出会い 蓮見葉とアサガオ
蓮見葉という人間は、実に打たれ弱い。
ちょっとした事で落ち込み、いつまでもその事で悩み続ける。
その度に僕を立ち直らせてくれたのは、本…ではなく、音楽だった。
自分自身の人間性が本によって形成されたとは考えていても、生きる人生の全てを本につぎ込んでいたかと言うと、否だ。
音楽に興味を持っていたことも、実はある。
しかしながら、音楽を楽しむことは出来ても、作る側になることは非常に敷居が高い。
それでも、諦めきれなかったんだ。
「オフ会…???」
部屋のモニターの前で僕は首を傾げていた。
「そうそう。集まってお話したいなぁと思って。」
いつも通りの高いテンションでAiが言う。
「いや…、危ないだろ。」
Ai、SAO、Rin、そして僕。
この4人はコネクトを介して知り合ったネッ友である。
逆に言えば、ネット越しでしか接したことがない。全員が学生と名乗っているが、本当は騙すために嘘をついていることもありえる。
まぁだからつまり…
「Aiさんはネットリテラシー?モラル?がなぁい!!!」
耳に鳴り響くもう1つの甲高い声。
「ないんですよ!!」
「聞こえてる。聞こえてるから落ち着いてRinちゃん…。」
まぁでも、実際言ってることは正しい。
ネット越しでは何が真実か、なんて分からない。ましてや女性のAiやRinは比較的危険度も高いと言えるだろう。
「いやぁね。実は私とSAOって既にあったことがあるんだよね。」
ここでSAOのミュートマークが解除される。
「うん。何ヶ月か前だけど、音楽作るサークル同士会っておいた方が良いと思って、一緒に遊びに行ったことがあったね。」
「怖くないんですか?こんなサークルメンバー全員が居る場で言うのはアレですけど、もしかしたら危ない人だって紛れ込んでるかも。」
ごもっともの意見。僕もそうだね、と賛同する。
「まぁ実際に危ないんだけど、同じ音楽を作るもの同士、悪い人じゃないなと確信してた。」
「そうそう。音楽を極めるもの同士しか感じえないシックスセンスがあるんだよ。」
「何がシックスセンスだ。ビクビクしながら来てたクセに。」
「言わないお約束でしょーが!!」
まぁでも、実際に2人で音楽を作っていたからこそ会ったわけだ。それなりの信頼はあるんだろう。
「まぁでも、シックスセンスと言う訳では無いが君たちにもある程度信頼をしている。」
例えば。と一言置いてSAOが続ける。
「Rinちゃんに関して言えば、いつも僕たちが作る曲に対して、感想を伝えてくれる。それも詳細に。1フレーズ1フレーズずつ、こちらが頼まずとも思ったこと、想像したことを素直に伝えてくれるんだ。僕たちと同じ、音楽が本当に好きなのが伝わってくる。専門的な知識を僕たちほど多く持っていないからこそ、凄く役立つんだ。」
「あ、あえへへ…なんか照れちゃいますね。」
動揺しつつも、喜んでいる様子が耳から伝わってくる。
にしても、彼はかなり人のことを分析しているようだ。リアルでも同じなのだろうか。隠し事をしても見抜かれそうだ。
「Ren君。君に関しては単純明快、君の書いた文に感銘を受けたからだ。」
「僕の書いた文?」
僕は首を傾げた。
「なに首を傾げているんだ。小説のことだよ。」
人の行動を当たり前に見透かさないで欲しい。しかし、成程小説か…。
「僕の書いた小説がそんなに良かったですか?」
「あぁ良かったとも。書いてあるストーリーは面白かったし、キャラクターも一貫した精神性を持っていて、本当に存在しているかのように思えた。よく考えたんだろうね。」
あれは…、凄く良い材料が目の前に居たから書けたものなんだけども。
「作品への愛が伝わってきて、是非とも続きを読みたいと思った。君は才能がある。素人目線ではあるが。」
「そんなに良かったですかね。自分的には、実感を得れていないんですけど。」
「君はその自己肯定感の低さを直した方がいいね。」
怒られてしまったので、お口にチャックをする。
「だからこそ、私は君に音楽作りを誘ったんだ。見込みはあると思ったし、何より、私自身が一緒に創作をしてみたかった。」
僕は思い違いをしていた。
SAOは、このグループで唯一活動に参加しない僕を憐れんでいた、とかその類を理由にして誘っていたのだと思った。
一方で、能力が、才能があるから誘ってくれるのだと信じていた僕も、本当はいた。
でも、実際のところは、能力だの、そんなことはどうでも良くて、僕自身を見ていたんだ。
数秒の沈黙。おーいとAiが声をかけている。
少し悩んだけれど、この人達は多分、信頼出来るかもしれない。危ないかもしれないけど、それ以上に好奇心が勝った。
「分かりました。オフ会行きますよ。」
「本当!?来てくれるの!?嬉しい!!」
「見事に口車に乗せられてしまったからな。」
「生憎、僕は説得の天才だからね。」
本当にそう思う。まんまと乗せられてしまった。
「Rinちゃんは、歳が余り変わらないとは言っても中学生だからね…。無理して来なくてもいいよ。危ないし。」
「そうした方がいいかも。Rinは女の子だし、何かあっても僕達に責任はとれない。」
「うーん。Renさんまで行くなら私も行きたくはあるんですけどね…。」
「じゃあ、こうしよう。これからのオフ会で、3人で集まった写真を撮って、ここに貼る。それで信頼し切れるとは言えないから、ネットで拾い画像かどうか検索してもらってもいいし、編集履歴がないか確かめてもらってもいい。写真の詳細も送る。信用するかどうかはRinちゃん次第。但し、参加するのは来年高校生になってから。」
「私はそれでいいけど、Ren君は?」
「以下同文だ。」
無事に3人で合流できたなら断る理由は無い。
もしかしたらRinが危ない人の可能性もあるかもしれないが…、声はアサガオで歌っているのを聞いていて本人だと断言できるし、家から遠くで写真を撮るから、危険性は低い。
いや安心だという確信も持てないが。
「分かりました。3人とも、無事にオフ会を楽しめることを願っていますね。」
なんていい子なんだ。と何度目かも分からない感動を得たところで、オフ会の日程、場所を決めた。
後は、その時を待つだけである。
当日、互いに服装を伝え合いながら、一足早く集合場所に着いていた。
The都会、である。見渡しても人、人、人。
あまりこういう場所には来ないので、人の大海原の中は少し居心地が悪い。やはり断った方が良かったか。
それにしても、休日にもかかわらず制服姿の人が多く見える。中には僕の通う高校である桜ヶ丘のものも。
部活などの後に遊びに来ているか、それとも制服デート?というやつなのか、何にせよ今の僕には余り縁のない話だ。
と思っていたら、その制服のグループがこちらの方に来ている。向かいの建物に用があるのだろうか。
「ねぇねぇねぇ!」
「うわっ!え?はい?」
よそ見をしていた僕に勢いよく話しかける声。驚いてそちらを向くと、制服女子グループ3名だった。
「ね、君桜ヶ丘の人だよね!!舞ちゃんの事を助けてくれた良い人!!聞いたよ!!」
「は?舞??」
「そんな突然話しかけんなって、動揺してるじゃん。てかホントに桜ヶ丘の人で会ってるの?」
ギャハハと笑う女子グループ。ギャルだ。テンションに全く着いて行けず狼狽えるが、何とか反応する。
「その…、確かに桜ヶ丘生であることは間違いないんですけど、舞…さんは存じ上げなくて…。」
「え!舞だよ舞!1年で有名なんだから知ってるでしょ!!」
「桜庭舞。知ってる?」
桜庭という名前を聞いて気がつく。成程、この子達は桜庭さんの友達なのか。有名という話も情報と一致している。確かに言われてみればこの子達も見たことがあるような…。特に話しかけてきたこの子は派手な金髪だし学校のどこかで見たかもな。
「桜庭さんなら知ってます。」
「やっぱりー!君名前なんて言うの??友達なろーよー!」
「はぁ。蓮見葉です。」
「オッケー!葉っち!学校でもよろー!話しかけっからまたご飯でも食べよー!!!」
「急に話しかけてごめんねー。この金髪は神谷結。私は乙音幸。」
「えーと…、話に入れなかったけど、僕は春瀬佳奈。また、学校で改めて話そうね。」
バイバーイ!そう言って3人は道路を渡ってお店に入っていった。
なんか、本番はこれからなのにドッと疲れが来てしまった。ああいうテンションの高い子達にはついていけないなぁ。やっぱり。
「蓮見葉君。モテモテだね?流石だなぁ〜。」
「やっぱ彼女ができる日も遠くないみたいだ。やり手だね。」
そんな揶揄う声に今度は誰だと反対方向を向くと、女性2人が立っていた。
記憶している服装に一致している。ということは…。
「もしかして、Aiさん…と…誰?」
「なんでだよ!」
何故か僕がAiと呼んだ方がずっこけた。
「まぁ、そうだよねぇ。」
一方もう1人の誰かさんはニヤニヤとこちらを見ている。
空は快晴、はるか遠くの星が僕らを照らしている。