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アイリスの変化にファウステルはすぐに気付いてアイリスの目線を追った。
それは少しの変化。
森へと続く道に麻袋を抱えたふたり組。
身なりは汚らしいのに肌は綺麗。
麻袋は歩く揺れとは違う揺れ方をたまにする。
そして荷車にそれを詰め込んで男ふたりは走り出した。
「ねえ」
「あーもう。また厄介ごとかよ。どうしたい?」
それでもアイリスの意志を聞く兄はアイリスのしたいことをわかっている。
「誘拐にしろ殺すにしろ、あの中身はどこかの貴族の子どもだろうね。顔がバレるのはまずいな。」
アイリスは黒い布で顔半分を隠した。それを見て呆れる兄。
「だからなんでそんな用意周到なの?」
「兄さんは護衛と合流して警備兵のところに行って呼んできて。わたしは跡を追う。」
「ダメだ。お前をひとりにはできない。」
「でもそしたらあの子、死ぬよ。別行動しないと間に合わない。それに社交デビューしてる兄さんのほうがわたしよりも話が進めやすい。わたしはいつも気配消してるから、こういうときに役に立たない。兄さんにだけわかる気配を残すから、それを追ってきて。お願い、わかって、兄さん。」
アイリスが強く見つめる。この目をした妹を止めることはできないとファウステルはため息をつく。
「はあ。わかった。無茶はしないこと。わかったな?無茶はしないこと。」
2回言われた。
「わかった。無茶しないよ。」
全く信じられない返答だがそれだけ言ってアイリスはその場から消える。
「はあ。だから、お前何者だよ。急いでるからって本気出すなよ…」
そして同じく兄もその場から消えた。
急いで護衛と合流して警備兵に連絡し、きっと無茶をしているであろう妹を迎えに行くために。