ちゃっちゃと覚えてください
一面に広がる草原と空。
見渡す限り雲さえない程の快晴。
顔を撫でる風の気持ち良い事この上ない。
「まず、転移の魔術を発動させる方法が二種類ある」
気持ち良く自然を満喫していた私に突然本題の魔術の話を始めるクロードさん。
どんだけ急いでいるのか。
正直私はもっとゆっくりでもかまわないとさえ思っている。
普通、魔術の修得とは簡単なものではないと聞いている。
挙句、今から修得するのは難易度がかなり高い魔術だ。
そんなことを考えている私にはお構いなしと言った様子でクロードさんは説明を続ける。
「まずは出発地点と到着地点の数字化をし線で結んで転移する魔術。これは行った事のない場所でも行く事が出来る魔術だ。続いて、到着地点のイメージを具体的にして転移する魔術。これは一度行った事がある場所にだけ行く事が出来る魔術だ。ただ、地点の数字化をする必要がなく誰でも簡単に出来る魔術でもある。今日は後者を会得してもらいたいと思う」
いやいや、転移の魔術自体稀有な魔術ですよね。
簡単に会得出来るものでもないはず。
「まあ、今日は私が手取り足取りみっちり教えて差上げますので、夕方まで会得出来るはずです」
クロードさんはそう言いながら私の顔を見てニコリとする。
語尾に妙に力が入っていたけど・・・それにその笑顔、妙な圧を感じる。
「はい、クロードさん。宜しくお願いします」
私は深々とお辞儀をし、引きつる顔を隠した。
「では、まずはここに座りましょうか」
草原を少し歩いた所でクロードさんは人が座れる位の大きな石を指した。
私はクロードさんに促されながらその石に座る。
「エトラは魔術を使っていましたよね。ちょっとやってみて下さい」
クロードさんのリクエストに何をしようか模索する。
草原の中だし風の魔術かな。
さっき頬を撫でたようなあんな風。
「風よ。そっと吹け」
すると、私の周りに小さな渦が出来たかと思うとそっと私とクロードさんを風が撫でて行く。
「なるほど、わかりました。魔術のイメージと魔力の使い方は大丈夫ですね」
トンと相槌を軽く打ってクロードさんは再び私の方を見る。
「では早速始めますね。まず目を閉じてください」
私はクロードさんに言われた通り目を瞑る。
「次に、ここの祠の入口を思い出して下さい」
「ここの入口ですか?」
先ほど見たけど、イメージ出来る位覚えているか?と聞かれるとそうでもない。
「すみませんクロードさん。何となくは思い出せるのですが」
何しろさっきはお腹が空いていて注意散漫になっていたのだ。
お腹も鳴るしで滅茶苦茶恥ずかしかったし。
具体的に祠の入口を思い出すのは正直難しい。
「分かりました。では一旦外に出てイメージすることを練習しましょう」
私はクロードさんと一旦祠の外へと出ると、何度も祠の入口の風景を見たり目を閉じてイメージしたりを繰り返した。
結構な時間が過ぎていたのだろう。
気が付けば西日を強く感じる時間になっていた。
「そろそろイメージはつきましたか?」
クロードさんは笑顔で聞いてくるが、気のせいか怒っているようにさえ思えてしまう。
「念のためもう少し」
クロードさん無言の微笑みが何か怖い。
まるで「ちゃっちゃと覚えてください」と言われているような威圧感。
再度クロードさんを見ると先ほどより笑顔がアップしていた。
滅茶苦茶笑顔が怖い。
「すみません。ダイジョブです」
観念してそう言うと「では、先ほど座っていた石の所へ転移してみましょうか」とクロードさんが微笑んだ。
「えっ」
私、何の為に祠の入口をイメージトレーニングしたの?
私の疑問に答えてくれる人はいなかった。
お読みいただきありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




