始めようか!オフ会!
「なんでだよ!」
「なんでもう一回言った??」
「いやアニメでも話変わる時って一瞬前から再生されるじゃん。そんな感じ。」
「何の話??」
とりあえずAiであることは間違いないのだろう。片方は。となると、横にいるのはまさか…まさか。いやそんな…まさか。あの人は男だと…。あれでも男だって話してたことあったっけあれ…?
「混乱してる様子だね葉君。」
「そもそもなんで僕の名前を知ってるんです?」
当然の疑問。僕はこの人達に名前を名乗ったことは無い。断じて言える。
「そりゃあさっきのJK共と話してた時に思いっきり名乗ってたからね。とーぜんっしょ。」
「とーぜんだ。」
とーぜんか…。
「改めて名乗らせて貰うね。わたしAi。またの名を春野愛梨!」
「SAOこと、佐藤織理葉。」
う、嘘だろ…。僕SAOのことは…。
「男の子だと思ってた?」
「当然のように人の心を見透かすところで本人だと実感が湧きました…。」
話し方、声。完全に男だと思っていた…。
「そりゃあ男の子っぽく振舞ってたからね。」
「思考盗聴はもうやめてください。」
「えなになに。話ついていけないんだけどやめて。」
当然Aiは置いてかれている。
立ち話も良いところで、僕らは近場のカフェに移動した。
「ところでもはや皆さんご存知でしょうが、改めて、Renこと蓮見葉です。」
僕だけ自己紹介をしていないことに気づいたのでやっておく。
「なんか頼むー?私あんまお腹空いてないからジャンボDXパフェにしようかな。」
お腹が空いていないという割には中々重めのものを頼むな。とは言わず苦笑いで留める。
「私はそこそこなので、チーズINハンバーグにしようか。」
以下同文。
「じゃあ、僕はコーヒーで。」
「コーヒー飲める大人アピール?」
「…。やっぱココアで。」
「図星かよ!」
「言うほどコーヒーが飲めることって大人アピールにならないと思うのだが。」
店員さんを呼び、注文する。
ちなみにSAOはちゃっかりご飯を大盛りにしていた。この人らの胃袋は恐らく無限大である。
「さて、始めようか!オフ会!!」
何故か開幕のゴングが鳴ったような気がした。
人が溢れるこの街の中で、1人のスパイがいた。
独りでに効果音を口で発する女の子は、若干の注目を集めながらも、目標らしき3人を発見する。
人の海を掻い潜り、音も立てず忍び寄る蛇。
この私から狙われたならば逃れることは出来ない!!
「…フフフ。ミッション、スタートでありゅ!」
…噛んでしまった。
さて、聞きたいことはいくつか思いついているので、一つ一つ聞いていくとしようか。
僕は幸せそうにハンバーグを噛み締めるSAOに目線を向けた。
「佐藤さんは」
「織理葉でいい。親しくいこうじゃないか。」
「私も愛梨でいいよ!」
ではお言葉に甘えるとしよう。
「織理葉さんは何故まるで男性かのような振る舞いをしていたんです?今聞いている限りだと、声色も異なるし、一人称もそう。僕は貴方がSAOであるという事実にまるで気づきませんでした。」
「意固地な奴だな…。」
子供らしく不機嫌そうに口を尖らせると、チーズを伸ばしながら肉をほうばった。
「この前のコネクトの会話、あっただろう。アレが全てだ。」
「この前のコネクト…?」
恐らく織理葉が指しているのは、オフ会を決めた会話だ。
「あの時はネットだからこその危険性について議論勃発だったね。」
織理葉が肯定するように頷く。
「ネット越しだと、相手が誰かは分からない。何を考えてるかなど尚更分からない。だから男性を騙る方が色々と都合が良いのだよ。不純な動機を持つ者を最初から排除できるからね。」
織理葉が言っているのは、女性であるからこその危険。男性を騙る事で女性目当ての者を最初から排除するという狙いがあったのだろう。
「ま、君たちはもう信頼していたから、たまにボロが出ていたかもしれないが。」
そう言ってニコッと笑う織理葉。
今まで少し謎多き、底の見えない人物だと思っていたが、少し人柄が見えた気がした。
さて、1番大きなクエスチョンが潰れたところで、次は何を聞こうか。
考えている間のちょっとした間を埋めるように愛梨が口を開く。
「あの…御趣味は?」
「合コンか。」
僕が言うまでもなく織理葉がツッコミをする。
もしやこの2人、結構いいコンビだな?
「いやぁ、話に困ったらとりあえず趣味っしょ。」
「いや…、趣味と言ったってもう知ってるだろ。大概はコネクトで話してるはずだけど。」
「コネクトで言ってない趣味は何かないの?ほら、趣味って割と多く持ってる人もいるし。」
趣味…、趣味ね。1つ思い浮かんだが、この人らに話すと面倒くさそうなので代わりに別のものを挙げることにしよう。
「アニメ鑑賞だな。」
「え、アニメとか見るの!?葉君ってば本バカだと思ってたけど。」
「ナチュラル失礼はやめろ。」
僕のことをなんだと思っているんだこいつは。
「まぁしかし、本を読んでいる者がアニメを見るのはある種当然じゃないのか?本の中にはアニメ化、映画化されているものも当然あるだろうから、アニメとの差を検証したくなるのも当然だと思うが。」
織理葉が完璧で適切な反論を述べる。
あぁ織理葉さん。やはり僕たち仲良くなれる。
「成程ね。アニメとの差。確かに原曲とアレンジされた曲を聴き比べるの楽しいもんね。」
「知らんがそうだ。」
例えが適しているかは置いておき、理解を得られたので良しとする。
「音楽と言えば、だ。」
空気が一変する。先の話を察して、汗が僕の体を冷やしていく。
愛梨はこの空気も読まずニコニコとした顔を続けている。いや、正確にはこの空気を感じるのは俺だからなのだが。
1度落ち着こうと手元のココアを取ろうとする寸前、そのカップは手元を離れ織理葉の口元に引き寄せられる。
「甘くて美味しいね。ココアって。暖かければ満点だったけれど。」
湯気を出すことなどとうに忘れているカップ。あれを飲んだとしても僕の心は落ち着かなかっただろう。
「人のココアを飲んでおいて酷い言い様ですね。」
「私と君の仲じゃないか。」
わざとやってるのか、それともそう出ないのかは定かでは無いが、織理葉さんから出る重圧感。
こんな重圧をかけられる筋合いは無いが、逃げ場はないというメッセージだけは受け取れた。
「蓮見葉君。君に折り入ってお願いがあるんだが。」
「何ですか。」
その先の話は分かりきっているが、敢えて聞き返す。無論、効果はない。
「私たちと曲を作ってみないか?」
僕は予期する。
始まるのは、ここ一番の修羅場であると。