クロードと名乗る彼
「エトラ、君を新しい巫女として歓迎しよう」
クロード様は満面の笑みで私を迎え入れる。
そして、リナさんからクロードさんへとバトンタッチされた私の体はグイグイと引っ張られ、気を抜くと一瞬で体が宙に浮く勢いだ。
「あっ」
そう思った瞬間に、私の体は宙に浮く。
サッと風が舞ったと思ったら、私はいつの間にかクロード様に抱き抱えられていたいた。
それもお姫様抱っこというやつだ。
「こらから巫女の継承儀式までの間は私とリナ様でエトラをサポートします。時間も押していますので失礼」
そう言うと颯爽と船着場を後にした。
「あの、リナさんから言われた日数より早く来たつもりなんですが、時間がないって、私そんなにヤバイ状態なんですか?」
良く考えてみればリナさんにヤバイ状態だと拉致られたのだ。
「ええ、そうですね。大変ヤバイ状態です」
紳士的なクロードさんがこれ程強引に私を連れていくのだ、余程ヤバイのかもしれない。
「もうすぐ夕方です。そうしたら夕食の時間になってしまいます」
んん?
「夕食前に転移だけでも習得してもらわねばなりません」
「何故に夕食前までなのですか?」
私の質問にクロードさんは沈黙する。
そう言えば、前世の記憶が戻ってから夕食時の記憶がないんだよね。
挙げ句、知らぬ間にベッドに寝ているし。
「そうしないと、私が姉上に叱責されますので」
「クロードさんにはお姉さんがいるのですか?」
「はい、おります。その姉上より必ずエトラを夕食前には家に戻すよう強く厳命されました。故に、急いでいるのです」
「そうなんですね。けど、何故そのような命令をお姉さんが?おじい様とおばあ様には私がヤマト島へ向かった事と理由は伝言していますから大丈夫ですよ」
多分キリさんが上手く言ってくれていると思うんだよね。
儀式が終わるまで帰りません的な。
「いいえ、いけません」
私の答えにクロードさんは慌てて否定的な言葉を言う。
「エトラが夕飯を自宅で食べないなど、到底姉上が許してくれません」
「何故クロードさんのお姉さんが許してくれないのでしょう?」
別に、私がどこで夕食を摂ろうが問題ないと思うんだよね。
それに、大事なことなのでもう一度言うが何故か最近夕食時の記憶がないし、気付けば朝でベッドに入っているという摩訶不思議な現象が続いているし、特に夕食にこだわる気持ちもないんだよね。
「これは、私の生存危機と言っても過言ではない程の重要事項なんです。エトラには夕食前に転移の魔術位は習得して貰います。出来なければ今日は私が自宅まで送ります。いいですね」
有無を言わさぬ迫力でクロードさんに押し切られてしまった。
けど、転移の魔術って簡単に出来るものでもない。
そんなものが簡単に出来ていたら世の中暗殺し放題になってしまう。
敵将の首も簡単に取れて戦争自体なくなると思うんだよね。
転移の魔法は古代の秘術みたいな感じで本に載っているのを見た位だ。
確か、どこかの神殿とどこかの神殿に転移装置があり、数人の魔術師で作動させるって読んだことがある。
つまり、1人でそんな魔術使えるとは思えない。
「クロードさん、そんな奇跡みたいな魔術無理ですよ」
「エトラは一度使っているだろう。無意識だったとは思うけど」
何時そんな魔術を使ったのか?
私の疑問を察したのか、クロードさんはニヤリと笑うと
「エトラはどうやってユグスに来たんだい?」
ユグス、それはあの港町の名前だ。
「人は命の危機に直面すると思ってもみなかった能力を発揮することがある。火事場の馬鹿力とか窮鼠猫を嚙むとか」
「えっと、後者は違いますよね」
クロードさんに言われて初めて気づいた。
確かに、あの時転移の魔術を使ったと言われれば納得も行く。
あまりにも色々ありすぎて考えもしなかった。
今にして思えば、何故私はハンナさんの家にいたのか。
「今考えている事も全て含めて教えてあげよう。けど、今日は夕食前までに転移の魔術の取得を最優先とする」
何故なら、今姉上は美食ブームだからだ。
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