ボスは突然に(キリさん視点)
私はレンジ様の補佐官キリだ。
本日、新店舗候補だった二件の物件を購入。
店舗内の見取り図を正確に測り直し、内装工事をする職人も手配済み。
何せ、資金は潤沢にレンジ様より頂いている。
現在のボスであるエトラ様に満足頂けるように最善を尽くすのが私の使命だと思っている。
まあ。先日はそんなボスに無理難題を押し付けられてしまったが、どんな難題も笑顔で片付けてこそ真の補佐官だ。
私の人生最大の難関リナさん。
どんな商人でも貴族でも上手く渡り合って来たが、ここで初めての難題にぶち当たってしまった。
この山を越えられたらきっと私もレンジ様のような完璧な男になれると、そう思っている。
「待っていろ私の最難関」
この若さでレンジ様の補佐官チームに入れたのは伊達じゃないことを見せてやる。
意気揚々とガッツポーズをとっていると後ろの方から声がかかった。
「キリさん。ただいま帰りました。留守の間何か変わりはありましたか?」
思わず驚き後ろを振り返る。
「エトラ様?」
何故エトラ様が?
まだヤマト島に向かわれてから三日しか経っていませんよね。
思わずエトラ様を凝視してしまった。
「聖獣って言うのかな。それが孵化しちゃったから儀式は省略されちゃった」
エトラ様の言葉によくよくエトラ様を見れば、腕に抱いている小さな生き物?がいた。
ぬいぐるみかと思っていたら、もぞもぞと動くではないか。
「聖獣ですか?」
肌は爬虫類のような感じだ。
「オオトカゲ?いや、サラマンダーのようなものですか?」
オオトカゲもサラマンダーも魔獣の類だが、テイマーと言う魔獣を使役出来る職業の者は従魔契約で魔獣と契約者の魂の一部を繋ぎ契約主に従うようにする事が出来るらしい。
エトラ様はテイマーの素質もあったのか、と感心してしまう。
「サラマンダーが近いですかね。その親戚みたいなものだと思います」
サラマンダーの親戚とはまた奇怪な回答だ。が、今はそこではない。
「エトラ様。魔獣を人の住む場所へ連れて行くためには冒険者ギルドで従魔の登録をしなければなりません」
「えっ、でもこの子聖獣だよ」
エトラ様は困ったように私を見る。
「そんな目で見ても困ります。規則は規則なので獣と付く時点で登録の必要があります。早速冒険者ギルドへ行きましょう」
そう言えば、エトラ様は冒険者ギルドで冒険者登録はしているのだろうか?
商業ギルドの登録はしていたようだが。
「エトラ様、冒険者登録はされていますか?」
私の質問にきょとんとした顔が全てを物語っていた。
「急ぎましょう。冒険者登録は時間がかかりますので」
既にお昼を過ぎている時間。
夕方の込み合う時間前までに任務を終わらせなければならない。
順調に思えていた今日の日程が崩れた瞬間でもあった。
お読みいただきありがとうございます。また読んで頂けたら幸いです。




