取り敢えずの落とし所
「キリさん。ここは男らしく認めましょう。証人が二人もいるんですから」
「いや、ちょっ、ちょっとお待ちくださいエトラ様。誤解なんです。私たちの間に何もやましいことはありません」
キリさんは酷く焦ったように私にすがりつく。
確かに昨日の私のファーストキス事件の件もある。
リナさんの痴女説は私の中では未だ有効だ。
リナさんには前科があるだけに、キリさんが嘘をついているとは100%言えない。
チラリとリナさんとウシオさんを見る。
ウシオさんは私と一緒の目撃者、犯人と思われるリナさんと相談して罠を仕掛けたとは思えないし、気絶したキリさんをリナさんに預けて、ウシオさんと私はずっと一緒にいたのだ。
ここは純粋にリナさんを信じた父親の行動と考えるのが妥当だろう。
問題はリナさんだ。
彼女の行動は私の予想の斜め上を行き過ぎていて想像も出来ない。
いやいや、正直理解できない。
変人とか不思議ちゃんの域だ。
故にこの事件は迷宮入り案件だ。
うん、そうしよう。
「キリさん、歳はお幾つですか?」
「今年で29歳になりました」
「恋人、もしくは結婚は?」
「私の恋人は仕事です。結婚などしている暇はありません」
出たよ〜!仕事が恋人説。
「ちなみにリナさんって可愛い?」
キリさんはチラリとリナさんを見て言葉に詰まる。
「客観的には可愛い部類だと思います」
またしても出ました、客観的意見。
「キリさん。今の回答は私の質問に対して逃げています。私はその他大勢の意見が聞きたいんじゃなくて、キリさん個人の意見が聞きたいんです。蓼食う虫も好き好きって言うじゃないですか?」
ビシリとキリさんに指摘してあげると、ギャラリーになっている後ろの2人が「蓼」「食う」と妙な反応を示す。
「つまりですね。私が言いたいのは蓼も食ってみなきゃ分かんないって事ですよ」
すると、キリさんは目を見開き私を凝視する。
そして、後ろの二人は何故かまた「食う」の部分に反応して盛り上がっている。
バカ親子だ。
「私が言いたいのはですね。つまり、とりあえず付き合ってみたらどうですかって言うことです。それからどうするか決めましょう。あんなでもリナさんはヤマト島の巫女さんなんですから」
『私が言いたいことわかりますよね』と目で訴える。
キリさんは深い、それは深いため息を吐いて「それがボス命令でしたら」と、何かを諦めたような顔でリナさんとウシオさんの方を見た。
えっ、キリさんって業務命令で女性とお付き合いするタイプなの?
どこまで仕事人間?
ってか、命令って言うよりは何となくお似合いだと思うから言ったんだけど、これってお節介ババァ?
まだ私10歳なのに。
「取り敢えずお試しと言う事でどうでしょうか?」
キリさんは紳士的にリナさんに手を差し伸べる。
勿論、リナさんの返答は決まっている。
「是非、宜しくお願いします。キリさん」
旦那様呼びでないだけマシになったと思おう。
「ただし、リナさんから迫るのはなしでお願いします」
「えっっ」
キリさん、流石はレンジ氏が寄越しただけあり、ただでは受けなかった。
「証人が二人もいますから大丈夫ですよね。リナさん」
ニコリと微笑むキリさんに、何とも言えないと気持になる。
案外キリさんは根に持つタイプなのかもしれない。
気を付けよう。
話がまとまった所でキリさんを引き連れ帰ろうとするとリナさんに呼び止められた。
「エトラちゃん、何か勘違いがあるようだけど、私、今はもう巫女じゃないから」
一歩踏み出した足を止めて後ろを振り返る。
「だって、この前エトラちゃんに渡したでしょう」
渡したとは、なんぞや?もしかしてあの・・・
「うん、そうだよ。だから今はエトラちゃんが巫女なの。その内、形だけの巫女の継承式をするからヨロシクね〜」
「そっ、それこそ詐欺だ〜!!聞いてないですよ」
「うん。言ってないもん。私、その時寝ちゃったし」
あっけらかんと言うリナさんを見て『ごめんキリさん。確かに冤罪だったかも』と、思ったのは言うまでもない。
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