レンジ氏の補佐をしています、キリさん登場
翌日、仕事の早い行政官様は約束通りレンジさんとの仲立ちをしてくれる人材を朝もこっ早く寄越してくれた。
「おはようございます。私はレンジ様の補佐をしております。キリと申します」
年の頃は30代半ばの黒髪に黒眼のオリーブオイル顔のイケメンの男性はスーツを綺麗に着こなし、何故か我が家の食卓の入口に立っていた。
「おはようございます。お早いお出でですね」
時刻にすると今は朝の6時と言ったところだ。
そんな時間に髪も服もビシッとさせて登場するなんて、余程朝早くから準備したのだろう。
思わず他人の家に来る時間のマナーについて抗議したいところだったが、その頑張りの方が可哀想に思えて何も言わなかった。
きっと、厳しい上司に朝も夜もなく働かされているのだろう。
「はい。我が主人よりエトラ様のお役に立てるよう申し付かっておりますので、エトラ様には私の事を如何様にもお使い頂いても構いません。本日より宜しくお願い致します」
そう言って深々と頭を下げる。
ん〜、どうしたものか。
「あの、朝ご飯は食べて来ましたか?」
こんなに早く来たのだから朝食抜きもあり得る。
「いえ、朝食は食べなくても大丈夫です。何なら、夜まで食べなくても平気です」
嘘でしょう。
こんなに男らしい男性が飯抜きで、どうやってこの体を維持出来るのか。
「もしかして、カロリーメイトとか栄養補助食品を食べているとか、もしくは、栄養剤とかエナジードリンクでも飲んでますか?」
「カロリーなんたらとか、エナジードリンクとか何の事か分かりませんが、食事も出来ず体がヤバイ時はポーションを飲んでいます」
出た〜異世界特有のアイテム、ポーション。
しかし、あれって戦闘なんかで負傷した時に飲むアイテムだよね。
食事の代わりに栄養を摂るサポートドリンクとしてはどうなのか?
使い方が間違っていると思う。
「実は私どもの商会で雇用している新人の錬金術師が作ったポーションで市場に出すには効果が薄いものを安値で社員に販売しているんです。ですから、ちょっと疲れたかなぁと思った時とかに飲める飲み物です。多分ですが、エトラ様が先程仰っていたエナジードリンクや栄養剤と言う飲み物に該当するのではないでしょうか?」
効果の薄いポーションか、なるほど。
確かに捨てるにはもったいない。
効果の薄いポーションを安値で社員へ販売。
会社も廃棄する必要もなく、社員も多少の効果のある商品を安値で手に出来る。
つまり、わけあり品。
うまい商売だよね。
それに、キリさんの予想は当たっている。
ポーションとは一種のエナジードリンクや栄養剤になると思う。
商売の匂いしかしない。
「因みに、そのエナジードリンクモドキは結構な数がでるのですか?」
エナジードリンクや栄養剤。
日本人の時は職場で飲んだ事のない人はいなかった。
「はい。毎年新人の錬金術師を採用しておりますので、ある程度は」
キリさんはそう言うと一旦沈黙する。
「もしや、エトラ様は失敗作をエナジードリンクとして売られるつもりですか?」
キリさんが心配そうに問い掛ける。
「ん〜。コストと値段によってですけどね。純利益がそれ程ないのであれば意味がありませんし」
一個単位の利益を考えた場合、相場が分からない事にはどうしようもない。
「正直に申し上げますと、ポーションの原価は市場値段の半分位で良くても四わりと言う所です」
すると、利益は少なくとも半分はあるんだ。
頭で計算していると「社員販売は原価での販売にしています。勿論市場を挟んでいないだけコストは下がりますが、それでも購入する社員は少ないのです」
キリさんはそう言うと苦笑いをした。
まぁ、そうだよね。
商業ギルド長も驚く程有名なレンジさんが商売にしないのだから、それなりの理由はあるよね。
「因みに、その原価ってどのくらいですか?」
キリさんはチラッとお店の方を見ると
「フライドポテトの代金でお釣りがきます」
はい、納得。
それじゃぁ、芋売ってた方が良いわ。
後で聞いたんどけど、この世界のポーションは結構優秀なようで、体が切断状態でない限り大体の傷が治せるらしい。
ただし、これは病には効かないそうだ。
下手するとウイルスの方が元気になる事があるからだと言う。
恐ろしい。
故に、あくまでも外傷の治療目的で、その副産物として体力回復もあるらしい。
それと、一般的な治癒魔法は体の細胞を活性化させて治療する魔法が主流な為に、それも病には効かないそうだ。
神官様が言う事には自然の節理に反する行為は神々が禁止しているとの事だ。
確かに、某ゲームのように死んだ人間も生き返る魔法があったり、病も何も全て回復させられたら人類が増加し過ぎてこの世界の生物の形態まで影響を受けてしまうと思う。
だからか、魔法があるけど医療もそれなりに進んでいる。
因みに、回復魔法は光属性らしく、適性がある人は結構レアらしい。
まぁ、魔法適性があまりない私には関係ない話なんだけどね。
お読み頂きありがとうございます。
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