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「私は妹と一緒に馬車で着いて行きます。すぐになにかわかれば伝えますので付いてきてください。」
騎士団長に妹が馬車の中にいるという印象をつけ、ファウステルは中が見えないように馬車に乗り込んだ。
「わかりました。すぐに教えてください。」
騎士団長をはじめとした騎士団のメンバー10名が馬に乗りファウステルの馬車の後ろにつく。
そして一行は森へ向けて走り出した。
森が近づくにつれアイリスの気配が少しずつわかってくる。だが、騎士団よりも早く妹を迎えに行かなければいけない。
窓を開け、後ろにいる騎士団長へ声を張り上げる。
「この先を曲がると3つ大きな大木が見えるはずです!そこから真っ直ぐ進めば目的地です!!!馬車ではスピードは出せません!騎士団長たちは先に行っててください!!」
騎士団長には申し訳ないが、少し遠回りの道を教えた。
気配で目標の無事、アイリスの無事(?)は確認ができているのでそこは許してほしい。
それを聞いた騎士団長はすぐに周りに伝え行動に出る。
「わかりました!我々は先に行きます!道案内ありがとうございました!!!ですがこれより先は危険も伴います!ファウステル様はどうぞお引き取りを!」
そして馬車を追い越し騎士団は全速力で駆けていく。
騎士団がいなくなったことを確認したファウステルは椅子のクッションを持ち上げる。
「だから、なんでこんな用意周到なのかなぁ」
溜息をこぼしながら椅子の下に収納された着替えを手に取る。黒のシャツに黒のスラックス、おまけに黒い布だ。
「俺は暗殺者じゃないんだけどな…」
そう言いながら素早く着替え、外にいる護衛に声をかける。
「ダン!俺はアイリスを迎えに行く!お前らはこのまま俺達が馬車の中にいるように振る舞って、そのままなるべくゆっくり進め!すぐに追いつく!」
そう言い残してファウステルは森の中へと消えていく。
「だから、俺ら護衛の仕事って…」
ダンは溜息をこぼす。
護衛の自分たちにできることは、あたかもファウステルもアイリスも馬車の中にいるように振る舞うこと。
そして2人が帰ってきたときに何事もなかったように誰にもバレずに迎え入れること。
それが彼らに託された今回のミッションだった。