったものを置き、手を洗いに行く。

リビングに戻ると、お兄ちゃんが料理を始めようとしていた。

「あ、ありがと。私やるよ。」

「良いよ。お兄ちゃんに任せとけ。一人暮らし続けて自炊は上手くなってんだ。」

「いーの!お兄ちゃんは座ってて!」

「じゃあじゃんけんしよう。俺が勝ったら2人で作ろうぜ。な?」

「何それ。意味わかんないんだけど。」

結局私は負けたので、2人で料理に取り掛かった。

「お兄ちゃんさ、最近変わったよね。」

「そうか?昔からカッコイイお兄ちゃんだっただろ。」

「カッコイイとは思ってなかったけど、カッコよくなったとは思う。」

「どの点が?」

「なんというか、話すのがとても上手くなった。最初はお兄ちゃんじゃないと思ったぐらい。人って変わるね。」

今この瞬間が、今までよりも楽しい。でも、なんというか、なんなんだろう、安心感…?というものがない、かもしれない。

気のせいだろうか。それとも変わりようについていけてないだけか。

「あはは、まぁ分からないけど。今まで通りのキャラも良かったと思っちゃってるから、寂しくもあるなぁ、なんちゃって。」

そう笑ってお兄ちゃんの方を向くと、さっきまでの笑った顔が一変、真顔になっていた。

「人は、そんな簡単には変わらないよ。」

「…え?」

「思ってたんだ、最近。そういえば、僕はどういう人間だったっけってさ。そしたら、僕は違うんだ。僕は、僕であって、僕でないのかもしれない。」

「な…何?さっきから何を言ってるの?」

「なあ、朱里、人は変わらないよ。だけど、俺は今気づいた。」

「な…何を?」

何か、お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないみたいで、知らない顔をしていた。

「俺は、人が変わっていたよ。」


あの時は、厨二病の再発でもしたのかと思っていて、気にも止めていなかった。だからあんなにおかしいお兄ちゃんを''ちょっとした違和感''で済ませた。

けど、今日のお兄ちゃんからその違和感は払拭されていた。むしろそれが違和感になっていた。

「一体、お兄ちゃんの身に何が起きているの…?」

静寂の中、空の星々を眺めながら私は1人呟いていた。


月は落ち、日が昇る。

いつも通りの時間にいつも通り鳴るアラームをいつも通り止めて、私はベッドから起き上がる。

今日春樹さんの元に向かうのは夕方頃。

つまりその時間まではフリータイムということだ。

今日は何をしようかな。とボーッとした頭で考えながら服を着替える。

ドアを開けると、ちょうどお兄ちゃんも同じタイミングで起きたようで、同時にドアが開いた。

「おはよ。お兄ちゃん。」

「あぁ。おはよう。珈琲でも入れようか?」

「砂糖2個入れてミルク多めで!」

「はいはい。」

兄ほどは苦いものが得意ではないので、珈琲は甘々にしてもらった。

今日はお兄ちゃんが作った目玉焼き。

お兄ちゃんの食べている方を覗くと、失敗したのか形が崩れている。

「おひいちゃん、きょうなにふるの?」

「お兄ちゃん今日何するの。」

コクコクと頷くと、お兄ちゃんはちょっとしたドヤ顔をした。

「うーむ。夕方まで暇だからな。どう過ごそうか。」

今日は暇。という返答がとれたので、先程思いついた妙案を提示する。

「もしさ、お兄ちゃんが記憶喪失なら関連深いところを巡ることで記憶が戻るとかありそうじゃない?」

「あぁー…。」

お兄ちゃんが記憶を失ったのは何か訳があったはずだ。なら、その要因となった場所に行けばなにか分かるんじゃないかと思った。

「何も見つかんなくてもリフレッシュにはなるしさ。」

「…もしやそっちが目的じゃないだろうな?」

「そっちの目的が中心に決まってるでしょ。」

途端に兄の顔は落胆したものになった。


とりあえず私たちは外に出てみることに。

「お兄ちゃんの持つ最後の記憶で、どこに行ったとかある?」

「あー…うーん。記憶が無くなる直前はあまりハッキリと覚えていないんだが…。」

暫し考え込む様子を見せる。

「…そうだ。都会。」

「都会??」

ざっくりとした表現だ。流石に情報が足りない。

「都会ってどこ?」

「思い出せない。」

「名前思い出せないって結構相当だと思うけど。」

どうしようかと考えていたところ、お兄ちゃんが頭を撫でてくる。

「とりあえず駅に行ってみないか?なんにせよ電車は乗ったと思うからさ。」

「いいね。だけど、実質同い年なのに頭は撫でないで。」

ペシと手を払いのけると、さっさと歩き出す。

ちょっと勿体ないことしたかな。


妹の成長を寂しく思いながら、僕達はいつも使用している駅までやって来た。

来てみないと分からないと思ったが…。来てみても分からないな。うーん。

「何も思い出せなさそうな顔してる。」

「悪い。無駄足かも。」

「そうならない為になんか思い出して。」

そんな無茶な要求があるか。という言葉を飲み込み、ひたすら記憶の引き出しを漁る。

しかし、記憶のショックのせいか、知らぬ間に経過していた1年のせいか、引き出しの鍵を紛失したかもしれない。いくら考えても得られるのは頭の痛みのみ。

「うーん。こうなると適当な場所に行ってみるしかないかなー。」

「うむむ…。」

そういう路線に舵を取ろうと思ったところで、ポケットのスマホが震えた。

無意識的にスマホを取り出すと、コネクトの通知だった。

どうやら再度オフ会をしようとのお達しのようだが…。

失くしたものというのは、やはり意識外のところにあるようだ。

「それだ!!!」

「うわ!急に大声出さないでよ!」

僕が思ってる以上に声が出てしまったようで、周りの視線がこちらに注目していた。


「はえー、普通に池袋か。なら適当に周っていく作戦でも行けたかもね。」

「ま、疑念持っていくのと確信持っていくのとじゃ全然違うだろ?」

「まぁね。」

僕達は池袋に訪れていた。

僕からすると、池袋は完全にアウェイと言うやつで、なかなか来るものでは無い。

それでも、一年前はオフ会ということで来たんだった。そして、僕達がオフ会を始めたのは適当に見つけたカフェ。その名前もまた思い出せないけど、位置なら大体は分かる。

蘇ってきた記憶を頼りに道路を横断する。

「にしても、スマホから思い出してたけど、なんか写真でも見つけたの?」

「いや、オフ…じゃなかった、集まってた友達から連絡が来て思い出しただけだ。」

そういえば、写真は撮っていなかったな、

Aiは結構撮りたがる感じの風貌をしていたが。

カフェの前にたどり着くと、改めてここが自分が訪れたところだと確信が持てた。

「ど?なにか思い出せそう?とりあえず中入る?お腹すいちゃったし。」

「うむむ。中入って考えるか…。」

僕達は中に入ろうとした時、意外すぎる声が耳に入る。

「お!え!?葉君じゃん!?えぇなんで!?」

「…ホントだな。」

横を見ると見覚えのある顔。

「…Ai?SAO?」

「何を今更そんな呼び方しちゃってんの。昔の癖?」

この2人との対話は記憶を取り戻すためには必要不可欠…かもしれない。

「誰?この人達」

コソコソ話で当然の疑問を投げてくる。

「もしかしたら、今回のキーアイテムかもしれない。」

「キーアイテム…。」

そう言うと、朱里は1歩前に出た。

「とりあえず中でお話しませんか?色々聞かせてもらいたいことがありまして。」

「…彼女?モテモテだね〜葉君。」

「違う。」


カフェに入り、4人用の席を案内され、腰掛ける。

2人とは初対面の朱里もいることなので、自己紹介をする。

「ひえー!妹さんか!道理で雰囲気が似てるね。超可愛い!」

「そうですか?あまり兄と似てると言われたことはないんですけど。」

「まあ見た目は似てる。」

3人が談笑してる間、僕は1人考え事をしていた。

この2人に今の僕の現状を話すかどうか。

クラスの友人は、どの程度の関係性であったか分からない。その上、親しい関係だったとしても俺目線からはリセット状態にあるから意味が無い。日頃から接する者にこういうことを話すと余計な混乱を与えかねないから、記憶喪失を伝えたりはしなかった。

しかしながらこの2人は記憶喪失を起こした僕の目線から見てもある程度親しい関係にあると分かる。信頼があるし、接してきている歴が比較的長い。

日頃から会う相手ではない、少し遠い相手なのもポイントだ。気軽に相談できて、尚且つ頼りになるかもしれない。

しかし…、今思い出したが、僕はこの二人、というより佐藤織理葉と仲違いをした記憶がある。

しかも、一方的に俺が怒ってしまった。一方的に俺が悪い案件で、その手前頼りずらい。

しかし、僕はあの時グループを抜けることを覚悟したはずだが、今もこうして入ってるということは仲直りはしたのだろうか。

「葉君?」

「何?」

「いや、なんか難しそうな顔してるからさ、大丈夫?」

「…。」

心配してくれる愛梨。怪訝そうに俺を見つめる織理葉。この状況をどうしようか。

…悩んでいても仕方ない…か。俺の感情なんかを判断材料に入れていても仕方ないよな。

「愛梨、織理葉さん、聞いて欲しいことがある。」

「え?うん。」

「…どうした?」

「笑わないで聞いてくれ。」

1呼吸置いて、僕は告白する。

俺が衝突している、人生最大の困難を。


「…は???」

「…何?」

2人のお姉さんは、お兄ちゃんの告白を聞いて困惑していた。

「なんかの冗談とか…?」

「言うように見えるか?」

「残念ながら全く見えない。」

とても信じられない。といった様子で愛梨さんは目を見開き、対照的に織理葉さんは目をつぶって何か考えている様子だった。

「蓮見君。」

「は、はい。」

名前が指しているのは疑うまでもなくお兄ちゃんの方で、私は相変わらず口を閉じたまま。

「確認だが、君の記憶は1年前の打ち上げを最後に消えているんだな?」

「ええ。」

「君がどの程度その時を覚えているか知らないが、何が原因か、君は倒れて意識を失っている。」

「え?」

私も初耳の情報だ。思わず声を出してしまった。

「そんなこともありましたっけ…。」

あまり覚えていない。と言った様子で、続く言葉を待っている。

「私は、そこからずっと感じてたんだ。どうも様子がおかしいってね。なんというか、もっと自分を隠さない、いや隠せない人だと思っていたが、その瞬間途端に人となりが見えなくなった。その違和感は、現在まで続いていたんだ。」

「それ私も思ってた!けど、今もまたそれとは異なってるよね。」

お兄ちゃんに起こっている異変、何がそれを引き起こしているのか…。

鍵となるのはやはり、私と織理葉さん、そして愛梨さんが感じている''違和感''だろう。

違和感の原因を探り、一つ結論が出た。

「どしたの、朱里ちゃん。何か思いついた?」

「あ…いや、なんでもないです。何なんだろうなーと。」

「問題が問題だからな、そんな簡単には真実に至らないだろう。」

私の考えてる事は、あくまで私の''見解''であって''真実''ではない。

故に、このあまりにも不確定な情報を漏らすのは逆効果だと思った。

どちらにしろ今日は春樹さんの元に向かうから、専門家の意見を仰いだ方が良いだろう。

…つまり、私たちが約束の時刻まで無理して考えてる必要はないということ!!

「お兄ちゃん、注文していい?」

「え、勿論いいけど。」

机に備え付けられているボタンを押すことで店員さんが来てくれる仕組みだ。ポチッとな。

「この蜂蜜パンケーキと、ジャンボパフェください!!」

「え。」

「あ、じゃあ私はジャンボDXパフェで!」

「デミグラスソースのハンバーグで。」

「あの、僕の話は??」

「そんなの後で良いでしょ!」

「そんなの!??」

酷くショックを受けた様子で俯いた。

「…コーヒーとオムライスで。」

「頼むんかい!」

シリアスな雰囲気から一変、心地の良いほんわかした雰囲気になった。


結局、僕の話に戻ることはなくカフェを出る。

「これは…、もうこのまま遊びに行くしかないっしょ!」

「ないっしょ!」

愛梨と朱里はすっかり意気投合してしまったようで、ウキウキとどこに遊びに行くかを考えている。

「蓮見くん。」

「あ、はい。どうしました?」

織理葉の方を向くと、じーっと僕の顔を見ている。

「私は、今の君の方が好きだな。」

「は!?」

好き…?

「…ん?いや、頬を赤くしてるんだ?どういう勘違いをしているのか知らないが、君の今の人格の方が好きだという意味だぞ?ほら、前の君と今の君は違うという話をしただろう。」

「あ、あぁ…。」

あいや、そうならいいんですよ。うん。いやー良かった。

「ところで、どういう勘違いをしたんだ?」

「べ、別に…。」

恋愛経験のない陰キャが出てしまった…。何気ない言葉で動揺しすぎだ。

「おっけぃ!葉君と織理葉ちゃん遊びに行こっか!」

「あぁさっさと行こう。」

そそくさとその場を歩き出す。

「何を動揺してるの葉くーん。」

「気にするな!!」

確かにあの時は喧嘩をしていたと思うが、仲良く遊びに行く流れにもなぜか見覚えがあるような気がして、どうやら僕は混乱しているのだと、そう結論づけた。


「普通に気になるんだけど、何故君はそんなに拗らせてるの?」

「拗らせてる…?」

少し遠くで朱里と織理葉がドコドコと音ゲーをしている。

僕たちはその待ち状態というやつで遠くからその情景を楽しんでいたところでの愛梨からの質問である。

脈絡のないその言葉に頭には「?」が浮かんでいた。

「いや…さぁ?君ってコミュ力はあると思うんだよ。」

「ないだろ。」

「あるでしょーに。的確なツッコミが出来る時点で既にあることを証明してるの。」

ふーん。と一応納得はしておく。

「コネクトの時代、要はまだ会ったことない時、文面がなんというか暗かったからさ。あーこれは、陰のものだなぁーと思った訳ですよ。」

「へぇ。」

「あんま興味なさそうだね??」

あっちで高難易度にボコボコにされてる朱里が面白いからしょうがない。

隣では織理葉がまるで阿修羅のように流れてくる音符を捌いている。

「別に陰のものならそれでいいんですよ。そういう友達多いし、そういう子の方が案外話しやすかったりするし。そう思ってきてみればなんのなんの、めちゃくちゃ喋るじゃん!!」

うるさいぐらい誇張された身振り手振り。

無視は許さないって意味だろう。

「と思ったら、節々からそのオーラ感じるし、何を君は拗らせてそうなってるのかなって。」

「ちなみに結構失礼なこと言ってるのは自覚してるか?」

「全然?」

「…。分かってたら治ってるだろ?」

「それもそう…かな?」

陰のものだったら話せないというのも結構偏見が過ぎるのではないだろうか、と本当は思うが。

しかし、僕は結構、自分を観察する方だ。

その関係で些細なことで悶々とすることも少なくない。

この性格ならオーラが溢れ出すのもおかしくない。

ただ1つ思うのは、昔は結構僕も活発だったと思うのだ。

大人になって落ち着きを得た、ということなのかもしれないけどな。またこれも思い出せないことの一つだ。何なんだ…本当に。

気づけば2人のゲームは終わったようで、凹みまくりの少女と阿修羅が戻ってきた。しまった後半は見れていなかった。惜しいものを見逃した。

「ちぇー…。」

「もう1回やろうか?」

「やりませんもうコリゴリです!!」

なんというか、確かに2歳歳は離れているのだが、余りにも精神年齢に差がありすぎるような。

まるで姉妹みたいだな。一方は幼女の。

「なんか失礼なこと考えてたでしょ。」

「いや別に??」

織理葉の近くにいると心を見透かす術を身につけてしまうのだろうか。早急に離れて欲しい。

「次はどこに行こうか。」

結構ノリノリの様子で話す織理葉。

見た目…もそうだが今まで話していた性格から鑑みても、意外にノリが良いんだなと思う。

「織理葉今日はノリノリだね〜。」

僕の心中がそのまま愛梨から放たれる。

「フフ。今日は蓮見君や、オマケに朱里ちゃんという可愛い妹さんがいるんだ。これを楽しまなくてどうする。」

「思ったんですが、織理葉さんってお兄ちゃんのこと''蓮見君''呼びなんですね?」

言われてみればそうだ。蓮見はこの場に二人いるが僕だけは名字呼び。まぁ別に今までそう呼ばれてたんだからどうということもないが。

「ふむ。言われてみればそうだな。」

「私織理葉は人のこと名前呼びする人って認識だったけど、葉くんだけは何故か名字だよね。何なんだろその特別扱いと思ってた。」

一瞬迷うような顔をして、まぁいいかと呟いた。

「正直言って、今までの蓮見君は信用出来なかったんだ。理由は先程述べた。」

「僕の心中が全く読み切れなくなったから…。」

カフェでの話し合いで、織理葉は僕の人となりが見えなくなった。と言っていた。

「今の僕の心中は読み取れますか?」

「私はエスパーではない。」

いやエスパーだろ。心を全部読み切ってくる。なにか特殊能力でもあるのかと勘ぐってしまうぐらいだ。

「だが…。まぁある程度は読みやすくなった。」

「ある程度?」

自信のあることは全部しっかり言い切りそうなものだ。''ある程度''というのは…。

「目敏い君のことだ、私の性格から見ても当然そこに疑問を持つだろう?」

「えぇ、まぁ。」

「読み切れない君と何度も接してきているから、今のような君と接する時も、別に何を考えているのか。といった変な勘繰りを無意識にしてしまうのだよ。」

織理葉は少なくとも僕の記憶中では完全に心を読み取っている。そんな彼女がここまで警戒心を剥き出しにしてしまうほど、僕は得体の知れない存在だったということだ。

「それ、今までの僕ではなく現在進行形じゃないですか。織理葉さんみたいな人がわざわざ気を遣わなくても…。」

「い、いや。違うんだ。」

動揺したように、少し目を逸らす。その姿も今までには見たことがなく、不覚にも少しドキッとしてしまいそうに…いやいやなってないぞ!

「その…、今の君は信用できると思っている。けど、本当に癖で…。申し訳ないとは思ってるんだが…。」

本当に見たことがない姿にこちらも動揺するが、とりあえずはなだめてあげた方がいいだろうか。

「あの…、その。別に気にしないでください。織理葉さんがそうなるのは貴方の責任ではなく、僕が怪しい立ち振る舞いをしていたことに問題があるんですから。」

不可抗力とはいえ、ここまで思いつめられてしまうと何か逆に申し訳なくなってくる。

「…。そうだな。わかった。」

なにか決意したような顔でこちらを見つめてくる。

「これから私は君への無礼を無くすために最大限尽力すると約束しよう。」

「いや、まぁ有難いですけどそんなかしこまって言わなくても…。」

別にわざわざ宣言する程でもないだろうに、そこまで高々と宣言されると言われる側が恥ずかしい。

「私はやる時はやる人間だ。やると決めたら全力で走り切る!」

「あ…あの?」

なんかこの人暴走してない??僕何されるのどうすればいいの?

助けを求める目で愛梨を見つめると、諦めきった顔であちゃー…をしている。

あちゃー…とは額に手を当ててちょっと上を向く仕草。某有名ワクワクすっぞキャラクターかパンチングマシーンが絡むシーンでやっていたあのような仕草…。そんなことはどうでもいい。

「今度私と2人で遊びに行こう!プランは私が考えておく!そのためにまず君が何が好きなのか何をして過ごすのか様々な情報を詳しく漏らさず私に伝えてくれ!!」

「いや…、えぇ…と。」

「さぁ!!さぁ!!!」

僕は何か勘違いをしていたようだ。

この日、織理葉の評価は''どこか頭のネジが外れている人''に変わった。

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