あ、レックスです1
ア、レックスのお話になります。
宜しくお願いします。
レノル領の中で辺境とも言われている町ユグ。
町の周りには幾多の高難易度のダンジョンが存在し、そのダンジョンを隠すかのように深い森が広まっている。
その深い森も魔獣のすみかとなっており、植物さえも高難易度のモンスターだった。
冒険者や荒くれ者達が集う町とも言われているここは普通の民は決して近寄らない場所で子供の姿を見る事は殆どない。
そんな場所に不釣り合いな雰囲気の一人の子供が颯爽と歩いていた。
フードを目深く被ったその子供はやけに堂々としており、その雰囲気から貴族の子弟と思われた。
治外法権とも言えるような場所で子供が一人で歩くのは自殺行為である。
もしくは人さらいにあっても文句は言えないと言っていいだろう。
しかし、そんな状況になるとしても、この町に住んでいる者たちは誰一人としてその子供に話しかけることはしない。
ただ見守っているだけで、他人の行動には関与しないのが暗黙の了解としてこの町に根付いている。
そんな子供に最初にアクションを仕掛けてきたのは冒険者崩れの男達だった。
3人パーティーで年齢は30代前後と言った感じだ。
男達は、一人が盗賊、一人がネクロマンサー、一人ご闇の司祭と、とてもダンジョン攻略に来たパーティーとは思えない組み合わせだ。
「ねぇボク~、大人の人と一緒かい?」
明らかに人を馬鹿にする感じで話しかけて来たのは盗賊の男だ。
見ただけでかなりの場数を踏んできた雰囲気がある。
「ギルドで待ち合わせをしている」
子供は素直に返答すると、男達は三人揃って大きな声で笑いだした。
「ハハハハ、馬鹿正直なガキだ」
盗賊の男が子供の顎に手を当てる。
「それに、容姿も良いからそこそこの値がつくだろう。今日はツイてる。儲けもんだぜ」
嬉しそうに話す盗賊に、仲間の二人も口笛を鳴らして喜びを露にする。
が、そんな三人を嘲り笑うように、その子供が男の手を払いのける。
「ハッ、治安が悪いとは聞いていたけど、白昼堂々こんな事をして来るとは、ここの町の衛兵や自警団はどうなっているんだか」
フンと鼻で嗤う子供に盗賊の男が逆上する。
「何を知った口で言うかと思ったら。ここはなぁ、法も何もない所なんだよ。金と力が物を言う世界さ、衛兵には金を握らせれば良いし、自警団は家族を盾にすれば良い。この町の常識だろう」
どんな常識だろう。
子供は呆れたように男達を見た。
「そうだ、そうだ。アニキの言う通りだぜ。ここは善人ぶるヤツが損をする町だ」
ネクロマンサーの男も一緒になり罵声を飛ばす。
闇の司祭だけは最初こそ調子を合わせていたが、今は沈黙を守りながら先程の場所から動こうとはしない。
「成る程ね。良い証言が得られたよ」
子供はそう言うと両手から炎の縄を作り出し、二人の男の方へと投げる。
縄は円状になり二人を縛るように縮小する。
「「なっ、なんだこれは」」
二人の男が身動き取れず、その場に転がる。
「おい。早く助けろ」
「仲間だろう」
悶えるように動くその二人はもう一人の仲間に助けを求めた。
そこで闇の司祭が初めて声を発した。
「私の獲物を横取りするとは、とんでもない子供ですね」
深いため息を吐きながら闇の司祭はその子供を見た。
「ギルドまで運んでくれるのなら分け前は半分って事にしますけど」
動じるでもなく、そう提案する子供はスッとフードを外した。
「レックスと言います。貴方が賞金首ハンターと言われるゼンさんですか?」
レックスと名乗った子供は闇の司祭を射貫くようにみた。
「はい。初めましてレックス君。賞金首ハンターをしているゼンです。この二人は他の仲間と合流するまで泳がせている最中でしたのに、とんだ大損害ですよ」
ゼンと名乗った闇の司祭は割に合わないとぼやく。
「それは悪い事をした」
「悪いと思うならレックス君、囮をやらない?」
ゼンは人の悪い笑みでレックスを見る。
「美人局みたいな真似はしない主義なんで」
と軽くあしらった。
「では、その二人は貴方に譲ります。待ち合わせの時間に遅れそうなので失礼」
レックスと名乗った子供はそう言うとその場を去った。
「どうせ同じギルドまで行くならこの二人を運ぶの手伝ってくれても良いものを」
レックスは背中でそんな愚痴を聞きながら足早に去って行く。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




