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「アインダム公爵家の入場です。」


貴族は立場の低い者から入場する。王家が最後、私たちはその前に呼ばれる。

アイリスは兄のエスコートで家族と共に入場する。


ざわっ


アインダム公爵家が入場すると会場が騒ついた。


「見て、ファウステル様よ。相変わらず美しいわ。」


「メリウス様、なんて美しいのかしら。当主様ともいつ見ても仲睦まじいわね。」


「あれが噂の完璧令嬢…。」


皆が皆誰もに注目している。

娘を連れてきた父親たちですら、アイリスの美しさに心を奪われていた。



そして最後に王家御一行の入場だ。


全員顔を下げ、女性陣は綺麗なカーテシーをする。


「表を上げよ。今日はゆるりと過ごすがいい。」


国王の一声で舞踏会が始まる。


アイリスは上手く場に馴染みながら、上手く気配を消していた。決して目立たず、空気のように。

ローランドの姿は確認しているが、顔をしっかりとは見ていない。


「アイリス、あいつのこと見たか?」


ファウステルは尋ねる。


「見てないですわ。うまく気配を隠して溶け込んでいますの。話しかけないでくださいませ。兄さまがいると目立ってしょうがないですわ。」


「まぁまぁ。そろそろ挨拶に行くぞ。」


「わかりましたわ。」



そして家族揃って王家へと挨拶をする。


父、母、兄と挨拶をし、次はアイリスの番が来た。

顔を下げたまま、綺麗なカーテシーをして挨拶をする。


「アイリス・アインダムと申します。以後よろしくお願い申し上げます。」


「おお、そなたが娘か。噂は聞いている。顔を上げよ。よく見せておくれ。」


「ありがとう存じます。」


アイリスは静かに顔を上げた。


国王はニコニコとしている。


「ダリウス、お前が隠したがる理由がわかる。これほど美しければ父親としては困るのう。」


「陛下、ありがとうございます。」


父ダリウスは深々と頭を下げる。


「ほら、ローランド、お前も挨拶をしろ。ローランド?」


国王は息子に声をかける。王太子はアイリスを見つめたまま動かない。

アイリスも王太子を見ると、お互いに目が合った。

吸い込まれるような感覚。あの時と同じ、少し時間が止まったような感覚だ。


「………アイリス・アインダムと申します。」


王太子は目を合わせたまま黙っている。


「ローランド?どうした?美しさに心奪われたか?」


国王は息子を冷やかした。父ダリウスは王太子のその姿に少し焦る。母メリウスは微笑ましく見守っている。


「いや、すまない。ローランド・カストロ・デミュアーズだ。アイリス…嬢?」


困惑した王太子の姿にアイリスはクスっと笑った。


「そうですわ。ローランド様?」


まるで挑発するような笑顔。ローランドは少し困って、ファウステルを睨む。

ファウステルはバレないように肩を震わせて笑っている。

その姿にローランドは全てを察した。

そしてアイリスへと片手を差し出し


「アイリス嬢、ファーストダンスの相手をお願いしても?」


と声をかけた。


ざわっ


会場がざわつく。それもそうだ、王太子がダンスを誘ったのは今回が初めて。ここにいる令嬢はアイリス以外みんなそのダンスの相手に選ばれたくて必死になっていた。のにも関わらず、誰にでも優しく相手はするが誰ひとりダンスの申し込みはされなかった。


アイリスはキョトンとする。そして父を見た。

父は空いた口が塞がらないのか、ポカンとしている。その隣の母が目で「お行きなさい!」と力強く語っている。兄は相変わらず肩を震わせている。

そしてローランドを見る。まるで挑発するかのような笑顔。アイリスはその笑顔にニヤリとした。


「喜んでお受け致しますわ。」


ローランドの手を取り、2人で会場の真ん中へ移動する。

ローランドのエスコートでダンスがはじまった。まるで初めてではないかのようにスムーズに踊ることができる。アイリスはただただ楽しんで踊っていた。

ローランドが誰にも聞こえない声で話しかける。


「アイリス嬢?」


「なんですか?」


「初めて会った気がしないんだけど、どこかで会ったことが?」


「あら、素敵な口説き文句。誰にでも言ってますの?」


アイリスはクスクスと躱していく。


「口説くのはこれが初めてだ。前回は口説く前に逃げられたからね。」


「それは罪な女がいたのですね。」


「アリス…だよね?」


ローランドは強くアイリスを見る。目を合わせながらダンスをして、なんだか本当にふたりだけが時間が止まったように、周りの声も姿も何も目に入らない。


「私は…アイリスですわ。」


アイリスは目を離して少し伏せる。


「いーよ、アイリス嬢。君が誰でも、もう逃さない。このあと、ふたりきりになれる?」


「い・や・ですわ。」


アイリスはニヤリと笑い返す。


「いいんですの?王妃様がこわーい顔してこちらを睨んでましてよ?」


「ああ。僕が選んだ女性が公爵家だからかな。強い後ろ盾は更に義母様の機嫌を損ねてしまうからね。でも大丈夫。アイリスのことは僕が守るから。」


いつの間にか呼び捨てになっていた。


「私のことを守ってくださるんですか?まぁ、面白い。兄さまみたい。」


アイリスはクスクス笑う。


「俺は兄さまになる気はないけど…ああ、ファウスがあれだけ強い意味がようやくわかったよ。君の兄なら、当然だな。」


ローランドはやっと合点がいったとばかりに微笑んだ。

黒い髪に金色の瞳、優しく整った顔立ちの中に強さがある。いつまでも、見ていられるーそうアイリスは思った。

ダンスが終わりを迎える。まだずっと踊っていたいと思いながら、アイリスは手を離す。


「当然ですわ。ローランド様、お相手ありがとうございました。では、これで。」


アイリスは綺麗なカーテシーをして退場した。

すると待ってましたとばかりに王太子の周りを令嬢が囲った。


「殿下、次は私と。」

「いえ、私が先よ。」


我こそはと令嬢たちは声を掛ける。ローランドが困っているのをクスリと見守り、アイリスは姿を消した。


「ああくそ、また逃げられた。」


ローランドの声は令嬢たちの声にかき消された。


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