私、帰ります
「では、リナさん。儀式が中止になりましたので、私はこれで帰りますね」
何せ、新しい店舗の購入とか諸々の手続きがあると思うんだよね。
ゴンちゃんのお産とか色々あった濃厚な三日間だったけど、それでも起業したての商会としてはだいぶ致命的だと思うんだよ。
今最も気になる事はあの物件が売約済みになっていないかどうかなんだよね。
口約束だけだと後から条件の良い人に売ってしまっているって事は良く聞く話だし。
「本当に送って行かなくて大丈夫なの?」
勿論リナさんが言っている送って行くと言うのは船で送って行くという事だけど、そんなに時間を掛けていては今日が終わってしまう。
「クロードさんとゴンちゃんの力で送ってくれるので大丈夫ですよ」
勿論ウソです。
私が転移の魔術で跳ぶだけです。
「クロード様が一緒なら大丈夫ね」
流石クロードさんです。
リンさんの全幅の信頼を寄せているのが分かる瞬間でもある。
「では、エトラ行こうか」
クロードさんの声の私が頷くと
「私も、島でやる事が一段落したら会いに行くから」
リナさんはそう言って私の手を取る。
「リナさん」
そんなに私の事を心配して。
思わず感動してしまった。
「お待ちしています」
笑顔で答える。が、
「エトラちゃん、キリさんの事お願いね。変な虫が着かないように見張っていてね。頼んだわよ」
と、滅茶苦茶真剣に頼まれてしまった。
後、感動して損した。
「はい。善処します」
口元が引きつってしまったのは致し方無いと思う。
それに多分、仕事人間のキリさんはリナさんくらいはっきりアプローチして来る女性じゃないと気付かないと思うんだよね。
つまり、仕事では優秀だけど、恋愛関係は鈍そうだったし普通の女性ではどうこうならないと思うんだ。
「リナさん」
だから、これはリナさんのためと言う訳でもなく純粋に思ったんだけど
「キリさんはリナさんのアプローチにしか反応しないと思いますよ」
素直な意見にリナさんの顔が真っ赤になった。
「エトラちゃん。嬉しい。お姉さんエトラちゃんのそういうところ大好きよ」
思いっきり抱き着いて来るリナさん。
「はい。私もそんなリナさん大好きです」
裏も表もなく真っすぐなリナさんがちょっと羨ましい。
私は、性別も、名前も、身分も全て偽りの姿だから。
皆良いって言ってくれていても、本当の自分の居場所じゃないって気持ちが何処かにあって、だからかな、自分の居場所を創りたいがためにこんなに一生懸命あがいてしまうのは、前世から今までで多分今が一番頑張っていると思うんだよ。
「じゃあ、リナさんまた会いましょう。皆さんもまた、さようなら」
私は手を振りクロードさんの所まで歩いていった。
「皆が見ているから、今回は特別に」
そう言ってクロードさんから放たれた光の中に入っていった。
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