復讐と誓の狭間
私はこの国の第一王位継承者で前国王の息子ユリウス。
兄弟は私の他に姉が二人いた。
どちらも父がご存命の内に、加護を持つ公爵家の嫡男に其々降嫁した。
我が国には五つの公爵家があり、内加護を持つ後継者がいる家は三つで、今回我が王家と婚姻等で姻戚関係を築いていないのはアレックスが後継者になっているレノル家だけだった。
理由は年齢的なもので、その為に父がレノル家との親睦の為にとアレックスと私を引き合わせたのだ。
そんな政治的意味合いが強い関係だが、それでも私達は幼馴染みなのだ。
まぁ、当時のアレックスは3歳、私が7歳と、まるで私がアレックスの子守をしているような気分だったが、その後直ぐに亡くなってしまった父は自身の死期を感じていて私にアレックスを引き合わせたのだと、今なら理解出来る。
父が崩御すると、唯一の後継者である私はまだ七歳と幼く、私が成人して一人で政務を執り行えるであろう二十歳まで叔父であるハインが代理の国王になる事になった。
その際の取り決めも全て神殿が間に入り滞りなく協定を組めたのだ。
叔父は国王である父に本当に尽くしてくれて民の事も思い慈悲深い人で、何事にも勤勉に取り組むような人だった。
私にも何時も甘く、けど、大事な時には叱ってもくれた。
そんな人だったのに。
何時から変わってしまったのか。
父が亡くなる少し前からか。
どこか禍々しいオーラを感じるようになったのは。
そして、叔父が国王になってからは全てが変わった。
使用人達も騎士達も文官達も、全ての城の人間が異常なまでに叔父に傾倒して行く。
それに、折角出来た友のアレックスは、父が亡くなるとジンがアレックスを城へ連れて来なくなったのだ。
アレックスとは手で数える位しか会っていないから、きっと忘れてしまうだろう。
自分も三歳の頃の知り合いと言われても思い出せないからだ。
「ハハハ、全て私から離れて行くのか?」
一時は自暴自棄になっていたと思う。
家族である姉達も叔父を支持して私には会いにも来てくれない。
父だって、健康そのもので槍が降ってきても死ぬような人ではなかったのに。
それが病で死ぬなんて信じられない。
父が死ぬ半年位前から叔父が頻繁に夜に父の元に来ていた。
一度父に聞いてみたが、そんな事実はないと言われた。
そして、城の皆にも叔父が来ている事実はないと言われ、私はとうとう自分が狂ってしまったのかと思ってしまった。
けど、そうではなかった。
「きっと、父の死も、自身が国王になったのも全て計画されていたんだ」
夜になれば皇太子宮には誰もいない。
護衛でさえ宮の外を巡回するのみ。
「誰もいないと思っても、そんな事を大きな声で言うものではありません」
突然自室の扉が開いたかと思うと、そう言ってジンが入って来た。
「ジン」
本来ならレノル公爵と呼ぶべきなのだろうが、そんな気持ちの余裕すらなかった。
「何をしに来た」
挑発するように私はジンを見た。
「殿下が変な気を起こさないように様子を見に来たのです」
ジンはそう言うと大きな箱をベッドの脇のサイドテーブルの上に置いた。
「私の『草』からの報告です。今夜中に読んで頂き、読み終わったら燃やして下さい」
『草』とはスパイと言う意味だ。
それくらいは知っている。
「陛下の『草』も城の至る所にいますのでお気を付け下さい」
ジンはそれだけ言って部屋を去ろうとする。
「ジン待ってくれ、アレックスは元気か?」
何故連れて来ないとは流石に聞けず、そう問い掛けていた。
「陛下の魔素に当てられて熱を出しております。申し訳ございませんが、魔素に耐性が付くまでは城への登城はさせません」
ジンは一礼して今度こそ部屋を退出した。
ジンが去った後、私はジンの置いて行った箱を開け朝まで書類を見る事になった。
内容は私が想像していたものよりも厄介な内容だった。
「叔父上の事も、父が死んだ事も、全てあの禍のせいなのか」
その日、私は確かな敵を認識したのだ。
それから私はジンと共にヤマタノオロチを倒す為の宝剣の捜索を秘密裏に進めた。
その数年後、アレックスが七歳の洗礼式を終え、魔素にも耐性が出来たと言う事で四年振りに登城して来た。
「はじめまして殿下。僕はアレックス・レノルと申します」
昔会っていた事も忘れてアレックスは私に挨拶をする。
「こちらこそ、宜しくアレックス。良き友になろう」
今では唯一の私の友。
やっと会えた。
そんな二人の間に亀裂が入ったのは、父が身罷り六年経った頃だった。
お読み頂きありがとうございます。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。
追伸、執筆のモチベーションアップのため高評価頂けたら嬉しいです。今後も宜しくお願い致します。




