トイレはどこですか?
「分かりました。私、スタンプラリー頑張ります。クロードさんのそんな悲しそうな顔は終わりです」
エッヘンと胸を張って宣言する。
不幸な子供はもう出さない。
一度救われた命だ。
その恩をこの世界に返せるなら、それこそ御の字。
ほら、良く言うでしょう情けは人の為ならずって。
あれは、巡り巡って己がためって事だしね。
よく前世の兄が言っていたっけ。
それに、何故かクロードさんもこの島の人も他人とは思えないんだよね。
勿論、ハンナさんや旦那さんだって他人とは思えないんだけど。
本当に不思議な感覚だ。
「エトラならきっとそう言ってくれると信じていたよ」
クロードさんは満面の笑みで私を労うように肩を叩く。
「彼の言っていた通りの人だ」
ぼそりとクロードさんは何かを呟いたが、あまりに小さくて聞き逃してしまった。
「クロードさん?」
問い掛けようとした時、突然の腹痛に私はその場に膝を着く。
「お腹が」
まるでお腹を下したような腹痛。
「ウカさん、お手洗いありませんか?」
私はウカさんの方を見てトイレの在りかを聞く。
何せ、この神殿は礼拝堂の部屋しかないのだ。
「お手洗い?」
ウカさんは小首を傾げる。
そうか、ここは神様の世界だった。
仏教ではなんて言ったっけ、あっ、そうだ。
「雪隠どこですか?」
これなら通じるか?
期待の眼差しでウカさんを見るが更に小首を傾げた。
「ウソでしょう」
トイレがない事にこんなに絶望する日が来るとは。
項垂れる私にクロードさんが優しくお腹を擦ってくれた。
「やはり、神力が満ちたようです。卵が孵化します」
そして、私はそのまま床に寝かされてしまう。
「えっ、卵が孵化ってどう言う事ですか?」
卵、卵、コロンブスの卵?
既に頭はパニック状態だ。
「先日巫女の力をリナ様から譲り受けましたよね」
クロードさんの言葉であの不本意なファーストキス事件を思い出す。
「はい。不本意でしたが」
思わずあの日の自分の迂闊さを思い出してしまった。
香辛料に目がくらんで相当浮かれていた自分に言ってやりたい事が沢山ある。
けど、終わった事はどうしようもない。
過去を後悔するより前向きに生きるのが私の座右の銘だったじゃないか。
「けど、それを今さらどうこう言うつもりもありません。それで、今の私の腹痛とそれはどのよな関係なんでしょうか?」
「うん。それはね、これからその時に巫女として継承した卵が今から生まれるよって事だよ」
良い笑顔で返答するクロードさん。
ウカさんはクロードさんの周りをキャーキャー言いながら走り回ている。
「お産には姉上も立ち会った方が良いと思うから、ここに呼ぶね。ウカ良いかな?」
緊張感のないクロードさんの口調にウカさんは益々キャーキャーと黄色い悲鳴をあげる。
ってか、マジで私ここでお産するの?
お読みいただきありがとうございます。また読んで頂けたら幸いです。




