集団生活
僕の家は、ワケあり3人を抱える大所帯になっていた。
僕は超インドア派なので、家は広い1LDKを借りている。職場の工場から近いところに住みたくて郊外を選んだから、家賃もさほど高くない。
綺麗にリノベされた部屋だし、ヘルシーな女の子を呼んでも恥ずかしくないように掃除もしていた。まぁ、呼んだことはないけれど。
だけど……この住環境は君ら3人のために用意したものではない。
なぜ僕を差し置いて、部屋割りの相談を始めているんだ?
「あの、あのさ……僕一応、2週間後には休暇終わるんだよね。それまでになんとかしてもらわないと……」
僕はやはり、勤務が始まれば、留守中にこいつらが何かしでかすんじゃないかという不安でいっぱいだった。
「分かってるさ。俺もあっちに残した嫁たちが心配だからな」
リカロが答えた。
とりあえず、部屋割りが決まったらしい。
予想通り、寝室が女子たちの部屋だ。
僕とリカロはリビングをソファで区切って、なんとかプライバシーを確保する空間をつくった。
いやだから、なんで家主の僕が避難生活?!
でもまぁ、種馬のようなリカロと女子を同室にすることはできないから致し方ない。
まずは朝飯だ!
「はい、ありあっした〜」
某フード宅配員は帰っていった。
野郎の部屋なんて、無関心に違いない。その点は周りから詮索されないから安心だ。
牛丼を4つ抱えた僕は、3人のキラキラした目で迎えられた。
「うわ……久しぶり……私、老舗の割烹料理店に嫁いだから、残り物で作った和食ばかり食べる毎日で……」
百合香の会話は嫌味で構成されているのか。
牛丼だって立派な和食だぞ!!
「俺も、肉……」
「私、まだ下女ポジなので、肉なんてとても……」
とにかく、朝からご馳走だったようだ。
3人は上機嫌で食べ終えた。
「ねえ、こんな牛丼で幸せを感じるくらい、向こうの世界って不便なの?」
何気なく聞いたが、女子たちから嵐のようなクレームが始まった。
「ほんとさ!描ききれてないだけで、昔の生活事情はひどいよ!超不衛生!!」
「男性がナチュラルに差別してきますね。女子供は頭が弱い扱いですから。私が薬学をもって問題を解決しようとしても、必ず嫉妬から足を引っ張る奴らがいますね!」
お……おう、なんかすまん
禁忌のフタを開けちまったようだ……
リカロは、目を遠くして薄笑いしている。
「いや、女たちはそうだよな。俺はさ、今みたいにお行儀よくしろだの、このルールを守れ、これは差別だからダメだ、なんて細かく言われない世界だからさ……正直、あっちが生きやすいよ」
じゃ、リカロさんには率先して帰っていただく方向でいいな。
女子たちはどうだろう。ワンチャン、同居ハーレム展開もある?僕を奪い合うとか……
「でも、やっぱり現実では叶わないことが、向こうの世界にあるんですよね。旦那様のことも恋しいですし……」
あっ、綺麗だからつい女の子扱いだったが、百合香は人妻だったか……
「私も、あっちでは位の高い武官から見そめられつつあるんですよね〜」
クソっ……
「ねえ女性のハッピーエンドって、やっぱり結婚なの?」
「いやまさか。私なんて、結婚後にひと悶着もふた悶着もありますからね!でも……そうね。新婚のアツアツさが消えた後のことを考えると、幸せの絶頂で物語が終わって、私の人生も終わってくれたら、最高だろうなぁ……」
「いやいや百合香!その愛おしい旦那様と、おじいちゃんおばあちゃんになるまで仲良く暮らして、縁側で一緒にお茶をすするラストってのもあるんじゃないか?!」
「いやぁ、スパダリではありますけど、まだ私も旦那様にさらけ出せない姿もありますし、一生このままキラキラした関係を保つってのも疲れそうで」
女のワガママは、盛りだくさんだなぁ。
「し…シンはどうなの?素敵な人に見そめられつつあるって、早く戻って関係を進展させたいんじゃないの?」
「いえ、もともと私、結婚には興味なくて。その武官のことは好きですが、武人の家は、跡継ぎを産まねばなりませんから。運良く男が生まれたとして、立派に育て上げるまでが女の仕事です。それまで周りは褒めても認めてもくれません。少しでも道を外せば石女や女腹、愚母愚妻と罵られます」
うぐ……胃に重たい。
牛丼を食べた後に聞くんじゃなかった。
「じ…じゃあ、このまま僕の家で暮らす?」
「それは避けたいです」
「それだけは嫌です」
2人同時に言うなよ。また心が大怪我だよ。
まぁ……良かった、3人の世話も、この夏休みだけの話になるだろう。
向こうの世界に帰る方法さえあれば……