商業神様はお怒りです
「ではエトラ、次はどの神様のとこに行こうか」
クロードさんが今日の夕ご飯は何にしようか?くらいのノリで聞いてくる。
けど言わせて欲しい。
これ重要だよね。
「あの私一応紹介を運営する会頭でして、ここは商業の神様にあやかろうかと思うんですけど」
お金大事、商売大事、運も味方につけてこその商売。
つまり、神様に加護を貰うなら、やはりここは商業の神様だろう。
「ぜひ次は商業の神様でお願いいたします」
本来だったらば一番最初に行きたかったかもしれないけど、気づけばここの聖域の入り口に一番近かったのは、農業神様の神殿だった。
いや、別に農業神様が悪いというわけではないんだけど。
「そうだね。エトラは商売をしてるんだから、やはりここは商業の神様に加護を早めにもらっておくのがいいだろうね」
クロードさんは穏やかな口調で私の意見に同意してくれる。
「商業の神様はここから30kmほど離れているんだ。途中に生命の神様の神殿と漁業の神様の神殿があるけど、飛ばして行こうかな」
クロードさんは穏やかに言うけど、いやちょっと待ってください30km?
それって今日中には着かないパターンじゃないかな。
「クロードさん、すいません。入り口から順番に神殿を巡りましょう」
私は途方もない距離に断念せざるを得なかった。
しかし、この判断があんなことになるとは・・・。
と、言う事で本日は生命の神様、翌日は漁業の神様の神殿に行き無事に加護を貰った。
そして本日、念願の商業神様の神殿にたどり着いた。
長かった、本当に長かった。
物理的にも、時間的にも。
三日で30km、子供の足には結構遠い。
神殿はどこも同じ作りになっており、違いを上げるとすればこのウエルカムボードだろう。
『商業の事なら商業神まで、商売始める時は0円から』
と言う、何処かの売り込みのようなセリフに何故か懐かしささえこみ上げて来た。
「さあ、エトラ。商業神は神殿の中で現世の商売の情報の収集をしているだろうから中に入ろう」
クロードさんはそう言うと私の前を歩き出す。
私も「失礼します」と一礼すると神殿の中へと入って行った。
中へ入ると神殿の中に幾つもの画面が投影されており、祈りの間の中央に置かれた椅子に座った男性が紙に数字を書き写している。
「メル、お邪魔しているよ」
クロードさんが椅子に座っている男性へ声掛けをする。
どうやら商業神様のお名前はメルさんのようだ。
メルと呼ばれた商業神様はおもむろに後ろを振り返る。
「クロード様、ご無沙汰しております。お姉様はお元気でしょうか?いつもお二方の活躍をお聞きしております。私も見習いないものですが、なかなかどうして、毎日このように椅子に座っているだけでして」
足早にクロードさんの所へ駆け寄るメルさんは、絶賛おべっかを並べ始めた。
「メル、それくらいで良いよ。姉上も私も元気だ。今日は聖獣の主であるエトラを連れてきた」
クロードさんの紹介で 私は一歩前に出た。
「初めまして、エトラ・カーターです。お目にかかれて嬉しいです。商業神様」
恭しくお辞儀する私にメルさんは難色を示した。
「君も商売をしている者なら、本来、私の所へ一番に来るべきでは?」
あれれ?メルさん怒っています?
不安になりクロードさんを見るが、クロードさんは相変わらず涼しい顔をしているだけだった。
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