ユリウス殿下と再会。アレックス2
俺はユリウス殿下の話を聞いて、ストーンと心に落ちるものがあった。
「君にだから言っているんだ。陛下の精神魔法を解いた君だから」
ユリウス殿下はそう言うと食事を開始する。
俺は呆然とそんなユリウス殿下の姿を眺めていた。
「今日はジンに頼んで陛下を外出させているんだ」
ジンとは俺の父の名前だ。
ジン・レノル。
レノル公爵家の当主にして、宰相をしている。
闇の加護持ちで魔術師としても最高峰だ。
仕事が忙しいのか、ほとんど家には帰って来ず、顔を合わせたのはいつのことだったか?
ああ、そうだ。
俺が隣国の王女と結婚する話が出た時以来だ。
あれから会っていない。
「精神系魔法は熟練した魔術師でも防ぐのは難しい。だが、神殿の聖物に精神系の魔法を防ぐものがある。君にも一つあげよう」
そう言ってユリウス殿下は何の飾り気もないネックレスを俺に寄越した。
「光と闇のニ柱神の神殿でそれぞれ祈祷していただいたものだ」
俺はユリウス殿下から受け取ったネックレスを服の中に隠れるようにつけた。
「このネックレスは精神魔法にかかっていない状態でしか効力がない。すでに精神魔法にかかっている者には意味がないんだけど、君は自力で精神魔法を解いた。故に、再びあの魔法にかからない為に渡しておく。ただし、気を付けてくれ。陛下に魔法が効いていないとバレないように」
「分かった気を付けるよ。今日陛下に会う時は以前の俺を思い出して対応をする」
「ああ、そうしてくれ。それと陛下の側近達にも気を付けろ。全員精神支配された者達だ」
ユリウス殿下はそう言うと悲しそうに目を伏せた。
陛下の側近達、それは常に陛下の足になり動いている者達だ。
役職も特になく何の報酬もなく、それでも陛下のために尽力している者達。
それが精神支配されているためと言われれば納得もいく。
何せその側近たちの中にはあのカーター伯爵の執事も含まれていたからだ。
子供の俺でも知っている。
カーター伯爵は陛下に嵌められ、領地も何もかも失った貴族だ。
それをカーター伯爵の執事が陛下に直訴しに来て、気付いたら側近達の列に並んでいた。
それを見た他の貴族達は陛下に下手に逆らわないようになった。
いつ自分がカーター伯爵の二の舞いになるか分からないからだ。
「アレックス、今まで悪かったな。あの結婚式以来、君に連絡しようと思っても、君の屋敷には陛下のスパイが居る為に私は君に会いに行けなかったんだ。今日、私が君と会った事も陛下の耳に入るだろう」
「そうですね。既に報告を受けているかもしれません」
「さっきのペンダントだけど、君のその右手の指輪と同じで相手の生死も分かるようになっている。けど、オプションで通信機能もついているんだ。何か困った事があったら連絡して欲しい。アレックスは私の筆頭補佐官になるのだろう?」
聖物も魔導具の一つだ。
俺の右手の人差し指に嵌めてある指輪はスパイ活動をしてくれている部下の7人までの安否のみ分かる仕様になっている。
それでも、屋敷が何件か買える程の値段だった。
今回のこの一見シンプルなネックレスは俺の安否だけでなく、通信機能も付いているという。一体いくらの値段がかかっているのか、想像もしたくない。
「ハハハ、参りました。完璧に俺を管理するつもりですか?」
俺はそう言ってユリウス殿下を見た。
何時も通りのポーカーフェイスに本気の度合いが見える。
「そうだね。こちらも大切な人員をこれ以上取られる訳にはいかないのでね」
ユリウス殿下はそう言うと妖しく笑んだ。
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