除霊!
とあるアパート。そこに霊が出ると噂の部屋があった。
夜。部屋の怪奇現象に悩む男は霊能者を呼び、除霊をお願いした。
「ね、あなたね、いつまでもこんなところにいちゃ駄目なのよ。あなたの居場所はここじゃないの。わかるでしょ? ね」
床に正座。お経から始まり、霊能者が虚空に向かってそう語り掛ける。しかし……。
「ね、わかった? いいわね……え、あの、はぁ? いや、ちょっと、はぁ!? チッ……ふぅー……はい、成仏です。迷える魂は無事、天に召されました」
「……え、あの先生」
「ふぅー……さて、では料金のほうは、えーっとね」
「いや、先生」
「ん、なんですか?」
「え、本当ですか?」
「……はい? 本当とは? なんですか? 疑うんですか? あのねぇ、ホント疑う人は多いんだけどねぇ霊は確かに存在します。
私、見えるんです。昔からね。まずね、次元が違う存在なんですよねぇ、霊というものは。あたしもそうなの。一般人とはまた違う意味で次元が違うの。だから波長が合うのかしらねぇ。素人さんには中々理解しがたいものでしょうけど」
「素人さん……いや、まあ、はい。そこはいいんです。実際、ふと気づくと物が動いてたりとか、女の声がしたり、電気も勝手に点いたりするんですから。でも……本当に成仏したんですか?」
「はい。間違いありま、あ、うるさいわよ! 耳元で叫ぶんじゃないわよ! この、馬鹿!」
「え、あの、先生?」
「はい?」
「今、いましたよね?」
「何がですか?」
「いや、霊に決まってるでしょ。なに、きょとんとした顔してるんですか」
「はい? なんです? 成仏したと言ったでしょう。じゃあ、あなた、霊が見えるんですか?」
「いや、見えませんけどでも……」
「ですよね。じゃあ憶測で物を言わないでください。霊はちゃんと自分があるべき場所へ行きましたよ。そう天国に、ちょっと! ババアってなによ! 失礼じゃない! はぁ!? 説教染みてる!? うるさいのはそっちだよぉ!」
「先生!?」
「ふぅー……じゃ、そういうことだから。お代は? ほら、早く出すもん出して」
「いや、先生……。成仏したんですよね? あの、どんな霊でしたか?」
「どんなってねぇ……まあ普通の、ドブスよドブス! ブスブスブース! デーブ! ブース! ニキビ面! 赤っ鼻!」
「先生!?」
「死んじゃいなさいよアンタなんか! あ、ごっめーん! もう死んでるんでしたぁ! 私は生きてる、アンタは死んでる! ヘーイ!」
「いや、先生! まだいますよね霊が! 除霊できてませんよね!? 説得失敗したんじゃないですか!?」
「……ええ、ええ。そうね。いやー、かなりしぶとい霊でね、ゴキブリみたいにね! 死ね! ……でも大丈夫。はい! 手をパンとね、この通り、はいこれで彼女はもう成仏しました。今は安らかに、地獄行きだよオメーなんかよぉ! ちょっと美人だからって死んでりゃ意味ないんだよバーカ! 低学歴! デブ! ブス!」
「先生!? 霊は美人なんですか!?」
「ブスだよブース! どうせ整形だろ! それと厚化粧! 顔面詐称! 詐欺師!」
「悪口って自分自身が一番言われたくないものをつい言っちゃうことあるらしいですけど、先生って……」
「消えろ! お前が消えろ! 消・え・ろ! 消・え・ろ! はい、とっとと消えろ!」
「あの」
「ブースブースブスの歌! ブースブースブスススス!」
「先生」
「消えるんだよオメーはよぉ! この世からとっとと消えてなくなれ!」
「先生」
『もう、いい加減にしてよぉ! 消えて!』
「あの、先生、もう……」
「ふぅー……へへへ、ざまーみろ。泣かしてやったわ」
「成仏とは程遠いような……」
「まだまだやってやんわよ。んで、あんた、なにしてんの? お茶も出さないの? 長期戦になるわよぉ」
「ええ……お茶、お茶は……あれ? どこやったっけ……」
そのアパートの一室には霊が出る。自分がそれと気づいていない、オドオドした男とヒステリックな自称霊能者の霊が……。