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カン!キン!
どこからか剣と剣のぶつかり合う音がする。
朝が来る。窓から入る風でカーテンが揺れ、朝日がチラチラ顔を出す。小鳥の鳴き声も聞こえてきて、メイドたちがバタバタと朝の準備に忙しく動き回る音がして、今年12歳になったばかりのアイリスはこんな朝が一番好きだった。
「んんーぅ」
一人で寝るには大きすぎるベッドの上で伸びをする。
メイドたちが起こしに来る前に体を動かさないと。
起き上がって軽く顔を洗い、動きやすい黒のスラックスに黒のシャツを着て、腰まであるプラチナブロンドの髪を邪魔にならないようポニーテールにする。愛用の短剣をしまって、12の誕生日にもらった剣を片手にアイリスは勢いよく2階の自分の部屋の窓から外へと飛び降りる。
いままさに庭で打ち合い稽古をしている父と3歳年上の兄のもとへ。
「兄さま!ご覚悟!!!」
父と兄の真上に飛び降りる形で、アイリスは剣を振りかぶって兄に斬りかかる。
ガキン!!!
父は咄嗟に後ろに身を引き、兄は剣を上へ向け愛する妹の剣を受け止める。
「アイリス、だから上から飛び降りるのはやめてくれ」
「あら、階段を使うより早く父さまと兄さまの元へ行けるんですもの。それに兄さまも不意打ちに慣れておいたほうがこの先きっと役に立ちますわ。」
アイリスはその綺麗な顔をにっこりとする。
「だからっていつもお前は不意打ちじゃないか。音も気配も無くどうやって近づけるんだ?」
「まぁ、そこは天才ゆえですわ。そう言っても兄さまは最初はバシバシやられてましたのに最近じゃ私のことをすぐ感知してしまうので、全く不意打ちできなくなりましたわ。」
アイリスはつまらなさそうに頬を膨らませる。美人という言葉が似合うアイリスが拗ねると美しさの中に可愛らしさが混ざってずるい。だがアイリスは自分の容姿をよくわかっている。全ては計算だ。
「そりゃ5歳の頃から妹に命を狙われていたら強くもなるよ。」
兄のファウステルはわかりやすく溜息を吐く。
アイリスと同じプラチナブロンドに中性的な美しい顔立ち。このふたりは美人の言葉がよく似合う兄妹だった。