パン屋だけど
食器の片付けが終わると私はお店の見学に向かった。
お店の広さは12畳程の大きさでわりかし広いのだが、商品の並んでいる棚がまばらで品数も少ない。
先程食べた石焼きパンに食パン、フランスパンに白パン、そしてスコーン。
これで本当にパン屋なのか?
「お祖父様、売れ行きは如何ですか?」
失礼とは思いつつも一応確認してみた。
「おお、エトラか。お祖父様とは懐かしい。今日は食パンが2斤も売れたぞ」
嬉しそうにホクホクと答えるお祖父様。
既に昼過ぎだと言うのに朝からやっていて食パン2斤では、倒産お決まりコースだ。
これって、マズくないですか?
思わず回れ右をして私はハンナさんの元に駆けていった。
ハンナさんは食料庫の中を確認している様子で、時折ため息を吐く。
「す、すみません。お店の運営状況は大丈夫ですか?」
一応前世の記憶も断片的だがあるので、経営とか家計のやり繰りとかもわかる。
故に、元貴族だと聞いて平民よりは良い暮らしかと思ったりもした。
けど、違う。
元貴族だからこそ商売が下手で落ちぶれ街道まっしぐらかもしれない。
ハンナさんは深いため息を吐き
「いつもは息子夫婦が援助してくれていたから何とかやってこれたけど、このままでは来週位には食料も底をつくわね」
食料が底をつく。
息子夫婦が援助していた?
それをこんな呑気に言うなんて、どんだけお嬢様なんだ。
私は食料庫をくまなく確認する。
小麦粉は大袋で5袋。
その他根菜が少しある。
奥の木箱が山積みになっており私はそれに手をかけると、そこからはジャガイモが大量に出て来た。
「これは?」
私はハンナさんの方を見てたずねる。
「ああ、息子夫婦が家畜用にと仕入れていた物で処分に困っていたの」
「食べないのですか?」
驚きで私はハンナさんを問い詰める。
「だって、それは家畜が食べる物よ。煮たり、細かく切ったりして、人はそんな物食べないわ」
マジカ〜!!
私はいつも芋入のスープだったけど、あれは家畜用だったのか。
地味に嫌がらせをされていた事にショックを受ける。
「すみません。大量の油と塩ありますか?」
「ええ、息子が買い付けていた物が結構あったはず、この箱よ」
私はその箱を確認するや「新商品を作ります。手伝って下さい」と塩の袋を持ち上げて言った。
その後は、どうせ売れないのだからと旦那さんも連れて来てジャガイモの皮むきをしてもらい、ハンナさんがむき終わったジャガイモを均等に切り水にさらす。
私は勿論時間のかかる皮むきを旦那さんと一緒にする。
ある程度の皮むきが終われば次は大きな鍋に油を注いで貰う。
「えっフライパンじゃなくて鍋に?」
ハンナさんは驚いたように言う。
だって、フライパンは小さいし、天ぷら鍋もないし、こうなったら普通の鍋で揚げるしかないじゃないか。
そういえば良く考えると結婚式の時も焼いた肉はあっても、揚げた料理はなかった。
そう、唐揚げとか。
もしかしたら、油で揚げるという概念自体ないのかもしれない。
私は大丈夫と言って水を切ったジャガイモに小麦粉を振り、熱した油に投下した。
油に入った途端に良い音を立てて泡が出る。
「大丈夫なのかい?」
と二人は私を恐恐と見ているが、丁度良い色加減で浮いているジャガイモを大きな皿に紙を敷いた物の上に並べて塩を適当に降った。
「味見して見て下さい」
私は一つ摘んで食べてみせると、二人も私とは同じように一つ摘んで食べる。
二人とも顔を見合わせ「美味しい」と目を輝かせた。
「今から揚げた物を店先で売って頂けませんか?値段はお祖母様に一任します。この食べ物ならこの位のお金なら買うと言う金額で、それと、今から揚げるのは試供品で皆さんに味見をさせてからでお願いします。販売はこれより一時間後で売り切れごめんと言う感じで宣伝して下さい。因みに、商品名は『フライドポテト』です」
そこまで言うと、私は大皿に次々とジャガイモを揚げて塩を降り、二皿作ったところで二人をお店へと押し出した。
二人がお店の前で新商品の試食の味見もをさせている間に、私は更に皮をむき、フライドポテトの下準備をした。
「これからは稼ぐぜ」
既に商売魂に火がついていた。
お読み頂きありがとうございます。
ストックが無くなりましたので、今後はゆっくりと執筆して行きたいと思います。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。
追伸、執筆のモチベーションアップのため高評価頂けたら嬉しいです。今後も宜しくお願い致します。