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「兄さん!!」
木から木に渡りながら森を進むとすぐにアイリスと合流した。
「言いたいことは山ほどあるけどとりあえず馬車に戻るぞ!」
ファウステルはすぐに向きを変えて馬車へと向かう。
アイリスはそれに着いていく。
「なんでそんな急いでるの?」
「………。助けたんだよな?」
「うん。そりゃあ。」
「なにもしてないか?」
「?殺してないよ?」
「違う…そういうことじゃない。」
どう言うべきか、ファウステルは悩んだ。
「それにしても、警備兵にしてはなかなか良い気配持った人たちが迎えに来てたね。」
ファウステルはどきりとした。
「兄さん?」
「なんでもない。とにかく、馬車に戻ってから話す。俺たちはいま馬車の中にいることになってる。」
「ああ、そういうこと。」
そしてスピードを上げたファウステルにアイリスは着いていく。
ゆっくり進む馬車を見つけて2人は静かに屋根に飛び乗った。
「!!………おかえりなさいませ。ファウステル様、…アイリス様。」
ダンは一瞬びくりとしたがすぐに平静を取り戻す。
「ただいま。ありがとう。」
アイリスはニコリと笑う。
黒い布を顔に巻く2人組が馬車の上に現れたかと思えばすぐに消える。
こんなことに驚いていたらアインダム家の護衛は務まらない。
ファウステルは馬車に入ると大きく溜息を吐いた。
「はあーって、なにしてる?!」
馬車に入ると椅子を持ち上げ出すアイリスに向けて思わず叫ぶ。
「なにって、着替えるの。洋服汚れちゃったし、相手に服装見られてるし、このまま警備兵のところに向かってるんでしょ?ならバレるわけにいかないじゃない。」
そう言ってアイリスは少し豪華なドレスを取り出す。
「だから、なんでそんなに用意周到なんだ?」
「ほら、兄さんも着替えるんでしょ?見ないでね。」
じとーっと兄を見つめるアイリス。
「見ないよ。まったく。」
そしてお互いに背中を向けて着替えだす。
「そういえば、誘拐されてたの誰かわかったの?」
アイリスは着替えながら兄に尋ねる。
ファウステルは言うべきか悩んだが、今後出会うリスクを考えると話しておいたほうがいいと判断した。
「ああ。王太子。」
「………………は?!」
珍しくアイリスは本日2度目の予期せぬ発言を聞く。