行政官様の言う事には
「脱帽です。まさか、こんな子供にそのような考えが出来るとは」
ギルド長の執務室の奥の扉が開き、そこから如何にも貴族風の男性が現れた。
年の頃は20代後半か30代といった所だ。
ダークブルーの髪をしっかりと撫でつけインテリ眼鏡をかけた如何にも出来る管理職風の人だ。
「行政の方に貴族から農民が騙されていると、苦情が多く届いてね。調査をしに来たと言う訳だ。最初にドンさんからも話を聞いていたが、口裏を合わされる恐れがあったので、この場でそのまま待機させて貰っていたんだよ」
行政官様はそう言うと私に手を差し出してくる。
えっと、これは仲直りの握手かな?
「誤解が解けたのでしたら幸いです」
そう言ってその手を取る。
一応、これで終わりだよね。
そう思っていると、行政官様はなかなか手を離してくれない。
「午前中からドンさんに詳しく今の実状の話を聞いてね、行政の方でも何か手助けを出来ないかとは思ったんだが、何せ行政の仕事は縦社会だからね。上からの許可が下りないと何も出来ないんだ。けど、その許可を出す方々も貴族でね、件の苦情を寄越した貴族の中にも行政の議事に籍を置く者もいるのが現状だ。それでこのままでは色々法的にも不味いし、農家一軒一軒では貴族の力には勝てない」
行政官様はそこまで言うと更に握った手に力をいれた。
「それで、どうだろう君の商会の外部団体として農業部門を設立して、農家の皆さんに加盟して頂いては?商会の加盟店扱いになれば農家も今までの弱い立場ではなくなるはずだ」
「外部団体ですか?」
「このままでは貴族連中が農家に武力行使する恐れもある。力のある商会が間に入ってくれれば、馬鹿な貴族の牽制にもなると思うんだよ」
えっと、行政官様も一応お貴族様ですよね。
貴族をそんなに悪く言っていいのでしょうか?
「そうでないと、君が引き込んだドンさんが矢面に立たさせる事になるね」
あれ何気に私、脅されている?
「分かりました。けど、正直言いますと我が商会の事務方がいないのが現状です。今は私が兼務していますが、外部団体もとなると正直手が足りないんです」
社内事情を暴露するのは良くないけど、こんな子供に面倒事を頼むんだから良い人材を紹介して貰いたい。
期待の眼差しでギルド長と行政官様を見ていると、行政官様がニコニコ顔でそれに応える。
「実は、今回の話を聞きつけましたルノー・レンジ様より、こちらの商会へ人材の斡旋と出資をしたいとのお話を頂いております。本日私がこちらへ参ったのもルノー様の代理としての意味合いが強いです。エトラさんの同意を得て事業提携をしたいとの事です。出資をしたからと言ってルノー様がカーター商会の事業に口出しする事はありません。あくまでも、支援者という立場から若い人材の育成をしたいとのことです」
行政官様が話を終わるとギルド長が悲鳴を上げる。
「すみません。私、世情に疎くて、そのルノー・レンジ氏の事を知らないんです」
私の言葉に再びギルド長が悲鳴を上げる。
レンジなら知っているけど、あの『チン』すると温まるやつだよね。
このジョークは多分この世界では通用しない。
「レンジ氏を知らないとは、そちらに驚きですよ」
ギルド長がようやく悲鳴以外の言葉を発した。
「レンジ氏は鉱山経営で莫大な資産を作ったと噂されている大企業の会長です。が、表舞台には何時も副官の代理の方しか出て来ず、彼がどのような人物なのかは詳しくは知られていません。ただ、彼の企業が手掛けている分野は医療や武力、大型小売店や百貨店、食堂に運搬業、極めつけは各国に店舗を持つ銀行とその手腕は既に神の領域です」
ギルド長はそこまで言うと何かを崇めている。
気のせいか、その後ろに後光さえ見えてきそうな勢いだ。
まぁ、取り敢えず、ギルド長の様子からレンジ氏の凄さだけは理解した。
お読み頂きありがとうございます。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。
追伸、執筆のモチベーションアップのため高評価頂けたら嬉しいです。今後も宜しくお願い致します。




