ボスが不在でも(キリさん視点)
エトラ様がヤマト島へ旅立って早三日。
巫女の継承の儀式まで後二日と迫った今日この頃。
私は有能な補佐官としてレンジ氏に新店舗購入と予想される経費、また、今エトラ様が手掛けている商品についての報告を通信機を使って行っていた。
「そうか、では店舗の購入費と改造費はこちらで持とう。その他の軽費については要相談で、ただし、エトラさんの要望次第では、こちらも支援に糸目はつけないつもりだ。そのつもりで補佐を頼むぞ。キリ」
レンジ様の補佐官の一人として長年仕えて来た私が、先日突然10歳の子供が起業したカーター商会に派遣される事になった時には何かヘマをして左遷させられたのか?と思ってしまったものだ。が、実際はエトラ様を豪く気に入ったレンジ様がエトラ様を手助けしたいが為に自分をエトラ様の所に送り込んだと言うのが本当の理由だ。
その証拠に、準国宝級クラスの通信機を私に持たせ逐一状況報告をさせている始末。
「あの人、奥さんも子供もいるよな」
目に入れても痛くない程に肩入れしているレンジ様に補佐官間ではロリコン説が飛び交う程だ。
実際にはあった事はないが、息子さんがエトラ様と同じ位の年頃だったはず。
「まさか、息子と同じ位の女の子に懸想しているなんて事はないよな」
自身のボスなだけに想像出来ない。
が、実際に二人が会った事がないので、それもあくまで補佐官間で囁かれている噂でしかないが、本当にお金にも人員にも糸目をつけない今回の行動に疑惑は湧くものだ。
「まあ、火のない所に煙は立たぬと言うし」
パチンと指を鳴らすっと自身の周囲に築いていた盗聴防止の結界を解く。
今日もウシオさんの所へ来て新店舗の打ち合わせをしている。
何せレンジ様が新店舗、つまり、レストランが開店する時に合わせてエトラ様に会いたいが為に手続きやら、工事やらを急がせているからだ。
お陰で移動中にも連絡をしながら仕事を進めなくてはいけない状態になっているのだ。
食事に関しては手軽なサンドイッチがあるので重宝している。
実は、その話をレンジ様に話したらエトラ様の事後承諾を頂く計画でこの国の主要な町にも店舗を建てる計画で進んでいる。
今回この町に出す店舗を参考に作るが、既に立地に良い土地を検証中との事。
「では、これが今回のレストランの契約書になります。名義も全てカーター商会へ直してあります。工事の方も直ぐに入れる腕の確かな職人に声を掛けてあります」
ウシオさんの隣で書類の説明をしてくれている方は、実はウシオさんの息子でリナさんの弟さんらしい。
2歳歳下との話だが、とてもしっかりしている。
リナさんとウシオさんを見ているだけに、本当に家族か?と思ってしまう程だ。
遺伝子の不思議を見たように感じたが、きっとウシオさんの奥様がしっかりとした方なのだろう。
と、結論をつけた。
名前はコタロウと言うらしいが、本人たってのお願いでコータと呼ぶことになった。
「仕事が早くて心強いですコータ」
書類を受け取り握手を交わそうと右手を出すとコタロウが両手で握って来た。
「勿論です。お兄様」
けど、完璧と思われたコタロウはどうやら父と姉に洗脳されたらしい。
もう一々訂正するのも疲れたのでそのままにしている。
それが、今日の午後に後悔する事になるとは、この時は思ってもいなかった。
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