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仲間がいるから

「ところで…。」

「何?」

「どうして今回、クラス全員でお花見することになったんだ?桜庭さんが誘ったのか?」

「いやー…さぁ、分からないね。」

「じゃあ小豆さん?」

「私も誘ってないですけれど、理由の見当は着きますね。」

「ズバリそれは?」

「言うまでもないですが、まぁ舞さんが要因でしょうね。」

「私?」

「みなさんよくお分かりでしょうが舞さんは非常に人の興味を集めますね?」

「だろうな。」

「うーん…。」

「そんなに大きな声での会話ではなかったのでしょうが、約束を教室で話してしまったことが敗因ですね。それを聞いた男性、女性、あれよあれよと広がってクラスで連絡を取り合い、そうして今に至ったんでしょう。」

「聞かれてたのね…、いつの間にかクラスラインが動いていたのはそういうことか…。」

「ちょっと待った。疑問がある。」

「付き物ですね〜。真相解明ショー時の反論、なんですか?」

「クラスラインがあったのか?」

「え?」

何故僕だけがクラスラインを知らなかったのか、それは神のみぞ知ることである。


お花見が終わり、それからは普通の毎日を過ごす日々になる。

学校に行き、勉強し、もはや記憶を取り戻すことも忘れて忙しい日々を過ごしていた。

そうして、定期試験も終え、結果発表の日。

張り出された順位表を見た。

1位:桜庭舞

2位:橋本悠

3位:蓮見葉

見事にトップ三位入りを果たしている。

まあこれはボーナスがかかっただけで、次もその蓄えた知識が通用するとは限らないために気は抜けないのだが。

というより、そんな僕の成績は然程気になってはいなかった。

目にかかるのはそのほかの名前である。

桜庭が1位を取るのは今更気になることでは無い。問題はその下にある。

''2位:橋本悠''

既に記憶喪失発覚時から2ヶ月程は経っているが、その間橋本に会うことはなかった。

今更ながら、学年のクラスは1~9クラス存在する。その数は年によってまちまちではあるが、増減は1クラス程度だ。

廊下の奥から右左に1組2組順々と配置されている。当然9クラスもあれば、一日に会うことの無い人間もいて、クラスが遠くであればあるほどその可能性も高まる。

しかしながら、僕と橋本はそれほどクラスが離れている訳ではない。

クラス分けは成績によって行われる。

成績優秀者、及び特待生クラスは1組の方へ。その上科目選択でもクラスは別れる。

当然、クラスによってテストが変わることもある。テストが違うということは、順位はまた別で計算されるということ。

要は''同じ順位表に乗っている時点でクラスは近くに位置している''のである。

それでも数ヶ月僕たちが会うことがない、というのは…、偶然か?

「葉くん流石だね!」

「クラス1位に言われてもあんまり褒められた感じがしないな。」

順位表に人が集まってる中で、桜庭が僕を見つけて話しかけてきた。

悪戯心で邪険な態度を見せるが、彼女は尚も笑顔である。

「私は頑張ってるけど、葉くんも同じくらい頑張ってるから凄いんだよ!」

「流石の自信だな。」

ぐるっと周囲を見回してみる。

時間が経てば人数は減ってくると思いきやそうでもないようで、表の前で依然変わらず会話を続けるものや、人数が減ってきたのに乗じて新たに表を見に来るものもいるので、中身は入れ替わりつつも暫くは膠着状況であることだろう。

「どうしたの?そんなに辺りを見回して。」

「いや、別になんでもない。」

とりあえずは、僕はその場を後にすることにした。


放課後、例の表の前に1人佇む男がいた。

世間を蔓延るトレンドは不定のものであるらしいことはSNSを見ていれば火を見るより明らかではあることだが、寂しくなるほどにこうも閑散とした姿を実際見せられるとは。

だが、世間からは一瞬で過ぎてしまうようなものであっても、当事者にとってはそれは長く長く刻まれ続けるものだ。

「アイツだけには負けてやるかよ…。」

負けられない。

ただのプライド、他者から見ればちっぽけなもの、俺から見れば命。

1年時代、俺はアイツに負け無しだった。

アイツに負ける未来なんてなかった。

それほどの学力の差があった。

でも、それでも俺達は友達だった。

マウントを取るなんて以ての外、二人でいることが好きで、このままずっと友達を続けて、悩みを相談しあって…。

ある日、俺達は決定的に決別することになる。

何かの異変をずっと感じてはいた。当然だ、友人の立ち振る舞い、話し方、表情、突然変化したとなれば、誰だって何かがあったのだと感じ取るものだろう。

キャラ変とか、そういう小さなものだったら良かった。俺はアイツがどんな変化をしようと関係なかった。

いや…、関係ないと思っていた。

性格が突然豹変したような、そんな印象だった。

後に、それがアイツの本性であったと気付かされる。俺と相寄ることの出来ない、別の世界の人間なのだと知ることになる。

俺は蹴落とされて、所謂''名誉''を失った。

俺を嘲笑うような、あの顔が今もまざまざと思い出せるのだ、それを思い出す度にイラついて、同時に恐怖も覚えて。

情緒不安定となった俺には、尚更友人を失うことになった。

「橋本君。」

「お前も物好きだな。」

「物好き…?私はそうは思わないけどね。」

どこからともなく、1人の女性が現れる。

良く手入れされた青い髪を靡かせながら、何にも希望を持っていないような、ハイライトの失った瞳をその男に向けた。

「お前みたいなやつを物好きと言わず、なんと言うんだよ。こんな悪評に塗れてドロドロの男に誰が近づきたいって言うんだ?触れることさえ躊躇われる。」

「私には至って綺麗に見えるけど、その厨二振った言葉遣いを変えた方が少しは人望を稼げるんじゃない。」

「元々なくした人望を今更取り戻せるかよ。」

「それは出来ないんじゃなくてやらないんだよ。''怠慢''って言うの、知ってる?」

静かな空間に男の舌打ちが響き渡る。

何も言わず男がその場を歩き出すと、彼女も後を追って、男の隣に並んだ。

「やられっぱなしだなんて悔しくないの?復讐、しないの?」

「いずれしてやるさ。」

「何を?まだアイデア浮かんでないんでしょどうせ。」

「今はまだその機会じゃないからしてないだけだ。いずれ絶好のタイミングでできることをしてやるさ。同じことをな。」

「同じことねぇ…。期がきたら教えなさいよそれ。唯一の''友達''が手伝ってあげる。」

歩いているうちに、学校の昇降口に着く。

そこで、二人は最も会いたくない人間と遭遇することになった。

最悪なのは、目が合ってしまったことであった。

「橋本…?」

「クソが。」

かつての友達、憎むべき悪。

そんな人間と、俺は再会した。


探していた友達、なのかハッキリ判断がつかなかった。

見た途端、出た自分の言葉を疑ってしまうぐらいに、そいつは豹変していた。

髪型?いや、そのような簡単に変えられるものを変えている訳ではなかった。

しかし何か、溢れ出る何かが邪魔をして覆いかぶさっているような。

全てに絶望しているかのような目、コイツが何を考えているのか、僕には想像もつかなかった。

「お前…、なんか、変わったか?」

その言葉が橋本の何かを刺激してしまったのか、溢れ出るイラつきを隠そうとせず近づいてくると、俺の胸倉を掴み、壁に押し付けた。

「がっ…!??」

予想していなかった痛みに一瞬息が出来ず、反射的に出した声が、形にならなかった

軽蔑なのか、見下しているのか、そんな言葉が連想されるような目が、僕をただ捉えている。

言い知れぬ恐怖が、僕を渦巻く。

この男の力以上に、僕の精神が僕の体を凍らせる。

彼が拳を再度握りしめる。

殴られる。

思わず目を瞑って強ばったその時のこと。

「何してるんです?」

その場の全員が声をした方に向く。

笑った顔をして僕達を見つめる小豆と、こちらに走ってくる朱里。

「離れて!!!」

「ぐあっ!?」

そのまま橋本に突っ込み、自分諸共地面に転がる。

朱里を助けに行きたいが、緊張から解放されて力が抜けてしまい、僕も立てなくなってしまった。

「葉くん…!!大丈夫…!?」

あんなに痛々しく地面に激突したのにも関わらず、すぐに立ち上がって僕の元に駆け寄ってくれる朱里。自分が情けなくなってくる。

「いいんですか?学校の昇降口なんて目立つところでそんな大層な真似して。目撃者が出ることなんて予想できたでしょう?」

「はっ。お前らが何を目撃したんだ?俺はただ蓮見と仲良くおしゃべりしてただけだけどな。」

「まかり通ると思ってるんですか?被害者が訴えて、私達も訴えれば充分に根拠になりますよね?」

「どう言われたって、俺達はおしゃべりしてただけだよ。なぁ青木。」

「そうね、私たちはそれ以上はしてないし。冤罪でも作るつもり?」

「ところが動画を撮っていたとしたらどうします?」

おもむろにスマホをポケットから取り出す。

「ハッタリもいいところね。私、貴方達が階段を降りてくる足音に気づいていたわ。貴方達が来た瞬間も見ていた。撮る暇なんてなかったわね。」

「ところが、隠れて撮っていた。」

「じゃあ貴方たちは私達に襲われている彼をわざと放置して撮っていたと?それで怖くて助けれなかった〜とでも説明する?いやいやそれは出来ないわね。だってそこの少女が既に橋本が突っ込んでいる。恐怖に襲われて助けに来れないとは矛盾するわね。」

「どうでしょう。どうとでも説明できますよ?勇気を振り絞って突撃した、とか。」

「じゃあそれを提出したら?でも、スカートのポケットに入っていたスマホじゃさっきも今も隠し撮りもできないし、手で持って撮っていたとしても、私にはそんなの見えなかったけれどね。ちなみに私視力は2.0以上あるの。貴方の曇った目にレンズを着けたぐらいの目より、よっぽど何もかも見通せる力を持っているから。」

弁論の末二人は自然と歩き出し、こちらを振り返った。

「ところで、人を騙したいのなら咄嗟の状況でも感情を見せない努力をすることね。驚いた表情が透けてたわよ。お二人さん?」

「蓮見、これっきりにはしないからな。覚悟しとけよ。」

そうして、二人は学校外に出ていった。

「…。」

「お兄ちゃん…。」

「…ハハ。何だったんだろうな。でも、これでやっと帰れるな?」

「…。」

「…やっぱ、僕はそう呼ばれた方が好きだよ。」

「…え?」

「…クッ!!」

突然と、小豆の方から舌打ちなのか何か分からなかった声がした。

見れば苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「えぇ…っと、あの、小豆さん…?」

「…はい?」

「大丈夫ですか…?」

「何がですか…?全然気にしてませんよ…?」

口先はそのように動いているが、有り得ないぐらい声も体も震えている。

予想が間違ってなければ…。

「…怒ってます?」

「どこが怒ってるようにみーえるんでーすかねぇ〜葉さーん。」

「いぃいや…、なんでもないデス…。」

見たことがないような…ていうか実際に見たことがないほどの威圧感…、あんまり刺激しない方が良さそうだ…。


「…二人とも巻き込んで、ごめん。」

確実に、アレは僕の問題だと言える。何かしら

橋本を刺激してしまったのだろう。

…アレは同じ人間を見る目だったのか、僕には分からない。

分からない。分からない…分からない。

突き止める必要があるのかもしれない。でも、彼奴にまた相対するのか?僕一人で?できるのか?次にあった場所が人目のつかないところなものなら、間違いなく危険になる。

でも…やるしかない…のだろう。

「任せてください。」

「え?」

突拍子のない言葉に困惑を返してしまう。

「貴方の生じたトラブルを解決しなければいけないと思っているのでしょう?誰だってそう考えます。だから、私も手伝いますよ。」

「…あ!私も手伝う!!」

「巻き込んだら危ないから、大丈夫だ。」

「先程腰抜かして動揺してた人間が1人で立ち向かうのですか?難しいですよね?」

…的確に痛いところを突いてくる、がその通りではある。

しかし、2人を巻き込んで本当に良いのか?

僕は…。

「巻き込んでよ。」

朱里は、うつむいていた。

「この前…、…ぉ…お兄ちゃんに怒られた時さ…。私、今のお兄ちゃんは干渉されすぎるのが逆に不安なのかと思ってたの…。」

雫が浸り落ちて、その瞬間になってやっと僕は気づいた。

「でもさ…、そうでもさ…、やっぱり苦しんでるお兄ちゃんを放っておきたくないよ…。家族でしょ…?私たち…。放っておけないよ…。」

妹は、彼女は泣いていた。

ずっと、あの時から。僕が理不尽に感情を暴走させたあの時から。

「私…お兄ちゃんの家族である資格もないと思った、人の気持ちも推し量れない最低な人間だと思った。」

涙を拭っても拭っても溢れ出して、人には見せられないような本物の表情。

想う心が、痛い程。

「ごめんなさい…!ごめん…なさい!だけど私は…!」

気付けば僕は、朱里を抱き締めていた。

慰めようとかそんな事ではなく、意識から乖離した行動だった。

「ごめん。」

「お兄ちゃ…?」

「僕は、朱里の兄だ。朱里は、僕の妹だ。何があってもそれは変わらない。何があっても。」

恐らくは、彼女があの日から豹変したのは…、それも僕のことを想ったことであった。

僕に干渉するのを防ぐ為に僕に距離を置いた言葉遣いをした。あの日から僕の記憶喪失についても聞くことはなくなった。

彼女は、僕の妹ではなくなろうとした。

「ごめん。こんな言葉では足りないだろうけれど。ごめん。全ては僕が悪かったんだ。」

あの日の一時の、理不尽な感情の暴発がここまで彼女を追い詰めた。

気づいていても、彼女がアクションを起こすまで僕は何もしなかった。

最低で、僕の方こそ、兄でいいのかと思ってしまう程だ。

「良かったら、また助けてくれ。僕は朱里がいないと何も出来ないみたいだ。」

「…うん…。」

こんなちっぽけで、クソみたいな僕を信じてくれる人間がこんなにも近くにいたことに、僕は今初めて気づいた。

僕は、何も見ていなかった。

「…えーっとー…。」

「はっ!ごめん小豆さん!!」

気付けば小豆を置いてけぼりにしてしまっていた。

「いえ、兄弟模様に涙が出そうなのでそれはいいんですけれど、再度言いますが、私も手伝いますからね?」

「いいのか…?小豆さんまで。」

いくらここに巻き込んでしまったとはいえ、彼女がこの問題に介入してくる道理はない。

ましてや彼女は朱里のように妹とか、そのような特別に助ける理由もない。

「私が手伝いたいんです。トラブルに出会ってしまったのですし、面白そうですし…。後…。」

何故か地面が揺れているような気がした。

「あの青い虫にやり返さないと気が済みませんから…。誰の目が曇ってるですって…?ねぇ…意味が分からないですよね…、葉さん…。」

「ハハハ…。」

「こ…怖い…。」

気付けば朱里も泣き止んで、共にあの女性に恐怖してしまっていた。

…問題を解決しよう。一つ一つ。

強力な友人が、家族が、仲間が、二人もいるのだ。解決していけるはずだ。

僕は、一人じゃないのだから。

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