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「君は、誰だ?」


女の子は静かに振り返る。顔は半分布に覆われていて顔はわからない。でも瞳は暗いからか黒く見える。本当は違う色なのかもしれない。


「大丈夫?あーこんなに傷だらけにされて」


女の子は身体中にある浅い傷を触る。


「痛ぶるのが好きなタイプだったのね。可哀想に。」


一番深い傷にポケットから出した布を巻き付ける。


「君は、誰?」


もう一度聞く。


「わたし?……あいつらと元同業者?」


また女の子は首を傾げる。


「なんで疑問形?そうじゃなくて、君の名前。教えて。」


女の子と目が合う。吸い込まれるような感覚に落ちた。

女の子もどこか驚いている。



「あ……アリス。」


「そっか。アリス。助けてくれてありがとう。」








***


アイリスは思わず自分の名前を言いそうになって、咄嗟に違う名前を言った。

本当は名前を言うつもりもなかった。適当に介抱したら姿を消すつもりだった。

でも男の子の顔を見たら、目が合ったら、何故か吸い込まれるように、目が逸らせなかった。

なんだろう。この感覚。あの人に会ったような感覚…。


「そっか。アリス。助けてくれてありがとう。」


男の子はニコリと笑う。そしてすぐに表情を消して倒れている男を見た。



「あいつ、死んだ?」


「死んではないよ。気を失ってるだけ。脳震盪を起こしてるはずだからたぶんまだ起きないと思うけど。もうすぐ警備兵が来るはずだから、それまでなら大丈夫よ。」


「助けを呼んでくれたの?」


「そりゃ、わたしだけじゃどうしようもないから。兄さんに頼んだから、もうすぐ来るはずよ。だから安心して。」


アイリスは安心させるようににこりと笑った。

だけど男の子は男を見て沈んだままだ。


「あいつは俺の従者だった。信じてたんだ。裏切られたってやつだね。鍛錬してたって、何も敵わなかった。」


男の子は乾いた笑いをこぼす。


「ああ。相手の懐に入って信用させて隙を作って殺すやり方ね。」


かつての自分もやっていたことだ。


「それに、鍛錬してたって言っても、それは一般的なものでしょ?負けて当たり前よ。そもそもの戦うフィールドが違うんだから。」


「え?」


「こっちは不意打ちを狙う仕事。君は真っ向勝負。専門外なの。だから気にしなくていいわ。あー。慰めるのって苦手なのよね……。ねえ、あなたの名前は?」


唐突にアイリスは尋ねる。


「俺?俺は……ロラン。」


「そう。ロラン。辛い?」


「そうだね。辛いかも。」


「もう誰も信じられない?」


「……………。」


ロランは答えない。それが答えだった。


「そっか。もったいないね。」


「え?」


ロランは顔を上げた。理解できない顔をしている。


「昔、言われたことがあるの。君に殺されるなら本望だって。」


それは過去にわたしがあの人に言った言葉。


「裏切られても良いって思えるくらい信じられる人がこれから現れるといいね。今回は、そう思えなかったってこと。これからロランはたくさんの人に出会う。みんながみんな信じられる人ではないかもしれない。それでも、いいじゃない。誰も信じられなくても、自分のことは信じてあげて。そして、そんな自分が信じた人を、何があってもいいと思えるくらい信じられる人生を生きて。」


強い瞳でロランはアイリスを見る。


「でも、俺が俺を信じられなかったら?」


それでも弱い心が顔を出す。


「そしたらね…」


少しアイリスは考えてとびきりの笑顔を向けた。


「わたしがあなたを信じてあげる。あなたを信じてる人がひとりはいるってことよ。それだけで、あなたは最強だわ!ふふ。覚えていて。」


ロランは思わず笑った。


「なんだそれ。言ってることめちゃくちゃだな。…でも、うん。なんか頑張れそうだ。」


「よかった。あ、そろそろ兄さんが迎えに来るわ。行かなきゃ。」


アイリスが行こうとするとロランは慌てて引き止める。


「待って。また会える?」


「さあ?どうだろう?あなた良いとこの子どもでしょ?」


「子どもって、たぶん年上だよ。15歳。」


「あはは。3つ年上。兄さんと同い年だね。」


クスクス笑うアイリスをどうにか引き留めたくてロランは言う。


「俺と結婚してって言ったら?」


「は?」


アイリスは思わず足を止めた。ロランの目は真剣だ。


「いつか、迎えに行く。必ず探し出す。待っててくれる?」


アイリスはロランの目を見る。あの人に似た感覚。

アイリスもまた会いたいと思っていた。これは恋か、懐かしさか。


「そうね。わたしより強くなったら、考えてあげる。」



そしてアイリスは闇に消えた。









「必ず、迎えに行く。そのために強くなる。だから、待ってて。アリス………」


誰もいない森の奥へとロランは呟いた。







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