ファーストフード店
さて、何故今ファストフード店なのか?と言うと。
パン屋さんのはずの自宅が気付けばファーストフード店化していたからです。
お惣菜を挟んだパンが滅茶苦茶売れてしまい、気付いたらパン屋なのに売上の殆どが芋料理とお惣菜パンで、ハンナさん達のパン屋さんから逸脱する勢いで侵食していた。
あの、のどかなパン屋さんは何処に?
決して閑古鳥が鳴く時代に戻りたい訳ではないが、ここの店員の人達が疲弊していて繁盛し過ぎるのも考えものだと痛感している今日この頃である。
聞けば、ここはハンナさんの実家で昔ながらのパンを作っていたのだと言う。
金儲けも大切だが、思い出も大切だと思う。
そして、考えたのが新店舗。
お店の場所も港から近い所が良いと、大体の目星は付けている。
何せ、この街で食べる暇もない人達が働いている場所が港なのだから。
因みにこの世界、お弁当と言う概念はあまりないようで、基本的には家で食べるか、お店で食べるのが普通である。
故に手軽に食べれるファストフード店は流行ると思う。
それが軌道に乗ったら色々な飲食店を手がけてもいい。
「さて、お店の場所の視察の前に朝食を食べましょうか。キリさん」
私はそう言うと半ば強制的にキリさんを食卓へと連れて行く。
私は今日からお店に出す予定のコッペパンにレタスと照焼き肉を挟んだ物をキリさんの前に出す。
今までは食パンに挟むタイプの物だったので、本当に今日初試食になる物だ。
「これは、今までの物とは違いますね」
キリさんはそう言うと大きく口を開けパクリとパンに食い付いた。
今日のお惣菜の間には薄く切ったトマトも仕込んでいる。
そして、パンの断面に塗ったのは私秘伝の特製ソース。
「これは・・・大変美味しいですね」
ただ単にパンに食材を挟んだたけなのだが、キリさんは目を丸くして少しの間パンを見ていた。
「そんなに見つめなくても誰も取ったりしませんよ。どうぞ召し上がってください」
私は食事の再開を促すと、キリさんは直ぐにパクパクとパンを平らげてしまった。
「如何でしたか?」
キリさんにそう問いかける。
勿論、キリさんの反応から回答が分かっていて聞いているのだ。
「私は、このような料理を出すお店を作りたいんです」
勝ち誇ったように私はキリさんに宣言する。
「成る程、理解出来ました。今現在の料理店は基本的に座って食べるような料理を出す事が一般的です。が、このような料理は移動しながらでも食べられるし、私のような人間にはとても魅力的なお店だと言えます」
そうですよね。
何せ、キリさん一日何も食べなくても大丈夫ですって言う位忙しい仕事人間ですからね。
この世界にもブラックな職場があるって事ですよね。
「これならレンジ様も高額な出資をして下さると思いますよ」
「あ〜、それ程高額でなくても大丈夫ですよ。基本的にテイクアウトを見越して店舗を購入する予定ですし、屋台も考えていますので」
私がそう言うとキリさんの周りの温度が急に下った。
「屋台とは露店のようなものですか?」
「露店?」
キリさんが怒っている理由がやっと理解出来た。
この世界の露店とは貧民街で商いをしている人達のことを示している。
「あの、何か誤解があるみたいですけど、屋台と言うか、出店を出すと言う意味でですね〜。夏場なら海辺の近くとか、お祭りをしていれば、その近くの広場とか。移動出来る屋根付きの店舗と思って頂ければ良いかと」
それでもキリさんは納得がいかないご様子。
「まぁ、それは追々と。そう考えているだけで、まだ素案も出来てません。どちらにしろキリさんに相談しますよ」
そうは言ったけど、私、結構本気です。
お読み頂きありがとうございます。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。




