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序章 蓮見葉の葛藤

初投稿の作品です。拙い文章ではありますが、よろしくお願いします。

2024年、4月。出会いと別れの季節。新しい制服に身をまとい、その場所に辿り着く。

私立桜ヶ丘中学高等学校。

僕が通うことになる学校である。中学時代そこそこ勉強のできた僕は、自信を持って志望校を受験したところあっさり落ち、この学校にいる。

正門を通ると、どこを見ても大量の人、その中で、大きな桜の木が存在感を放っていた。

僕たちの入学を祝福してくれるかのように、綺麗に舞い散る桜に感動していた。

ふと横を見ると、綺麗な緑髪と、中性的な顔立ちが目に映る。

その綺麗な目に視線を外せずにいると、その人もこちらを向いた。

「綺麗な桜ですね。」

「え、あぁはい。本当に。」

この一瞬の沈黙を壊し、話しかけてくれたその人は頭を下げると、校舎に向かって行った。

校舎に向かうと、またもやここも人で賑わっていた。

中でも金髪の子が印象的ではあったが、まあ何も起こらず、教室に向かう。

さて、この階だな。

予め知らされたクラスを見つけるため、マップと睨めっこした後、ようやくクラスに辿り着くと、出席番号通りに座る。番号は28。縦に7この椅子が並んでいるこの教室で、僕は真ん中の1番後ろの席に向かう。

机に書いてある蓮見葉という名前で自分の席であることを確認して、席に着く。

教室には既に色んな人がいて、ザワザワと話し声は聞こえても、あまり騒がしくはなかった。

まぁ当然か、入学当時から仲良く話しているのなんて、昔からの知り合いぐらいだろうからな。

この学校に一緒に来た知り合いなど居ない僕は、カバンから本を取りだすと、羅列する文章の世界に飛び込んだ。


蓮見葉という人間は、本と共に生きてきた。幼い頃は絵本を、義務教育途中も、今も、ずっと本を娯楽として生きていた。本を読んでいて、登場人物に憧れたこともある。魅力的なキャラというのは、文字だけで表現できるのかと感動したんだよな。

暇さえあれば本を読んでいた僕はそのせいで友達は多いとは言えなかったけれど、それでも僕を理解してくれる人間と語り合える、それだけで幸福だった。

その人生は、本によって形成されてきたのだ。


気づけば先生がやって来て、色んな説明を受けた後解散、という話になった。

いつも通り入学初日に友達は作れなかったので、のんびり帰路を辿ろうと廊下に出ると先程見た緑の髪。もう友達を作ったのか、それとも元々知り合いなのか、なんにせよ2人の女子と話しながら廊下を歩いている。

正直、ちょっと邪魔である。早く帰りたいし、今日は行くところがある。

新作ラノベの発売日と言えばあとは言うまでもない。

間隙を縫ってスイスイと通り抜ける。その時、一瞬彼女と目が合うが、僕は目を逸らして階段を駆け下りた。


僕が家でも本ばかり読んでいるのか、というと実はそうではない。いや、否定もできないのだが。

帰宅してから一通りのやるべき事を済ませた後、机に配置されているパソコンを立ち上げる。

そのままアプリを起動すると、その場所は既に活動を開始していた。そのまま入室して、僕はメッセージを打ち込み始めた。

僕の家での日課と言えば、コミュニティアプリ「コネクト」を利用して、いわゆる「ネッ友」との会話を楽しむことである。何万人といるコミュニティで話しているのかといえばそうではなく、昔から意気投合している人達で作っているグループを利用している。

Ren:「こんにちは。今日も盛り上がってますね。」

Ai:「お、Ren君!お疲れさまー。祝高校入学だね!」

暇人学生SAO:「お疲れ様です。初高校はどうでした?彼女とかできましたか?」

出来るわけないだろ。と内心ツッコミをする。

このグループは自称学生の集まりである。

まず、Renというのは僕のこと。蓮見の蓮が「れん」とも読むことに因んでいる。

Aiさんは僕と同じく高校1年生。

SAOさんは2年生らしい。

この他中学3年生のRinもおり、基本的にこの4人で会話をして楽しんでいる。

ちなみに、ここにいる人が滅茶苦茶に本好きかと言うとそうではない。

耳にイヤホンを付けると、僕はグループの通話ボタンをタップした。

「おっ!来たねー!今日のお話を聞かせてよ!」

女性らしい高めの声で僕を歓迎してくれたのはAiだ。

「いやあ…。友人は全く出来なかったな。」

「そりゃあ初日はそうだろうね。」

落ち着いた低めで安心する声でSAOが反応した。

この話題に関係ある訳では無いが、ふと気になることが浮かぶ。

「お二人共、音楽の方はどうですか?進んでます?」

「全く順調だね。SAO先輩が良い曲を作ってくれるもんだから捗っちゃうよね〜。」

「それほどでもあるな。」

「謙虚な姿勢は全く無し。嫌いじゃないよそういうの。」

この2人は音楽に関する才能を持っている。

今までは趣味程度に作曲作詞を自身で行っていて、自己満に留めていたSAO。一方Aiは大手動画サイトYouTubeで、VOCALOIDに歌わせたり、自身で歌ったりと、投稿していた。

このグループで仲良くなったふたりは次第に協力して音楽作りをするようになり、今はアサガオというチャンネルで活動している。

本好きであっても、才能はない僕には2人がものすごく羨ましく感じる。まあ、才能だけで今まで上り詰めた訳じゃないのは当然分かっているけれど、それでも多少の劣等感は感じてしまうものだ。

「なーに私抜きで会話してるんですか!混ぜてくださいよ!」

ここで登場したのはRin。彼女は特に活動をしていないが、天才級の歌の才能がある。

本人が歌好きで色々練習しているとの事だが…、にしても圧倒的な歌声を魅せる。たまにアサガオでボーカルをしていて、僕も何度か聞いたことがある。

そう、この3人は類まれない才能を持つ。少し嫉妬もしてしまう。

けど、何よりこの空間は居心地が良いし、話を通して天才の視点を見ることができるのは僕にとって得でしかない。そういう意味でもここは何にも変え難い。

「おおRinちゃん!お疲れ様!今時間あるかな。出来た曲を聴いて欲しいんだけど。」

「是非聴かせてください!」

恐らく個人メッセージで送られたであろう音楽を聴くために、僕たちに断りを入れるとRinを示すアイコンにミュート表示がされる。

「俺的には是非Ren君にも曲作りを手伝って欲しいんだけどね。」

「何言ってるんですか。僕なんかに曲が作れるとでも?」

「作れるさ。君にその気があるならなんだってできる。それに君には能力がある。」

確かに僕は趣味でたまに本を書くけれども…。

「買い被りすぎですよ。僕はここで皆さんの作業を聞いてるぐらいが身の丈にあってます。」

「まあRen君はネガティブマンすぎだけど、突然曲作ろうぜって言われて作れたら苦労はしないよね。」

「そういうことです。」

Aiの言葉に便乗する形で自分には無理だと伝える。そうした方がより伝わるだろうと思った。

「ま、そうだね。だけど僕は見込みのない人を誘ったりはしないようにしてるけどね。」

そんなお世辞を言われても、無理なものは無理だ。才能の無い者に成功は訪れない。

でも、少し嬉しいと思ってしまう自分がいた。


学校生活にも徐々に慣れて、チラホラと友人が出来てくる頃。入学して1ヶ月は経過していた。

「なあ葉、今日は食堂で食べようぜ。お弁当忘れちゃってさあ。」

「何してんだか、分かった。待ってて。」

リュックからお弁当を取り出すと、橋本悠と廊下に出た。

他愛ない雑談をしながら歩いていると通りかかる何人もの生徒に橋本は挨拶をしていた。

「もうそんなにも友人ができたのか?」

「んー、まあな。どっちかと言うとはなしかけて貰えるから友人が出来たって感じだけど。」

自分は決して友達作りは上手くないと謙遜している。

とはいえ、その理屈なら僕にも今よりもう少し友人が多いはずなので、彼の持つ雰囲気に起因しているのか…。研究の余地あり、だな。

そんなどうでもいい話をしながら歩いていると、目の前で大量の紙を持った女の子が歩いていた。

と、思ったら思いっきりすっ転んだ。

「っつ〜…。」

床に散乱した紙。

まあ目の前で倒れられた以上放っとく訳にもいかず、拾い集める。橋本も遅れて気がつくと、慌てて拾い始めた。

「あ!ごめんなさい!ありがとうございます!」

と目の前の女の子も慌てて拾い始めた。

「あー…いや、別にだいじょう…」

そこで気づいた。特徴的な緑の髪。

入学式で出会った、妙に印象に残る彼女だ。

目と目が合って、一瞬の硬直。

「紙、運ぶの手伝うぞ。」

数秒にも感じられた硬直を打ち破ったのは橋本の声。

「いやいやそんな、大丈夫だよ。」

「とか言ってまた転んじゃうより、俺らの力借りた方が安心安全、しかも早いだろ?」

1人多めに紙をかき集めた橋本は、こっちか?と言って歩き始めた。

「行こう。僕たちも。」

「う、うん。ありがとう。」

そう言って僕らも小走りで後を追いかけた。


「ほんっとうに2人ともありがとう!」

そういって彼女は僕たちに頭を下げた。

「全然、そんなに感謝されるようなことはしてないよ。」

「そうそう。またなんかあったら存分に頼ってよ。桜庭さん。」

ん?

僕は橋本の発言に違和感を覚えた。

それは彼女も同様の様子。

「あれ。どうして私の名前を知ってるの?私どこかで自己紹介した?」

彼女…、桜庭さんと僕は何故「桜庭」という名前を橋本が知っているのか、という点で違和感を覚えた。

え、逆に知らないの?と言わんばかりの困惑顔を一瞬見せる橋本。

「いや、桜庭さん割とこの学年で有名になってるでしょ。名前知らない方が珍しいと思うけどなあ。」

桜庭さんの顔は一瞬納得したかのように見えたと思うと、また笑った。いや、苦笑い。

「あはは。ただ普通に過ごしてるだけなんだけどね。私。」


またもや大袈裟な感謝を伝えられながら僕たちは桜庭さんと別れ、歩き出す。

「いやぁ。桜庭さん喜んでくれてよかったな。」

「それはそうだね。本当に。」

「やっぱ自分の魅力は自分が知ってるもんだよな。もててる話を聞いて、驚いてなかったし満更でもなさそうだった。」

「うん。」

「なんだよさっきから悩んだ顔して。好きになったのか?」

「そんなわけない。」

「わけないことは無いだろー。あんなに美人なのに。

はぁ。と少しため息をつく。

「僕はその人のことを知らないと絶対に好きにはならない。」

そりゃあ、顔だって1つの判断基準にはなるだろう。でも、内面を知らずに人を好きになんてなりたくない。

「はは。やっぱお前良い奴だな。」

僕の背中をバンバンと叩きながら橋本が笑う。

「今更知ったのか?」

「なんだお前自意識過剰か?」

何言ってるんだこいつは。お前が言ったんだろう。

自分の魅力は、自分が1番良く知っている。



僕という人間は、本と共に生きている。

本を読むこともあるし、たまには小説を書くこともある。

少し前に、コネクトのグループでその話をすると、読みたい読みたい!と喚き出した。主にAiが。根負けした僕はグループに書いた小説を貼り付けた。

お世辞か本音か、グループメンバーは茶化さず小説を褒めてくれた。

「君は天才か秀才か、能力があるよ。作詞のね。曲作りに参加してくれないか。」

その頃からだったか、SAOに曲作りに誘われ始めた。

当然、自分にはその才能がないと断り続けているが。

僕は疑問に思う。

目の前に映し出されるのは、半分はコネクト。

今日も今日とて楽しく、忙しなく活動している様子が、目と耳から伝わってくる。

では、その半分は。

「何故、作曲の才能がないと諦めてるのにも関わらず、曲を作ろうとするんだ?」

今日も夜空の星が、僕らを見守っていた。

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