白い生き物は神使です
ピョコンと白い丸い物が船に近付いて来る。
そして、船の脇に辿り着くとザバンと音を立てて頭を出した。
ニュルニュルとそれは長〜く。
「ピュ〜」
「えっ、えっ、これ何?」
とても大きな長い生き物が現れた。
ヌルヌルしていて、微妙な感じですが何の生き物でしょう。
「神使と言えば海ではうなぎ様でしょう」
ドヤ顔でそう宣言するリナさん。
「えっ、神使ですか?」
神使ってほら、もう少し何か違う物があると思うんだよね。
ユニコーンとか龍とかイルカとか、もうこの際海ならタツノオトシゴでもいいじゃない?
何故海でうなぎ?いや、海にもいるけど、それに何故に鳴き声ありなの?
「あの、うなぎって鳴かないと思いますけど、本当にうなぎなのでしょうか?」
大きさといい、鳴き声といい、色々突っ込みたい所はあるが、取り敢えずそれは一旦置いておこう。
問題は、この生物が本当にうなぎかどうかと言う事だ。
「こちらにいらっしゃるのは神使で間違いないです。つまり、我々の常識から逸脱していたとしても何ら不思議ではありませんと言う事です」
更にドヤ顔のリナさん。
「分かりました。そう言うことにしておきましょう。で、そのうなぎ様を呼ばれた理由をお聞きてしても?」
私の問いかけにリナさんが眉根を下げる。
「実は先日、うなぎ様が子供達を連れてバカンスへと行ったのですが、その時にあろうことかうなぎ様の子供が釣り上げられてしまい、危うく食べられる所でした」
「ピェ〜ン」
大きなうなぎ様の隣に赤茶けた小さなうなぎ様が現れる。
小さいと言っても人間の大人よりは大きな体格だ。
「あろうことか、丸焼きになる所をうなぎ様が救出してのです」
ん〜、色々と突っ込みたい所は多いよ。
神使であるうなぎ様が家族でバカンスとか、間違って釣られたとか、丸焼き?にされそうになったとか、色々ね。
「それでですね、神使であるうなぎ様の眷属であるお子様を回復させる事がなかなか難しくて、私の力では瀕死の状態からここまでが限界だったの。エトラちゃん、お願いできる?」
「あの、先程も言いましたが私魔術の勉強はしてないんです。それを、回復魔法だなんて・・・」
「魔法はイメージが大切なんです。呪文と言うのはそのイメージを具体的にやりやすくする為の手段なんです。だからイメージして下さい。うなぎ様の子供がキレイな白色になる姿を」
リナさんはそう言って子うなぎ様を指し示す。
ウルウルと私を見つめる子うなぎ様。
「わ、分かりました」
負けた。
色々な意味で敗北感が凄いが、引き受けたからには頑張るのみ。
私は甲板の縁まで歩くと子うなぎ様を見る。
微かにうなぎの蒲焼のような美味しそうな匂いがしたのはこの際黙ってよう。
右手をかざし、強く子うなぎ様が元の姿に戻れるようにと願う。
すると右手の甲から光が発せられ、その光は次第に右肘にまでと届いたと思った瞬間、子うなぎ様も光出す。
その光は次第に消えていき、後には真っ白い子うなぎ様が現れた。
「やればできるじゃないですか。エトラちゃん」
結果にご満悦のリナさんがまんめんのえみ満面の笑みを称えて拍手してくれた。
「本当に使えた」
驚く私に子うなぎ様はバシャバシャと大はしゃぎをし、親であるうなぎ様は船の周りをクルクルと回る。
やがて、右手の甲から現れた光は次第に消えていき、後には何も残らなかった。
「やっぱりエトラちゃんは寵愛を受けていたのね。それも、光の神の」
お読み頂きありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。




