ドンさんの正体
「私はカーター伯爵家に代々執事としてお仕えしている家系の者です。今回の事は巫女であるリナ様のお願いがあり、エトラ様に引き合わせました」
俯きながらドンさんは話し出す。
「ドンさんはカーター伯爵家の執事だったのですか?」
もし、そうなら私が本物のエトラ・カーターでない事を察している可能性がある。
「いえ、カーター伯爵家の執事だったのは私の兄です。その兄は今王宮で国王陛下の補佐官をしています。あんなにカーター伯爵に忠実だった兄が、今はカーター伯爵家を陥れたあの国王に仕えてるんです。とても信じられません」
実際本当にカーター伯爵家に忠誠を誓っていたかどうかは分からない。
「兄はいつもカーター伯爵を第一に考え、自分の家族よりも大事にしていたような人なんです。そんな人があの国王に忠誠を誓うなんてあり得ない。そう思い、巫女様にご相談した時に今回の話を持ちかけられました。決してエトラ様を困らせたかったわけではありません。それだけはどうか分かっていただきたい」
ドンさんは真っ直ぐと私の方を見てそう言った。
その真剣な眼差しに嘘はないということは理解できる。
けど、なんか自国の国王をめちゃくちゃ悪く言っている気がするのは気のせいだろうか?
「あの、先ほどから国王陛下に忠誠を誓うのが信じられないというフレーズに、いかにも国王がカーター伯爵に対して酷いことをしたように思われるのですが」
「その通りです。あの国王はもともとは前国王の弟で宰相をしてました。10年前です。カーター伯爵がこの港を整備するために、その予算を国に助成していただくために初めて宰相に会ったのは」
どこか悲しそうにドンさんは話を続ける。
「現地調査のために来た宰相は人柄も良くとても話の分かる方でした。当時ヤマト島へ行く時に私も同行したのですが、島で一泊した後から雰囲気が変わってしまったように思います」
「雰囲気が変わったとはどういう風にですか?」
「見てるだけで背筋に冷たいものが流れるような、そんな感じです。きっとヤマタノオロチの祟りなのでしょう。部外者である宰相を島に泊まらせてしまったから。あそこの島は聖域なのです。決められた一族の血を引く者達だけが立ち入れる場所なのです」
えっと、でも私、次期巫女になっちゃったんですけど。
「それにカーター伯爵があのようなことになったのも、全てあの国王のせいなのです。当時宰相だった彼にカーター伯爵は資金繰りのことで相談をしたそうなんです。すると、ある商人を紹介され、鉱山を購入したそうなのです。しかし、購入した鉱山は既に何も取れない廃鉱山だったんです。そんな卑劣なことをしたあの男を私の兄は何を考えて仕えているのか、理解し難い事です。兄とはそれ以来連絡さえもとっていません」
ドンさんはそう言うと苦虫を噛み潰したような顔になり、うつむいてしまった。
また国王だ。
私の婚姻も国王の後押しだったと聞く。
なんとなく嫌な予感がする。
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