~まいにち茶トラ~
2.おれのお仕事
オレの昼間の業務はお留守番だ。
小僧もパパさんたちも、外で仕事。
ふっふっふっ、ざまあみろ。オレの天下は快適よ。
時々パパさんが、しみじみと呟く。
「あぁ、俺も猫になりたい」
にゃ!?
パパさん、まさか猫が楽だと思ってるか?
とんでもねえ。愛玩動物を分かっちゃねえな。
飼い猫はな、哀愁よ、哀愁。
夜に備えて、充電しつつ、涼しい場所を探してウロウロ。不埒な侵入者がいないか、パトロールにも余念がない。
たまに、近所で飼われてる猫からの通信が入ることがあるが、最近はもっぱらリモートだから楽なモンだ。
おほっ。
おや、グレイが今日も庭に入ってきやがった。
ペルシャとか言う銀灰色の、するりとした艶のある猫種だ。
しかしよ、お生まれは良くても、アイツはお行儀が悪いので有名だ。
キョロキョロ警戒してるが、オレが2階からみてることには気がつかねえおバカさんよ。こそこそ俺の家に入り込んできやがった。いつもの生い茂った草っぱらにフンをして、そ知らぬ顔で立ち去った。おいお~い後ろ足で砂をかけて隠すマナ-も知らねえのか。
躾がなっちゃいねえな。全くよ。
毛皮ツヤツヤで、気品だだ漏れだってのに、ホント駄目な奴。
にゃにゃ。
ここいらに棲む猫はけっこう多い。連中を取り仕切るボスは、北隣のアパート1階に住む丑だ。
黒白の牛柄、白いソックスがキュート。
時々お庭に放牧されていることがあってさ。
窓越しに話が出来るのよ。
オレより後から引っ越してきたのに、瞬く間にご近所のボスに登り詰めた。
スゲエ。やるね、オマエサン。いつもおひげがぴいいとしてるね。
丑の飼い主さんは、ダ-リン。
見た目、彫りの深いアメリカ人。
だけど日本語ペラペラなのさ。
時々、スマホ使って日本語で商談してるの、知ってるぜ。
なかなかのやり手なのさ。
嫁、ちびのムスメ、これまたちびのムスコ4人暮らしだ。
よく把握してるって。まあな。
猫の観察眼を舐めるなよ。ぺろ。
時々、お庭に友達呼んで、パ-ティピ-ポ-相手に陽気に騒ぎまくる。ホゥ-ッ!鳴り響く、マイコ-。
やっぱアメリカの血が騒ぐんだな~、全く血は争えねえぜ。
きれいに咲いた桜が散って葉っぱが眩しくなってきた。
そろそろ雨の日が多くなって、猫にも憂うつな毎日。
よお、ちょっと聞いてくれ。
昨日の話なんだけどよ。
俺が黙々とメシを食っていたのよ。
カリカリカリカリ。
すると、なにやら背後で気配がした。
こういう時、不用意に振り返っちゃいけねえ。
野生の勘よ。
「へ・え・ぞお~」
小僧の猫なで声。
無視を決め込む俺。カリカリカリカリ。
それでもしつこく、ケツをつついてきやがる。
「へえぞお~~~。へえぞお~。」
あ-今日は特にしつこい。
だんだんイライラ。
フ-ッ!にゃんだよ!
総毛を逆立てて、つい、振り返ってしまった、ソコにあったのは、……!!
にゃっ、にゃンだあっ、コイツはっ!!
…あとで小僧がその時の俺の様子を話すと笑いが止まらない。
「ぴよ~ん!て。飛んだんだよ。へいぞうが。ぴよ~んて。おっかしかったぁ!ぷぷぷ」
俺が振り返った先にあったもの。
それは緑の棒。
イボイボきゅうり。
俺には、得体の知れない未確認生物に見えて。
ビックリ!飛び上がって、後ずさり、後ずさり逃げたって顛末。
マッタク!
つまらねえいたずらをしやがる。
どうもネットで仕入れたネタを試したらしい。くっだらねえ!どうして人間てのは、かわいい愛玩動物で遊ぼうとするのかねえ。
しばらく俺はグレてしまった。
おほっ。
俺はよ、誠心誠意ペットとしての役割をまっとうすべく、毎日精進してるぜ?
寝てるところを無理やり抱っこされようと、グリグリ耳掃除されようと、嫌いなお薬をのどまでつっこまれようと文句も言わずにじっと耐えてる…時がほとんどだ(ウソつけ、お前噛むだろ?)
それをなんだい、なんだい。
俺はなんだか、悲しくなって、みゃあみゃあ泣いた。