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孫として

屋根裏部屋から降りると直ぐにまた下へと向かう階段があった。


どうやら2階に降りたようで、美味しそうな匂いは更に下から漂って来る。


ゆっくりと階段を降りるとハンナさんとその旦那さんのような男性がにこやかな笑顔で迎えてくれた。


「さて、お腹も空いたでしょう。ご飯にしましょう」


そう言ってハンナさんは子供用の椅子に私を座らせてくれる。


「ありがとうございます。ハンナさん」


一瞬二人が微妙な笑顔を見せる。


テーブルの上には丸い石焼きパンと野菜スープとスクランブルエッグが置いてあった。


「家はあまり裕福じゃないから、こんな物しか出せなくてごめんなさいね」


ハンナさんは困ったようにそう言う。


「パンはお店のもあるから足りなかったら言ってね」


そう言うと私の膝にナプキンを置いてくれる。


「ありがとうございます」


「パンは、旦那と二人で作っているのよ。美味しいから食べて」


ニコリとしながらハンナさんに食事を促される。


「頂きます」

そう言ってから私はパンを千切って口に放り込む。


小麦の味が濃厚でとても美味しい。


「すっごく美味しいです」 


そう言うと私はゆっくりと食事を進めた。

バターがあると最高なんだけどなぁ、とちょっと贅沢な事を思ったのは秘密である。

食事が終わると旦那さんはお店へと戻って行く。


私はハンナさんをお手伝いし、食後の片付けをしていた。


「エトラ、もし、何処にも行く宛がないのならここで私達の孫として一緒に暮らさないかい?」


突然ハンナさんが私に問い掛けて来る。


勿論、とても有難い申し出だ。


「実はね、私達には息子夫婦が居てね、丁度その孫がエトラと同じ位だったんだよ」


過去形で話し出すハンナさん。


「けど、一月前に流行り病でね、三人とももうこの世には居ないんだ」


カタンと持っていた皿を置いたハンナさん。


「旦那はその現実を受け止められなくてね。毎日屍のように生きていたんだ」


何となく理解出来る。

前世の記憶の断片がある為か、大人の事情も分かってしまう。

人の心は弱い。


「分かりました。嘘も方便って言います。私なんかでお孫さんの代わりになるか分かりませんが、助けて頂いたご恩返しをさせて下さい。私の方こそ宜しくお願いします。えっと、おばあちゃん」


そう言って微笑むとハンナさんが泣きながら私を抱き締めて来た。


「ごめんね。ありがとう」


旦那さんも大変だったけど、きっと、ハンナさんもしんどかったんだと思う。


私は泣きじゃくるハンナさんの背中を優しく何度も撫でた。


「これから宜しくお願いします。おばあちゃん」


所で、前世の記憶のせいか、ズボンを履いても全然違和感がなかったけど、ハンナさんの申し訳無さそうな笑顔に一瞬「あれ?」ってなった。


「気付いているとは思うけど、私達の孫のエトラは男の子なの」


そっか〜、良く考えると女性はスカート、男性はズボンがこの世界の常識だった。


「一応、ご近所の人達はエトラが男の子だって知っているの、だから」


言いにくそうに話すハンナさん。


ドンとオッケー。


「いえ、私の方もその方が良いです。実は私、服装でお察しだとは思うんですが昨日結婚したんです。けど、夫となった人との間に誤解があり、私、逃げて来たんです」


切実に、目を潤ませてそう訴える。

身を隠すのには最低限の情報を共有出来る相手が必要だ。

協力者とはそうやって得るものだと思う。


「なんとなく、そうだろうとは思っていたわ」

流石大人、話が分かる。


「けど、今は旦那には秘密にしておいて欲しいの。息子夫婦と孫を一瞬で亡くしておかしくなってしまったから」


「分かりました。私は今日から男の子です。あっ、僕のほうが良いですね」


男の子だし、やっぱり僕だよね。


「私で大丈夫よ。一応名ばかりの貴族だから、息子が子供に私と言うよう教育していたの」


貴族なのにパン屋さん?


「領地の無い名ばかりのね」


ハンナさんは何処か寂しそうに言う。

「分かりました」

あまり詮索はしないようにしよう。


私も人の事をあまり言えないからね。

「では、これから宜しくお願いします。お祖母様」


一応貴族ですから。

お読み頂きありがとうございました。

また読んで頂けたら幸いです。


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