ベランダにいた男と目があっちゃったよ~ウサギの呟き番外編
第6回ラジオ大賞参加作品です。
「ウサギの呟き」番外編ですが、これだけでお読みいただけます、多分……。
俺の名はうたたん。年が明けたら四歳になる雄ウサギだ。
飼い主は「永遠の二十七歳」を自称する女。今日も働いてる。
「あら、この辺で空き巣が増えてるって、嫌ね」
空き巣に入られても、盗られる物などない家だがね。
「うたたんが攫われたら、どうしよう」
飼い主は変に心配性なので、住まいのセキュリティを強化したっぽい。
我が家は古い集合住宅の三階にある。窓の外に、ちっこいベランダが付いている。
ある日の午後。
俺はケージを抜け出して、日当たりの良い窓の側で、ゴロゴログニャグニャしていた。
ふと、窓に人影が浮かぶ。
工事の予定は聞いてないぞ。
俺は体を起こし、ベランダに立つ人影を見た。
男だ。
作業用の服は着ているが、ヘルメットは被っていない。
片手に金槌を持っている。
ほおほお。
ピンときた。
飼い主が心配していた空き巣野郎だな。
俺はそいつを見つめた。
中肉中背の中年男だ。
男も俺に気付いた。
男の視線と俺のつぶらな瞳がぶつかった。
互いに見つめあって数分。
男の額には、汗が滲んだ。
俺は思念を込める。
――やめとけ。警報鳴るぞ
男は一瞬目を開き、頭を何回か振った。
伝わらなかったのか……。
警報鳴ったりすると、飼い主にもアラートが届く。
ビビりやの飼い主が、涙目になってすっ飛んで来るだろう。
男が金槌を振り上げる。
ガラス割れたら寒いじゃん。
仕方ないな。
あまり使いたくないんだが。
俺は額に力を込める。
俺の額に小さな角が生える。
角が青白く光ると、発生した電撃が、男の金槌にぶち当たる。
「うげえええ!」
ベランダにいた男は、へんな声を上げながら落下した。
運が良ければ生きているはずだ。多分……。
その後、救急車とパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「ただいまあ! うたたん、イイ子にしてた?」
お気楽な飼い主は帰ってくると、いつもの様に俺の額をナデナデする。
「あれ?」
カーテンを閉める時に飼い主は首を傾げた。
「なんだろ、窓に小さな傷が付いてる。ま、いっか」
あ、やべっ。
電撃の出力、ちょっと間違ったかもしれない。
Q 電撃出したら、窓ガラス割れないの?
A 一角ウサギの電撃は、だいたい大丈夫です。ガラスすり抜けます。