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『ゲームジョブ:和菓子職人』の理由

作者: 牧野薪

ギルド『花札』

大人気ゲーム。MMORPG『ノック・ワールド』内で知名度が高いギルドだ。

その万人を虜にする大流行ゲームであるが故、熱中するものも多く、とりわけ、有名ギルド所属者は注目を浴びる存在である。


ギルド『花札』の入団条件は4つ。

1つは、常に和装アバターであること。

2つは、ジョブにおいて『和』を連想させるものであること。

3つは、各花札隊『副長』を相手に、デュエルで勝利すること。

4つは、プレイヤー名が『日本語』の名前であること。


『坊主』隊 海城下町

 正面には果てしなく水平線が広がり、景観は爽快だ。

 堀には海の水を使用し、魚が石垣の間を縫うように泳ぐ。

 潮の満ち引きに合わせ、城下町は所々地面から高く柱が組み込まれていた。

 廊下の下を海が通り抜け、天井に水面が反射している。

 

ギルド花札『(海)坊主隊』本拠地

この隊に所属するものは、水を扱う技を得意としている、水と相性の良い技を保有している者が多い。海城の一角、窓辺廊下で寝っ転がり、紺色の袴を梯子から宙に投げ出している少年もその一人だ。


「おっと。辰郎少年ではありませんか。そんなところにいると何方か踏んでしまいますよ?」


「辰郎」と呼ばれた少年は、額に視線を遮るようにして、伸ばしていた腕をおろし、ぼんやりと見下ろしている人物を見つめ返す。

圧迫されていた視界が、徐々に明確になっていった。


その人物のプロフィール欄が半透明なスクリーンに映し出される。


名:禿二郎

職業1:僧侶 

職業2:掃除屋  

ギルド:花札(海坊主隊所属) 

以下、ギルドメンバー読み取り可能。読み取りますか?(選択)


「ねえ、はげじーの『掃除屋』ってどっちの『そうじや?』」


辰郎は徐にゆっくり立ち上がると、目の前の作務衣を身にまとった人物を見上げた。

自分自身は身長150センチほどだ。この大男の身長は幾等ほどなのか、と辰郎は考える。


「ギルド花札」に入団する前、憧れの隊長たちに少しでも近づきたくて、リアルの身長より20cm高く設定したことがある。


しかし、実戦等で距離感覚や技の角度が上手く掴めず、結局現実と変わらない身長に戻してしまった。


ゲーム上で、現実年齢の公開はセンシティブな問題だ。


考えが脱線してしまった。この大男、身長2mは超えていると辰郎は推察する。


「もちろん、クリーンな「そうじや」ですよ」


「・・ふーん・・ん?」


「それは私も気になりますね。そうじや。」


辰郎が首を傾げたところで、廊下に涼やかな通りの良い声が聞こえた。


『海坊主隊』隊長、拓一郎だ。


「旦那は存じ上げているでしょうに。この時間、お目にかかれるとは珍しいですね。どこかお出かけに?」


ああ、佇まいが美しい人だ、と辰郎は思った。

仄かに漂う凛とした花の香りと、海の穏やかな神秘さを纏う気を感じる。


「今日はユーリーフに会う約束で、今朝仕込んだ和菓子を取りに来たところなんだ。作りすぎてしまったから、はげじーと辰郎も良ければどうぞ。」


隊長は木箱の中から餅のようなものを手渡す。

辰郎は『食文化』をテーマにした図鑑で見かけたことがあると思い至った。確か・・豆大福だ。


『ノック・ワールド』に初めて触れた時、目を通しきれない数あるアバターの中で『和装』に興味を持ち、二ホンを知り、文化を知り、強い憧れと衝撃を持ったことは、今でも忘れられない。

少しでも知りたくて、図書館でいくつか本を開いた。


「隊長が最近親しくされている初心者ですね。」


隊長にそんな人物がいたとは、初耳だ。

初心者で深く交流のあるというと、辰郎はある考えがよぎった。


上に視線を移すと、はげじーは、早速豆大福を頬張っていた。

もごもごしながら、美味しそうに食べている。


はげじーに倣い、自分も恐る恐る手元の柔らかい触感を口に入れてみた。

上品な求肥に甘すぎない餡。豆の粒が良い触感だ。


学園で売っているような、周りの同級生がよく口にしているお菓子は、辰郎には甘すぎると感じていたが、これは豆の風味と甘さの塩梅が丁度いい。


「ああ。実は、現実の友人でもあって・・、くっ・・。失礼。」


何を思い出したのか、隊長が笑いをこらえている。

隊長は笑いのツボが低いため、この光景はよくあることなのだが、その様子は少々かわいらしかった。

現実の隊長を知っているなんて、とても羨ましく思えるが、辰郎はユーリーフという人物に興味が湧く。


「常々、思っていたのですが、隊長はセカンドジョブをなぜ『和菓子職人』にされたのです?『和』に限定されるといえど、他にもたくさんあるでしょうに。」


「そんなの、単に和菓子が好きだからじゃないの?隊長、いつも多めに作って人に配り歩いているけど、自分でもよく食べているし」


「ああ、それは・・」


拓一郎は、外に広がる海の水平線、その先の遠くをどこか見据えた。


「少々、私の記憶に付き合ってもらえますか?」



______________________________________



私かもしれない誰か、その私は、生きた世界のとある国で、生まれた時から高貴と呼ばれる人間でした。

地位が脅かされるとは到底思えない、絶対的な権力、その頂点にいる家柄で、わたしは三男として過ごしていたのです。


当初「劣等感」という感情は、私にはありませんでした。

生まれた時から比較される存在はなく、頂点ともいえる場所に君臨していたからです。

兄弟がいるとはいえ、それぞれの役割があり、その点は、わきまえていました。


ある日、世界に疑問を持ち、私としての個人を見た瞬間、気づいてしまったのです。

「私は生まれた家柄は良い、という生物的な位置づけで価値を決められた。私自身は一体何者なのかと」


大したこともない発見でしょう?


とはいえ、家柄の持つ権力は到底揺るぎないものであり、何百年も続いていた。誰しもが首を垂れていました。疑う者もいない..いや、疑うこと自体、恐れるほどに。ただ生まれが良いという、条件1つで。


献上された菓子を見た時、その美味しさに涙が零れ落ちた時、こう思ったのです。

この菓子を作っている職人、材料を、素材を生産加工した職人こそ、多くの人になごみを届ける尊い存在ではないかと。


ただ、存在しているだけで、顔色を窺われ、ちやほやされている私よりずっと。










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