レックス2
ユグの町に着いたのはつい数時間前だ。
乗ってきたワイバーンを近くの森に繋ぎユグの街に入った。
ギルドに行く前に、この町の治安について確認しようとさまよっている最中にあの3人組に出くわしたのだ。
まぁ、話には聞いていたが、この町の人たちは活気がない。
他所から来た冒険者や荒くれ者達者が大きな顔をしており、もともとここに住んでいた住人は小さくなり息を潜めながら生きているような状態だ。
まあ、ここの町の置かれている状況から考えれば仕方がないのかもしれない。
ユグの町は良く言えばダンジョンが周囲にたくさんあり、冒険者にとっては格好の稼ぎばとなる一方、他の町からの物資の搬入が難しいことが、この町を孤立させる最大の弱点であった。
随分前にユグの町まで大きな道路を作る計画があったが木の魔物でもあるトレントが邪魔をし、工事は中断することになった。
故にこのユグの町は未だに他の町からの交通手段が確立しておらず、頼りになるのはこの町を訪れる冒険者や荒くれ者たちが持ち込む物資だけとなる。
そんな物資も住民たちの足元を見るような法外な値段で売られたりしている。
ここでは野菜は作れても家畜は育てられない。なぜなら魔獣や魔物に家畜が襲われるからだ。
家畜が襲われるだけならまだいいが、それがやがて人にまで飛び火することがある。
故にこの町で家畜は育てられず、外部からの物資に頼っている次第である。
「運搬路の件は今後の課題だな。後で父にも相談してみなくてはいけないだろう」
レックスはそう言うとギルドの扉を開けた。
ユグの街のギルドは辺境であると共に、俗世とは隔離されたような場所だが、何せダンジョンが多い為にそれなりの大きさを維持している。
ギルドの1階部分は他の町のギルドと同じようにクエスト依頼版や団欒するようなスペース、そして依頼を受けるカウンターがある。
ただし、その規模はどう見ても他の町のギルドの2倍は大きい。
冒険者が団欒するようなスペースも食堂として機能しており、普通に食事をしている冒険者も多い。
ただし、その食堂で使われている食材の肉が全て魔獣の肉だというところは他の町とは違う点だろう。
まぁ、その分金額も高くなるのだが、ここはダンジョンが多い為に羽振りの良い冒険者が多い。
2階部分は宿屋になっており、多くの冒険者は寝泊まりしている。
そこは他のギルドではない事だ。
このユグの町には宿屋はない。
あるのは冒険者を相手にした道具屋や武器屋等だ。
レックスがギルドへ入ると奥のテーブル席で手を振っている冒険者がいた。
戦士風の冒険者で、余裕そうに昼間から酒を飲んでいる。
「遅いぞレックス。師匠を待たせるもんじゃない」
そう言ってレックスへ自身が持っていたカードを投げた。
「次の依頼だ」
師匠の元に来て半年、地獄のようなスパルタを受けて今やCランクまで上がった。
Bランクももう目前と言う所まで来ている。
ここまで来るのに普通の人なら数年から十数年かかる。
それが半年とは、師匠のスパルタ度合いが恐ろしい。
師匠から寄越された次の依頼内容もA級魔獣の討伐となっている。
「まさか、また一人で討伐なんて事は」
先日死ぬ思いでB級の魔獣の討伐を成功させた。
のに、今度はその上とは。
「殺す気ですか?」
訝しげに師匠へ問い掛けると
「大丈夫。見ていてあげるから」
本当に見ているだけだった。
前回も。
師事する相手を間違えたか、と、本気で思ったりもした。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




