ヤマト島へ上陸しました
海から逆流していた川はやがて大きな湖へと流れ込んでいた。
東京ドーム十杯分の大きさはあろうかという程の湖は、不思議な事に波もなく静かな静寂に包まれている。
この規模の湖なら先程の海から流れ込む水の流れに影響され波が出来ていても不思議ではない。
けど、川からの影響も、船の移動で起こる波も湖には何の影響もせず、湖は静寂そのものだった。
私達の乗っていた船は川から入り、そのまま湖の中央を横断するような形で対岸へと進んだ。
やがて、船着き場が見えたかと思うと、緩やかな速度で船は停船する。
停船した船の中央でリナさんは深々とお辞儀をすると一回大きく手を合わせる。
パーンという大きな音が辺りに響いたと思ったら、船はいつの間にか先程見えていた船着き場に到着していた。
「ようこそエトラちゃん、我らが島へ。歓迎するわ」
リナさんは私の手を取ると、ウシオさんが準備してくれた渡り板を通り船から下りる。
桟橋を渡っていると陸地に沢山の人集りが見え知らず緊張してしまった。
集まっている皆さんは全員漢服を着ており、何かのロケかと思うような雰囲気を醸し出している。
「お帰りなさいませ、リナ様」
先頭に立っていた20代前半位の男性が前に進み出て深々と頭を下げる。
黒髪に黒曜石のような瞳、目鼻立ちがスッキリしており、正直今まで会った男性の中でこれ程の美丈夫がいただろうか?と思う程の美人さんだ。
本来ならイケメン拝めたと喜ぶ所だが、イケメンを通り過ぎていて、ここまで来ると同じ人間とは到底思えない。
そんな彼は何処となく作られたような営業スマイルを称えて私達を出迎える。
マジマジと見つめていると黒曜石のような瞳と目が合った。
「そちらが新しい巫女様ですね」
ヤバい、ガン見していたのがバレた。
どこか気まずい思いをしながら、私はリナさんに連れられるまま、あの美丈夫の男性の所まで進んでいた。
「私のような者に『様』付は不要と以前にも申し上げました」
堂々とした声でリナさんはその男性を諫めるが、男性は涼しい顔で「一応人間達のルールに添ってやっているんだけどね」と、何故か私の方を見てウインクをする。
そんな男性にリナさんは深い、それは深いため息を吐いた。
「まぁ、貴方様がそれで良いなら別に良いわ」
リナさんの様子からすると彼はリナさんと対等な立場かそれ以上と推測される。
それに、何故か彼からは人間味を感じない。
なんと表現すべきか、底知れないオーラを感じるのだ。
「それと、この子が新しい巫女のエトラちゃんよ」
そっと背中に手を回され私はリナさんによって前に出される。
「エトラと申します」
深々とお辞儀をすると、彼は「クロードです。エトラ様」と、手を差し出して来る。
私は彼の差し出した手を取るとそのまま握手を交わした。
「クロード様。宜しくお願い致します。私の事は様はつけなくて大丈夫です。エトラとお呼びください」
すると、クロードと名乗った彼は営業スマイルだった顔をニヤリと一瞬綻ばせた。
あれ、意外と人間臭い?
お読み頂きありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。




