キリさん有能です
キリさんが有能すぎてもう何にも言うことございません。
新店舗二件購入済みに加えて、既に改装をするための職人もピックアップ済み。
どころか、既に店舗の図面も図り直している。
私はと言うと、どのような内装にするかを考えるくらいしか仕事が残っていなかった。
「壁の一面を布張りするのではなく、帯を付けて、壁の上の方を布張りに、壁の下の方を板張りにすることはできませんか?」
「帯ですか?」
私は紙に簡単に図面を書く、腰の高さ辺りに帯状の板を張り、上に布張り下を板張りにする案だ。
そんな感じで描いてみた。
これのメリットは、物がぶつかりやすい下の部分を補修する時のコストダウンが一番の旨味だ。
壁一面を張り替えるより、破損部分のみ、うまり板張り部分の張替えの方が断然安い。
「こんな感じです」
私の描いた絵にキリさんと職人さんの眉間のしわが深くなった。
部品の部分の詳細が細かく描かれていないのは否めない、けど、その反応はないと思う。
「何となく先程の説明で理解出来ました」
既に私の力作の絵は意味を成していなかった。
キリさんが涼しい顔で言うけど、ここで小道具で眼鏡が欲しいよね、と思ったのは変なオタク心だ。
そう言えば、この世界で眼鏡を掛けている人は見た事がないな。
ん〜眼鏡か。
もしかしたらこの世界、眼鏡がないのかもしれない。
自分に必要なかったから気にもならなかったけど。
「眼鏡男子、インテリ眼鏡、ギャプ萌」
乙女ゲームの王道じゃない。
あれ、乙女ゲーム?
何だろう、何か引っかかる。
喉に引っ掛かった魚の骨のような、こう喉の奥に
「エトラ様?」
キリさんの声で現実に引き戻された。
今、何か大切な事を思い出しそうだったように思うのに。
「また変な妄想を」
キリさんが深い、それは深いため息を吐く。
眼鏡男子を妄想で処理しないでほしい。
「大体、めがねとは何ですか?」
キリさんが呆れたように言うけど、私はその言葉に「やはり、この世界に眼鏡はないんだ」と納得した瞬間でもある。
商業ギルドのギルドマスターが一目置くレンジさんの補佐官であるキリさんも知らない眼鏡。
建物にガラスを使っている事から眼鏡の材料はある。
「キリさん、因みにですが、レンズと言うか、虫眼鏡はありますか?」
「はい。虫を見たり、火を起こす為の道具ですよね」
確か、虫眼鏡の起源は結構古いはず、眼鏡が出たのは大分後になってから。
コストとか、色々あるから片眼鏡なら安く出来るかも。
やっぱり、モノクルとかもカッコイイじゃない。
後でメイソンさんに相談しよう。
ただでさえ忙しいメイソンさんが、エトラの眼鏡開発の為に相当苦労させられる事になるのは暗黙の了解だった。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




