アレックスは下手な演技をする
午後になり、陛下が帰城され謁見が出来る事を侍従が知らせに来た。
「アレックス、大丈夫か?」
ユリウス殿下が心配そうに声をかけて来る。
「ユリウス殿下、ご心配をおかけしてすみません」
俺はそっと胸にしまわれたペンダントのトップに手を当ててそう言うと、ユリウス殿下はニコリと微笑む。
そして、俺はそのまま知らせに来た侍従と一緒に部屋を後にした。
これから会う陛下の前では決して陛下の言う事を否定してはいけない。
結婚式を挙げる前の自分を思い出せ。
あの頃は大き過ぎる父に追い付きたい気持ちが強く、そんな時に陛下が俺を肯定してくれた。
俺の能力を高く評価してくれて、そして俺の将来を輝かしいもののように言ってくれる陛下に俺は次第に心を許していったんだ。
そんな弱い心が、誰かに認められたい一心で陛下に傾倒していったのだ。
多分、そこに俺の心の隙があったのだろう。
それからは、陛下の言うことは全て正しく思え、隣国の王女のことを鵜呑みにし、あんな残虐な計画をあたかも当たり前のように思えてしまうくらいには狂わされていたんだ。
あの日、陛下の言っていた事に初めて否定的な気持ちが募った時、あの忌まわしい精神支配の魔法は氷が砕けるように俺の心から散ったんだ。
つらつらと考えているうちに陛下の執務室前まで来ていた。
俺を案内した侍従が執務室前で警備している騎士にお辞儀をすると、直ぐに扉が開かれた。
「待っておったぞ、アレックス。朝から来てもらったのに、急な用事ができて席を外してしまい申し訳なかったな」
陛下はそう言うと俺を執務室の中へと招き入れる。
執務室の中にはいつも陛下に付き従っている取り巻き達が3名執務を手伝っていた。
その中にはカーター伯爵の元執事の姿もあった。
ユリウス殿下から言われたことを思い出し、彼らの様子を見ると表情が乏しいことに気づく。
「どうした?早く座りなさい」
陛下は入り口で立ち尽くす俺に席を勧める。
「申し訳ございません。陛下。お仕事が忙しいようだったので、俺なんかが入っていいか悩んでおりました」
「何気にするな。君は将来の公爵なのだから彼らとは立場が違う。座ってくれ」
陛下はいつもの気さくな様子で俺に再び席を勧めた。
俺は入り口で一礼してから、いつも座っているソファーのところへと歩く。
「では、お言葉に甘えまして失礼いたします」
そう言ってソファーに軽く腰掛けた。
「神殿に離婚の申請をしていないそうだな」
ソファに座りや陛下はすぐに本題に入る。
「はい。そうです。本来爵位の継承は成人してからのみですが、婚姻している場合は年齢に関係なく成人とみなされるため、爵位の継承がなされます。これにより、私は他のどの後継者よりも一歩前に抜きん出ることができるのです」
いかにも馬鹿な坊ちゃんが考えそうなことを言ってみる。
きっと陛下は気に入ってくれるだろう。
「なるほど。言っていることは分かる。王女は死んだとしても離婚を申請しないでいれば、婚姻はなされてる扱いになるからな。賢いやり方だと思う。さすが将来の公爵だ。君の父君より優れているではないか。まさに私が見込んだけのことはある」
そうだ、これだ、陛下のこの言葉に俺は勘違いしたんだ。
俺が認められていると。
「実は陛下、私はこれからアカデミーに入学する前まで、父を超えるために魔術の鍛錬をしたいと思い、冒険者になろうと思うんです。先々代の将軍はアカデミー入学前に武者修行と称して冒険者をしていたと聞きます。私も将来陛下を支えるため切磋琢磨したいと思っております。私が修行の旅に出ることを許可願えますでしょうか」
「許すもなにもない。ちょうど妻君が亡くなったのだ。傷心旅行のつもりで行ってくるがよい。そしてアレックスがさらに強くなり、私を支えてくれるのを心待ちにしておるよ」
「ありがとうございます。陛下の御心に添えるよう精進したいと思います」
そう言って俺は立ち上がり、深々と一礼した。
お読み頂きありがとうございます。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
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追伸、執筆のモチベーションアップのため高評価頂けたら嬉しいです。今後も宜しくお願い致します。




