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「ちなみに、お前が良い気配って言ったの、警備兵じゃなくて騎士団長とゆかいな仲間たち。」
「………。」
ファウステルの言葉にアイリスは何も言わない。
「で、なにもしてない?」
ファウステルは要点だけを聞く。
「………助けたあとちょっと話をしただけ。………敬語は使ってません。口調もあの時のままだったから、わたしが公爵令嬢だとは気付かれることはありません。たぶん。」
兄からの圧に思わず敬語になる。
結婚してほしいとか言われたとか、考えてあげるとか言ったとか、言わないほうがいいと思って黙っておいた。それにしても無知って怖い。不敬で殺されるとこだった。兄がすぐに迎えに来たのがよくわかった。
バレる事なく退散することが今できる最善だ。
あとは会話までしてしまった王太子に正体がバレないことだけ。
「はあ。とりあえず王太子は今後避けれるだけ避けるぞ。」
また悩みがひとつ増えたファウステルだった。
アイリスは少し考える。
「とりあえず、私寝たふりをしておきますわ。」
ドレスに着替え、公爵令嬢に戻ったアイリスは口調を元に戻す。
「馬車の中で疲れて眠ってしまって事情は何も知らない。という事にしておきましょう。誘拐されたのが王太子だなんて、私には知らされることではないでしょうから。」
「そうだね。アイリスは何も知らずにただ馬車の中に居ただけだ。」
「ちょうど疲れたなと思ってましたの。兄さま、膝を貸してくださいませ。」
そう言って兄の横に移動して膝の上に寝転がった。
「お前の兄をしているおかげで、俺はどんどん逞しくなってる気がする。まぁ、あとは任しておけ。よくやった。お疲れ様。」
ファウステルはアイリスの髪をぽんぽんと撫でるとニコリと笑った。
「ふふ。任せましたわ。」
アイリスはニコリと笑うとそのまま目を閉じた。